第2話
十輪寺栄人が召龍学園に入学する五年前。額に絆創膏を貼った栄人は、自宅に帰りながら自分のことについて考えていた。
(やっぱり俺って十輪寺栄人なんだよな……)
十輪寺栄人は転生者であり、今日の小学校での体育の授業でサッカーをしていた時、クラスメイトが放ったボールが額に直撃した衝撃で前世の記憶を思い出した。最初はボールが頭に当たった衝撃で記憶が混乱しているのではと思っていた栄人であったが、こうして時間が経っても自分の意識と記憶が正常で、思い出した前世の記憶も本物であると確信するのであった。
栄人の前世はゲームや漫画が趣味な会社員で、特に「Dragon&Dragoon」という名前のカードゲームが好きだった。そしてその前世の知識が、今自分がいる世界がカードゲームの世界だと教えてくれていた。
テレビや新聞を見ればカードゲームの情報があるし、道路を見れば車やバイクに混じってカードゲームのモンスターが呼び出した人間を乗せて走っている。数日前まで普通だと思っていた世界だったが、今の前世の記憶を取り戻した栄人には完全な異世界にしか見えなかった。
(しかも十輪寺栄人って……。これって間違いなく『Dragon&Dragoon』というか、『ドラグーン・アカデミー』の世界に転生したってことだよな?)
ドラグーン・アカデミー。
それはカードゲームの「Dragon&Dragoon」を家庭用ゲーム機に収録して、一人でも遊べるようにしたゲームのタイトルである。そしてドラグーン・アカデミーにはストーリーを楽しみながらカードゲームのルールを学ぶストーリーモードがあり、十輪寺栄人はそのストーリーモードに登場する主人公と序盤で戦う悪役だった。
十輪寺栄人は家が金持ちという設定で、学生なのに二人のメイドを常に連れて歩き、金の力でカードを揃えているという典型的な金持ちキャラだ。しかも傲慢な性格で二人のメイドの一人によく辛く当たっていて、それが原因で主人公と戦うことになるのだが、序盤にしては性能がいいカードを大量に揃えているにの関わらず負けてしまうため、プレイヤー達からの評価が低かったりする。
そんな悪役に転生してしまったことに落ち込む栄人であったがすぐに気を取り直す。
(いや……。まだ原作のゲームが始まるまで数年の時間があるんだから、今からでも改善すれば悪役から脱却することもできるはずだ。……それにしても)
そこまで考えた所でちょうど栄人は自分の家に辿り着き、自分が着ている服と自宅を見て考える。
(この格好……俺は本当にゲームの十輪寺栄人と同一人物なのか?)
栄人が今着ている服はもう何年も着ているのが一目で分かるくらい古く、更には自宅は古い安アパートの一室で、とてもではないが家が金持ちという設定であるゲームの十輪寺栄人の幼少期のイメージとはかけ離れていた。
機竜戦騎Dragon&Dragoon 〜序盤で倒される悪役に転生したが、主人公達が弱すぎる!?〜 兵庫人 @0191
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