第10話


「ディオ、おっはよー!」

 ディオより先に起きたルルカがディオを起こしに来た。

「ん・・・おはよう母さん。ん?まだ外ちょっと暗いような・・・何時?」

「んふ。ごめんねっ。ついにドレスが着れると思うと目が覚めちゃって~。朝ご飯これから作るから、畑仕事お願いっ」


 ルルカはディオの部屋のカーテンを開けるとその美しい容姿に上ってきた朝日の後光を浴びながら振り向いた。

 この母は本当にドレスを楽しみにしてるんだなと寝ぼけ眼で内心呆れながら欠伸をした。


 寝巻から着替えて顔を洗い、サクッと畑仕事をこなして家に戻る。

「終わったよ~」ディオが家のドアを開けると、温かい美味しそうな匂いが鼻をかすめた。

「いつもありがとうディオ。もう出来るわ。」おたまを持ったルルカが優しく迎え入れた。

 手を洗って食卓に着くと、ルルカが「お待たせ~」とスープを目の前に置き、自身も向かいの席に座った。


 スープだけというのは質素に見えるかもしれないが、具沢山のスープには野菜の他、小麦を練って一口サイズにちぎった主食に代わる炭水化物もちゃんと入っている。ルルカはまだ見ぬドレスがどんなものなのかと夢見心地で喋り、ディオはそんな母が微笑ましいなと、うんうん、と相槌を打った。


 朝食を終えた二人は、村の城下町行の馬車へと向かった。

「おはよう、みんな」集まっていたマックスやエンリット、他の住民たちに挨拶をして馬車へ乗り込んだ。


 村のみんなが交易品となる野菜たちを積み込み終えると、馭者のマックスが最終確認をし、馬車は城下町へと出発した。


 城下町に着くなり、ルルカは一番に馬車を降りた。続いてディオも。

「マックス、今日は診療所じゃなくブティックに行くから。大丈夫だと思うけど、何かあったらブティックに来てね」

「中央の噴水広場のアドワード・ブティックか。そうか、例の祝いの席の為の服だな。わかった。いつも通り昼過ぎには村に戻るから、それまでには戻ってきてくれよ」

 ルルカの上機嫌な「はーい」という返事と共に手を振りながら、二人は馬車を後にしてブティックに向かった。


 いつもは目的地まで一直線で向かうため、気に留めてなかったが、色々な露店が出てるもんだなとディオは歩きながら思った。露店だけではなく、小さな民芸品店や平民向けの食器屋などが連ねている。足元の中央の噴水広場へと続くこの道は、綺麗なタイル敷きに、景観を損ねないように左右に目立たないように造られた側溝。

 今日はブティックに服を受け取りに行くだけだからか、ルルカの浮かれたスキップの歩調に合わせて街の様子をゆっくり見れた。今まで何度も来ているはずなのに、何故か今日は新鮮に感じる。もしかして、ルルカだけでなくディオも無意識の内に楽しみにしているのかもしれない。

 中央の噴水広場の噴水も、いつもより輝いて見えた。

「ディオー!行くわよー!」

 噴水を見上げていたディオをルルカが呼んだ。


 チリンチリン、とアドワード・ブティックの扉を開けると、

「お待ちしておりました、ルルカ様、ディオ坊ちゃま」

 ダドリア、ルイが中央に立ち頭を下げ、その後ろにブティックの従業員たちが一列に並んで同様に頭を下げた。

「おはよう、ルイ。マダムも。」ディオは頭を上げるようにとルイに駆け寄った。

「おはよう、ディオ。ルルカ様」頭を上げたルイの顔は、自信に満ち溢れた笑顔をしていた。

「最高の一着だと約束する。さっそく着てみて!」

 ルイがパチンと指を鳴らすとルルカとディオを再びそれぞれ試着室に従業員たちが連れて行った。


 数十秒後、それぞれの試着室のカーテンがほぼ同時に開いた。

「んん~!最高ですわ!ルルカ様!」

「うん、ディオも似合ってる!」


 モスグリーンを基調とした生地を黒で縁取りをし、袖回りは大きく黒地の布を使い、金色の糸を使った刺繡が目を引く。

 ルルカのドレスはデコルテを綺麗に見せるために大きく開いていたが、その縁を綺麗なレースで縫い、下品さはなく、ドレスの裾には黒地の上に上品なレースを縫い付け、華美な装飾はなくとも、洗練されたデザインがルルカの茜色の長い髪と新緑の瞳が加わるとまさに“完成”されたデザインだった。

 ディオも同様に、モスグリーンを基調とした生地に黒の縁取り、袖回りは黒地の布に金色の刺繍。後ろの燕尾部分は他よりも大きく黒地で縁取り、金色の刺繍が目を引くデザインになっていた。こちらもディオの茜色の髪と空色の瞳に良く似合っていた。むしろディオの茜色と空色が加わる事によって“完成”されるように作られたようだった。


「わぁ・・・」ルルカは感嘆とした声を上げると、右にひらり、左にひらり、鏡を見て再び

「わぁ~!」と子どものように嬉しそうに何度もくるくると回って見せた。

「母さん、とっても似合ってるよ」

「ディオも!とってもかっこいいわ!」ディオが褒めるとルルカはディオの姿を見て、また感嘆した声を上げた。

 うん、確かに服に興味も知識もない俺でも感じる程、母さんと俺、それぞれの為だけに作られたデザインだと強く感じる。


「どうだいディオ。着心地は」ルイは尋ねながらも自信を持った声をしていた。

「最高だよ。これに似合うカフスボタンを探さなきゃ。」ディオは袖口を触りながら言った。

「カフスボタンはゴールドが色合い的には似合うかな」ルイの顔は職人のそれだった。

 たったあれだけの採寸で、打ち合わせも何もせず、その本人を最も引き立てる服を作る事ができる。加護を授かっているとは言え、マダムとルイの才能は本物だ。

 腕や脚を曲げ伸ばししても、どこも突っ張ったり違和感はない。大きすぎるという事もない。

 金色の刺繍は目を引くがそれも着る主人を引き立てる飾りなのだとわかる。全てが着る本人のためにと作られた服。

「マダム、ルイ君、本当にありがとう。とっても素敵で、言葉にできないくらい嬉しいわ。ありがとう。」

「俺も本当に感動してる。これは最高の一張羅だ。ありがとう、マダム、ルイ」ルルカもディオも満面の笑みで言った。


「でもこれだけ最高の服をタダでもらうのは気が引けるな・・・」

「ディオ、それはもう話がついただろう。これは僕たちからのお礼なんだ。そのまま受け取って欲しい。」

 ルイはニカリと笑ってディオの背中をバシッと叩いた。その笑顔にディオもつられる。

「わかった。じゃあ本当にありがとう。」

「私もこんなに素敵なドレスを仕立ててもらえるなんて夢みたい・・・。今までローブばっかりだったし」

 皺が付く前に脱がないとね、とディオがルルカに声を掛けると、また従業員の皆さんが着替えるのを手伝ってくれた。


 着替えが終わると、「そのトランクに入れて持って帰るのかい?」とルイがディオに尋ねた。実は今日はトランク型のアイテムボックスを持ってきていた。

「ああ、この中に入れて持って帰るよ。あ、服は畳まなくていいよ」

「え?畳まないとトランクに入らないでしょう?」ちょうどマダムが従業員に脱いだドレスとタキシードを整えて畳むように指示を出そうとしていたところだった。

「これ、アイテムボックスなんですよ」トランクを開きながらディオが言った。

「ア、アイテムボックス?!」マダムとルイ、従業員の方々がざわついた。

 通常であればアイテムボックスは非常に高価なものだ。特にトランク型のアイテムボックスは貴族の旅行などに人気だが、そうそう手に入るものではない。

「あ、それ私が作ったやつよ」とあっさりルルカが言った。

「え・・・ええーーー!?」アドワード・ブティックはその驚きの声で揺れたような気がした。

「私たち、錬金術師なの」あまり目立ちたくないと複雑そうな顔をしたディオをよそに、ルルカが抱き寄せながら言った。


 不老不死。無から有を形成する神に近しい存在。それがこの世界の錬金術師に対するイメージだ。

 だが実際は不老不死でもないし、無から何かを作り出す事は出来ない。若さを保つ薬を作る事は出来るが、何かを作り出すにはその材料、つまり対価が必要だ。アイテムボックスのような、次元を歪ませる事ができるのは錬金術師のみだ。

 だからこそ希少な存在であり、錬金術師を保有する国は彼らを重宝する。申告すれば国の管理下にある居住区に住め、衣食住を保障してもらえる。だがルルカはそんなしがらみが煩わしくてあんな片田舎に住んでいるのだ。

「あの、あまり目立ちたくないのであまり周りに言わないでもらえますか・・・」

「言い触らしたりは致しませんが・・・」

「ふふっ、やっぱりディオは目立たないで生きるのは難しそうだね」ルイが笑って言った。


 トランク式のアイテムボックスにドレスとタキシードを入れて、トランクを閉じる。トランクには軽量化の付与がついているため、何を何着入れても羽ペンのように軽い。

「あ、あの、錬金術師という事は・・・いや、ご婦人にこんな質問をするのは・・・・」ダドリアがもごもごと口ごもっているが、だいたい質問は想像がつく。

「俺はもうすぐ10歳だけど、母さんはー」へぶしっ!!横からルルカの拳が飛んできて見事にクリーンヒットして吹っ飛んだ。

 大丈夫?!とルイが駆けつけてくれた。

「大丈夫・・・これでも手加減されてるから・・・あの人本気出したら俺の顔面が残ってないよ・・・」

「えええ・・・・・」

 ルルカは美しい容姿に反比例するように怪力の持ち主なのだ。機嫌を損ねたルルカに握り潰されたりんごの数と言ったら・・・伏せておこう。

「ディオ、もうすぐで10歳なの?僕もなんだよ!」

「ルイもなのか!なんか親近感湧くな」

 ディオとルイが二人で談笑している姿を見守りながらルルカとダドリアも話題は息子の誕生日の話になっていった。


「ねえ、ディオはどうする予定なの?やっぱりアカデミー行くの?」

「まだ決めてない。ルイは?」

「僕は首都のアカデミーに行こうと思ってる。はじめはこのまま店の手伝いをしようかなと思ってたんだけど、母さんも色々見て来いって。」

「そっか、やっぱアカデミーに行くのか・・・」

「僕はてっきりディオはアカデミーに行くんだと思ってたよ。ディオなら主席入学もできそうだし。」

 ルイの言葉でハッとした。

「あ、やっぱりアカデミーって入学試験とかあったりするの?」

「そりゃあるよー。何科に入るかによって試験内容は違うけど、全科共通して一般座学の試験があるよ。」

 一般座学・・・!どうしよう、村と森を行ったり来たりしてる俺に解ける問題なのか・・・?

 予想外の入学試験に久しぶりに焦りを感じたディオを察したのか、ルイがはははっと笑いだした。

「ディオでも苦手な事あるんだ?もしかして勉強嫌い?」

「嫌いって言うか・・・村と森ばっかだったからそもそも勉強っていう概念がなかった・・・」

 あははは!と笑うルイを横目に、やっぱりアカデミーは諦めようか迷った。


 また店に気軽に寄ってよ、とルイと言葉を交わし、アドワード・ブティックを後にした。

 従業員の人たちは相変わらず綺麗な一列で頭を下げていたが、今日はダドリアもルイも手を振って見送ってくれた。

 ディオとルイが話している間に、ルルカもダドリアと親交を深めたようだ。

「母さん、ちょっとアクセサリーショップ見て行かない?」

「あら!ディオからそんな事言うなんて珍しい!行くー!」

 普段はアクセサリーショップとは程遠い生活を送ってるからな。だが今回はせっかくルイがあんなに素敵な服を作ってくれたんだ。似合うカフスボタンを着けなくちゃ失礼だ。


 噴水広場の入口の角にアクセサリーショップを見つけ、二人で入った。

 扉に付けたベルが来店を知らせ、従業員の一人がすかさず寄ってきて頭を下げた。

「ようこそ当店へ。何をお求めでしょうか?」

「あー、えーっと、カフスボタンを」

 それでしたらこちらへどうぞ、と従業員が案内してくれた先には様々な形や色をしたカフスボタンが並んでいた。

「へー、色々あるなぁ。ゴールドとなるとこれとこれか・・・」

「ディオ、カフスボタンが欲しいの?」ルルカが後ろからひょいと覗き込んで来た。

「ルイが作ってくれたタキシードに合わせたいんだ。ルイはゴールドが似合うって言ってたからゴールドで探してみようかと思って。」

「なら母さんが作ってあげる!」

「ええ?」えっ!と後ろで従業員の人が反応したのは恐らくルルカがディオの母親というところだろう。黙っていれば二人は姉弟のようにしか見えない程ルルカは若々しく美しいのだ。

「母さんが誕生日プレゼントに作ってあげるわ」ルルカはニコニ事ディオに笑いかけた。

「わかったけど・・・けど母さんのアクセサリーは見なくていいの?」

「私はこのチョーカーと、父さんがくれたネックレスがあるからそれで良いの」ルルカはいつもつけているゴールドのチョーカーを指さして、ウインクした。

 確かに母さんのあのドレスは飾りを足さなくても十分そうだったな、とルルカのドレス姿を思い出した。

 案内してくれた従業員の人には悪いが、事足りているのなら買い足す必要はない。

「また来ます」と当たり障りない言葉を告げて二人は店を後にした。

「じゃあ、帰りましょうか。」と、光を浴びながら満面の笑みを漏らすルルカを実の母親ながら綺麗な人だなと思った。


 城下町から戻った翌日からというものの、ディオはルルカの描いた温室の材料を取りに洞窟へ行ったり、ルルカはディオへの誕生日プレゼントのカフスボタンを作るのに没頭していた。


「ディオール」

「ユニ!その後体調は大丈夫かい?群れのみんなも何ともないかい?」

 洞窟に向かっている途中でユニに出会った。

「皆変わりなく過ごしている。ディオールのおかげだ。ディオール、少しついて来てくれるか?」

「ん?」ユニについて行くと、群れのユニコーンたちがいた。

「みんな元気そうで何よりだよ」

「ディオール、これをお前に渡したい」と言ってユニは木の洞を指した。

 指した先の木の洞には、ユニコーンの抜けた角がいくつも入っていた。

「え、良いのか?」本来ユニコーンの角は女神への供物として湖へ沈める。そうして美しい湖を保ち、生き物たちは恩恵を受ける。

「群れの皆からの感謝の意だ」受け取ってくれ、とユニが言い、その言葉に振り返ると群れのユニコーンたちが頭を下げていた。誇り高いユニコーンからの礼。断ればユニの顔に泥を塗る事になるだろう。

「ありがたくいただくよ。みなさん、貴重な角をこんなに、俺の方こそ、礼を申し上げたい。ありがとう。」


 ユニコーンの群れから離れて例の洞窟にユニと一緒に再び訪れた。

「何かその後変わった事はあった?瘴気はもうなさそうだけど」

「いや、特になかった。訪れるものもいなかった。」

 そっか、と呟くとディオは考え始めた。

 ユニコーンは誇り高い生き物であると同時に、賢く、警戒心は強いが勇敢で決して戦闘力は低くない。故に森の主として森の番人をしているユニコーンもいるくらいだ。

 俺がアカデミーに行っている間、もし何かあったとしても、大半の事はユニたちで対処は出来るだろう。心配なのは、変化があった時に気付けないという点だ。洞窟での出来事は、人為的な予感がする。その悪意を持った何かがまた再び洞窟を訪れないとも限らない。

「・・・通信石」同じ鉱石を原料として造られ、遠く離れた人とも会話ができるという魔道具。ラエルの店で見た事がある。母さんもたまに通信石で父さんと連絡を取っているようだ。ラエルの店で見た通信石は何の鉱石だったか・・・ウインドウに何が表示されていたか思い出そうとしていた。

「ディオール、通信石が欲しいのか?それであればそこの洞窟にならば材料となる鉱石があるだろう。」

「本当か?」どんな名前だったか思い出せないが、洞窟に行って採掘をすればそのうちウインドウ表示でわかるだろう。

 ありがとう、とユニに告げ、洞窟へと駆けていった。


 洞窟に入ると“闇夜の瞳”スキルが発動され、ポポポ、と矢印ウインドウがそこらじゅうを指している。

 矢印のその下を一つ一つチェックしては採取していく。通信石には使えなくとも何かしらの材料にはなると矢印の示したところを片っ端から採っていく。

 矢印が何もない壁を指している。恐らくこの奥に鉱石があるのだろう。さて・・・どうしたものか。

 いつもキノコか採りやすく外に落ちてる鉱石をメインに採ってたからな・・・使えるスキルは何かないか・・・

 自分のステータスウインドウを開き、スキルの欄をスクロールしていく。

 採掘、採掘・・・それに近しいものとか・・・何か・・・

「あ」普通にある。採掘スキル。あるじゃん。

 使った事ないスキルだからな・・・慎重に行こう。


 矢印が指す壁に手を当てて、少しの魔力を込めて「採掘」と唱えると、手を当てた周囲が丸く砕けた。

 砕けた先を見てみると、何やら緑色に光る鉱石らしきものが見える。

「お、あれかな」

 小ウインドウが開いて鉱石名と用途が表示された。

「当たりだ。通信石に使われるものだ。」

 緑色の鉱石はまだ半分ほど壁に埋まっていたため、もう一度“採掘”スキルを発動させて鉱石の周りを砕いて取り出した。

「おお、思ったより大きいのが取れた」両手に収まらないサイズの鉱石が採れた。

 恐らくこれで足りるだろうと思ったけれど、もう少し見て回るか・・・と鉱石をアイテムボックスに入れるとまた洞窟探検を再開した。時々スライムやら小型の魔物が出たが、“捕縛”と“雷”<いかづち>で倒し、それもいそいそとアイテムボックスに入れた。

 今日は元から洞窟に行こうと決めていたため、間口が伸縮するタイプの皮袋のアイテムボックスを持って来た。

 念のため、アーケールが孵った奥も見ておこうと足を運ぶと、相変わらず聖水が光っていたが特に変わった様子はなかった。が、念のため再度聖水に再度“浄化”スキルをかけておいた。

 洞窟全体を回って、矢印の示すところは粗方採った。壁の奥にあるものは、なるべく慎重に“採掘”を使って鉱石を取り出した。あまり洞窟を掘って崩れたりしたら大変なので、二度の“採掘”で採れなそうな奥深くに埋まっているものは採らずに諦めた。

 身体強化して回っているとはいえ、結構な時間洞窟に潜っていたような気がする。そろそろ帰るか。


「ただいま~」と家に帰ると、「おっかえり~ディオ!」と奥の作業室からルルカが椅子を後ろに傾けて顔を出した。

 皮袋のアイテムボックスを持ってディオも作業室に入り、採ってきた素材たちをテーブルの上に出そうかと思ったが、テーブルの上に載りそうにないなと思ってやめた。

 もともとルルカの為の作業部屋で、二人でこの部屋を使う事を想定していなかったから当たり前なのだが、この部屋もいったん整理が必要そうだな・・・。

 ルルカは鼻歌を歌いながら何やら細かい作業をしているようだ。

「何作ってるの?」

「やだ!見ないで!誕生日まで待ってて!」

 ああ、カフスボタンか。ゴールドは見えるが、何を掘っているのかどんなデザインなのかは見えない。精神年齢は10歳を疾うに超えているが、母親に祝ってもらえる誕生日というのは嬉しいものだ。

「とりあえず今日採ってきた素材とかはテーブルに置いておくから、夕飯にしよう。俺作るよ。」

「ありがとうディオ~」とルルカは作業中の手先から目を離す事無くディオに返事をした。


 夕飯を作り終えて二人で食卓で食事しているとき、通信石が作りたい事と、必要な素材は恐らく揃っている旨をルルカに伝えた。ルルカは色々と突っ込みたいところはあったが、ディオが何かを作りたいと言うのは嬉しくて、明日二人で作ることにした。

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