秘密の味(ハヤトside)

 ナノハがこちらの世界に来てから1ヶ月が経った。

 

 彼女は肩までのまっすぐの黒髪が美しく、惹きこまれそうな黒い瞳はいつも俺と目を合わせてくれる。肌の色は白く少し顔色が悪く見えるが、俺を見るときに頬に色味が差すのがたまらなく可愛かった。


 本当はすぐにでも約束通り職場に連れて行きたかったが、国王からの依頼が先だと、団長に釘を刺されてしまった。


 仕方がないので、魔法については家庭教師を手配した。実は、あらゆる魔法が使える素養があることを本人には伏せて、治癒魔法と支援魔法を教えるように伝えている。


 前線に出るだなんて言い出したらたまらない。


 毎日悶々と仕事をしていたら、部下の一人であるアキラから、新婚だったらもう少し幸せそうな顔をしないのかと揶揄われた。忙しすぎるんだ、くそっ。

 新婚とは、毎朝キスやハグをして出かける前の親睦を深めるものだと教えてもらった。短い時間でも触れ合えるのはいいかもしれない。

 


「行ってきます。……ハグしていいだろうか? 夫婦とはそうするものだと聞いた」

「もちろんだよ」


 照れくさいが、ナノハはにこやかに応えてくれた。距離が近づいた気がする。その日は仕事が捗った。


 ナノハのいた世界を覗く魔法陣を国王に献上したら、エンタメとやらにハマったらしく、勇者を呼び寄せようと言い出した。

 覗くだけでも、けっこうな魔力量が必要な魔法陣なのに、さすが王族はハイスペックだ。無駄遣いだが。


 ナノハを聖女にという話も一度出たくらいだから、勇者もどこで手に入れた知識かは定かではないが、国王が言うのだから無下にも出来ない。


 召喚陣は、記憶に関する記述の綻びを正すだけだったので、完成は間近だ。どちらかといえば召喚する人間の選び方が問題だ。


 魔術師団には手に余る問題なので、議会で検討された。年齢性別くらいなら指定できるが、死体がなくていい人間など存在しないからだ。


 結局、スキー場で遭難した若者はどうだろうかという話になった。それなら、体力も能力も高いはずだ。本人がこちらの世界に馴染んでくれるか不明だが。


 やはり、記憶はなくてもいいのでは?


 こんな時だけ中途半端に倫理とかいうのはよくわからん。

 



「正式な召喚をすることになったんだ。ナノハも見に来るかい? 向こうの世界の人に会えるかも知れない」


 夜、食事の時間にナノハに伝えた。知人を召喚することはないだろうが、興味があるかもしれないと思って……いや、仕事の成果かっこいいところを見せたかった。


「ナノハが来たことで、召喚魔法陣の完成が近いことが知られてね。毎日、研究していたんだ」

「すでに鳥や猫で試したから、安全は保証できたんだけど、人間は誰を呼ぶか難しくてね……」


「イヤっッ……!!」


 突然、ナノハが部屋まで逃げてしまった。俺は何か間違えたんだろうか。


「……入るよ」


 鍵がかかっててなかったので、そっと入った。

 内心ではオロオロしているが、そっと近づいた。


「ハヤトさんのお嫁さんが増えるの?」


 ナノハからとんでもない言葉が飛んできた。戸籍を作るために結婚したと説明したのが仇になったのだと、やっと思い当たった。

 

「はぁ!? どうしてそうなる!」

「だって……!!」

「オレはナノハだけだし、それに、召喚予定は男で……あぁあ、もう!」


 言葉が出なくなって口で口をふさいでみた。


「大事にしてるつもりだったけど、悪かったよ」

「オレはナノハが好きだから、強引に結婚したんだ」

「本当は聖女になってもらって王子とって話も」


 そうだよ、国王が召喚者は聖女だからと言い出した時には焦った。正規の召喚じゃないからと言い含めたが、今度は正規の召喚をするって話になったんだよな。


「好きなの?」


 心細そうな声だけど、ナノハがこっちを見た。


「好きだよ。こんなおじさんだけど、好きになってもらえるように頑張るから」

「おじ……さん?」


 あ……

 うっかり


「たった3つの差でおじさんなんて、ハヤトさんったら変な人」


 いや、もう隠すのはやめよう。夫婦なのだから。


「ごめん……本当は125歳なんだ」


 その後、盛大なカミングアウトをかました俺は、問いただされたのは言うまでもなく、ベッドに誘うことには失敗した。仲直りしたのに!

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魔法使いに捕獲された私は、溺愛に気づきたい 風花 @rurippi

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