第2話
「おめでとうございまーす!!ご愁傷様でしたー!!」
全く故人を弔う気持ちが微塵もこもっていないご愁傷様でしたを聞いて、優生は目を覚ました。
目を覚ました、というのは語弊がある。
雷に撃たれて人生に幕を下ろした彼は、言わば思念体とでもいうのか、ただの小さな丸い光に姿を変えていた。
「ああ・・・俺死んだのか?」
確かに背は高い方だったよ?ビニール傘もさしてたし、周りに高い建物もないような通りを歩いてたよ?
いやでもさ、落雷で死ぬ事ある?街中だよ?避雷針とかそこら辺になかった?草原のど真ん中を歩いてた訳でもないじゃん?
え?これで俺の人生終了なの?今日まだ飯食ってないんですけど。
「おーい。君、聞こえてる?」
混乱していた彼の目の前に、美しく長い金髪ブロンドの、右目は澄んだ空のような空色の、左目はまるで優しい夕焼けの陽だまりのような温かみのある茜色の瞳を持った少女が立っていた。
「うわっ!!誰・・・・・」
オッドアイ。
身体があれば腰を抜かすか、二、三歩後ずさっていたかもしれないが、初めて見るオッドアイに、そしてその美しい瞳に吸い込まれそうで、言葉を飲んだ。
「君さ、雷に撃たれて死んじゃった訳。わかる?」
こちらの驚きとは無関係に彼女は話し出した。
いや唐突だな。たぶんその通りなんだろうけど。
「はぁ・・・まぁ、そんな事かなと考えてました。」
「君理解早いね~!流石は選ばれし者だね~!」
ははは!と腰に手を当てて少女は大きな口で笑った。
「選ばれし者にはなんとー!次の人生を選べる権利がありまーす!」
次の人生?
・・・あー、そうだよな、俺やっぱ死んじゃったんだな。
「選べる?」
「今回と同じ世界でまた新しく生まれ変わるか、それとも違う世界で新しく生まれ変わるか!」
違う世界?パラレルワールドとかいうやつか?
「まぁー僕としてはこっちの世界に来てくれた方が助かるんだけど、ど?新しい世界にチャレンジしちゃわない?色々特典つけるから!ね!」
なんだこいつ僕っ子?なんかすごいグイグイ来るけど・・・。
少女の勢いに押されながら彼は戸惑っていた。
「えーっと、違う?その新しい世界ってのは所謂異世界転生ってやつなんですかね・・?で、転生特典付けますよ、みたいな?」
「そゆこと!やっぱり君は理解が早いね~!助かるよ!」
やはり少女は可憐な見た目に違い大きな口で豪快に笑った。
「ちなみに特典ってのは・・・」
「それね!今世、あもう死んじゃったから前世か。まあいいや。その時に出来なかった事とかない?やり残した事とか。そんで次の人生こう生きたい!ってのがあればそれに合った加護を付けるよ!」
「・・・・・・えーっと・・・」
なんか胡散臭い商売みたいじゃない?生きたい人生に合った加護を付けてくれるとかチート過ぎない?それ良いの?
「ん-と・・・その、新しい世界ってのは危険だったりするんでしょうか?魔物?的な何かが出たりするんでしょうか?」
「魔物は出るよ!」
即答かい!
がははっと彼女はまた豪快に笑った。
魔物出るんだぁ・・・えー・・・普通に怖くない?
「大丈夫大丈夫!多少の加護と自分からダンジョンとかに行かなければ安全だって!」
「はぁ・・・・」
ダンジョンて。完全に異世界ファンタジーじゃん。
「お願い!僕の世界あんまり人が増えなくてさ、こうして選ばれし君たちも怖がって断る人ばっかりだし・・・」
少女はここまできてようやく静かになった。
「あの、その、選ばれしーとかって何なんですか?」
急にしょんぼりとした彼女が不憫になって、話題を切り出してみた。
「ああ、それはね、『雷に撃たれた』人の事だよ。君がいた世界ではたまーに雷に撃たれちゃう人がいるんだけど、近くに人がいれば助かって元の世界に戻っちゃう人がほとんどだし、魔物って言葉を聞くとみんな何でかやめときますって断るんだよ・・・」
確かにあの時間で周りに人なんか居なかっただろうし、助からなかっただろうな、俺・・・。
「僕が造った初めての世界なんだよ・・・だからこのまま無くしたくないんだ・・・」
僕が造った?・・・って事はこの子は神様?みたいな存在なのか?
「お願い!サービスするから!!僕の世界に来てくれない?!」
少女は切羽詰まったような顔で、泣きそうな顔で頼み込んで来た。
・・・こんな小さな子にこんな風にお願いされちゃ断れないだろ。
「わかった。その、新しい世界?君の世界に行くよ。」
「ほんと?!ありがとう!!!」
少女はその美しいオッドアイの瞳から溢れ出した涙を拭って、笑顔を見せた。
「じゃあ早速行こう!!付けたい加護は決まった?どんなのにする?」
ついさっきまでしょんぼりと泣きそうだったのが噓だったのかのように彼女はキラキラとした笑顔で迫った。
「早速転生手続きをして・・・今ちょうど受け入れているところは・・・」
少女は空間に小さなウインドウを出現させると、ぶつぶつと呟きながらそれと睨めっこしだした。
とは言ってもどんな加護があるのかもわからんしなぁ・・・でもわざわざ貰えるもんを貰わないのも・・・それに魔物とか怖いし・・・
うーん、はて、どうしようかな。
「そうだな、楽に生きたい。」
仕事まみれで溜まったお金を使うのはコンビニだけ、大雨に雷に撃たれて死ぬような人生は一度だけで良い。
「”楽に”ねぇ~・・・うーん。」
彼女はもう一つ小さなウインドウを出すと、そこにびっしりと書かれた文字のようなものを見てはスクロールをして、腕を組んでどうしたものかと考え始めた。
「王族になれば楽な暮らしができるんじゃない?」
「権力争いとか嫌だな・・・命とか狙われたくないし。考えただけで怖っ」
「じゃあ権力争いとかなければいいのかな?それでいて楽に暮らせる・・・うーん・・・」
「楽でいて、なんていうかこう、ゆるーく生きたい。かな?」
少女は再び唸りながら考え込み、ウインドウと睨めっこを続けた。
ピロン!
少女が初めに出したウインドウから何やら音がした。
その時、身体が温かくなるのを感じて、発光体が更に光をました。
なんだ?!温かい・・・?
「えー!もう時間?!まだ加護決めてないのにー!!」
「えっ、時間?もう転生するんですか?というか加護は絶対付けてくださいよ?!悪目立ちも嫌ですからね!あといつもお腹いっぱい食べれるようにしてください!今日まだ飯食ってなかったんで!!心残りといえば飯!!魔物の餌になったりとかも絶対嫌です!!あとー・・・」
「いきなり色々注文しないでよー!願いが抽象的すぎるしー!!何でこんな早く転生先見つかるのさー!あーもー!あっ、加護間違えた!こっちじゃない!えーっとこれも必要かな?要らない?まあいいや付けとこ!!」
少女は二番目に出したウインドウをタッチしたりスクロールしたり何やら急いで作業をし始めた。
身体が熱くなってきた・・・!いよいよ転生ってやつか・・・!
少女はまだあたふたとしながらウインドウを操作していた。時折間違えた!と言っていたような気がするがそんな事を気にしている場合ではなさそうだ。
「加護・・・お願いしますよ・・・!」
「あああああ!時間がー!加護は何とかしとくから!!それじゃあ新しい世界へいってらっしゃーい!!」
僕の世界へようこそー!と彼女はウインドウ操作の片手間投げやりな挨拶をして手を振った。
そうして石原優生は異世界へと転生したのである。
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