魔法使いに捕獲された私は、溺愛に気づきたい
風花
伏せられた秘密
私がパラレルワールドという異世界に来てから1ヶ月が経った。
その間に名前が
ハヤトさんは、この世界で自衛隊魔術師団の副団長をしている強い人で、背も高く、水色の短髪に緑の瞳の美丈夫だ。戦争はないけれど、魔獣から国を守るから自衛隊らしい。
今は、私は結婚式の準備をしたり、魔法の授業を受けたり、時間のあるときは本を読んだりしている。
魔法は面白い。強い願いを込めると、傷が治ったり、願った対象の人が強くなったりする。まだ火を出したり水を出したりは教わってないけど、先生はいつかできるはずと言葉を濁していた。
「行ってきます。……ハグしていいだろうか? 夫婦とはそうするものだと聞いた」
「もちろんだよ」
お互いにおずおずと手を伸ばす。ハヤトさんが照れているのが私でもわかって、心がポカポカする。人はハグをするとストレスが軽減すると誰かが言っていたっけ。
「いってらしゃい」
私はいつになったら、働けるのかな? と思ったけれど、あまりせっつけなくて、口を開けて閉じた。
以前、職場に行きたいといったら、承諾してもらえたのだ。結婚したらアルバイトじゃなくてパートになっちゃう。
意味のないことを考えて、それ何の知識だったっけと思う。私は魔法陣を通った影響でいろんなことを忘れている。
でも思い出さなきゃいけないことってないよね?
ハヤトさんは優しい。戸籍のない私の居場所を作るために結婚したはずなのに、もっと一緒にいたくなる。
今日は仕立て屋さんが仮縫いのドレスを持ってきてくれて、合わせてみることになっている。ノースリーブだけど、胸元から首までレースになっていて、腰はしっかり絞ったプリンセスラインで、スカートにはキラキラとラインストーンが散りばめられている素敵なデザインだ。……宝石じゃないよね?
結婚式が済んだら本当のお嫁さんになれるかもと、少しわくわくしたり、胸が苦しくなったりしている。
「正式な召喚をすることになったんだ。ナノハも見に来るかい? 向こうの世界の人に会えるかも知れない」
夜、食事の時間にハヤトさんが言った。
「ナノハが来たことで、召喚魔法陣の完成が近いことが知られてね。毎日、研究していたんだ」
「すでに鳥や猫で試したから、安全は保証できたんだけど、人間は誰を呼ぶか難しくてね……」
「イヤっッ……!!」
私は気持ちがいっぱいになって、自分の部屋に駆け戻った。
「……入るよ」
鍵をかけ忘れたらしくて、そっとハヤトさんがやってきた。混乱した頭の中で、先程のハヤトさんの言葉に違和感を感じたけど、それよりも大事なことがあった。
「ハヤトさんのお嫁さんが増えるの?」
「はぁ!? どうしてそうなる!」
「だって……!!」
「オレはナノハだけだし、それに、召喚予定は男で……あぁあ、もう!」
泣きはらした顔を掴まれて唇にあたたかいものが触れた。驚いて涙が止まった。
「大事にしてるつもりだったけど、悪かったよ」
「オレはナノハが好きだから、強引に結婚したんだ」
「本当は聖女になってもらって王子とって話も」
聞きづてならない言葉が聞こえた気がする。
「なんて?」
そういえば国王と魔術師団長と結婚の話をしたと言っていたっけ。パラレルワールドだけど王政なんだ。って、そっちじゃない。
「好きなの?」
不安でしかない声が出た。
「好きだよ。こんなおじさんだけど、好きになってもらえるように頑張るから」
「おじ……さん?」
ハヤトさんが忙しすぎたのもあるけど、私達は言葉が足りなすぎたのかも知れない。
「たった3つの差でおじさんなんて、ハヤトさんったら変な人」
抱きしめられてハヤトさんの顔は見えないけれど、声はより近く聞こえた。
「ごめん……本当は125歳なんだ」
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