召喚は、一か八かの賭けである。 :短編です。

久遠 れんり

召喚は毒にも薬にもなる

第1話 困った末に、彼等は禁呪に頼る

 真武は一仕事を終えて、緊張を解き、息をはく……


 ぶっ放したのは大規模殲滅魔法、『神々の狂宴』。

 四属性プラス、雷の絨毯爆撃だ。


 その他にも『世界の終焉』という重力と空間魔法を使った技もあるのだが、失敗をすると星がなくなりそうなので使わなかった。


 目の前に広がった、空き地。


 ここには俺を召喚した王都があった。

 そう俺は、さっき王都を消した……


 俺を体を使って騙した王女ごと……

 まさか彼女が、魔法で姿を変えた、モンスターだったなんて……


 報告を受けて、魔王は高笑いを始めた……





「―― ねえねえねえ。そこの彼女。彼女ってばぁ」

「ほげえっ」

 か弱い? 女子の一発で、錐揉み状になって飛んでいく男。

「うぜえ」

 彼女が一声残す。

 その男が倒れた瞬間、地面に魔法陣が展開された。

 だが本人は、ノックアウトされていて、その事に気がつかなかった……





 ―― 彼の名は、茂手無もてない おとこ……


 ではなく、四方しほう真武まなぶ

 父は弁護士で、母は看護師。

 父が入院中、個人情報を悪用した母に食われたそうだ。



 それはさておき、実際、彼はモテないわけではなく、あまりにも無節操に周りを口説くために、女の子から嫌われていただけ。

 そう女の子は、私だけを好きになってほしいという、思いを持つ習性がある。

 男も同じであるのだが…… たまに他の男に奪われて、喜ぶ奴もいるから何とも言えない。


 周りのダチからは、お前はモテない男だと揶揄われて呼ばれていた。

「おう、モテない。昨日の戦績は?」

「あん?」

 教室で休み時間に机に突っ伏して寝ていた彼は顔を上げた。

 その彼の顔には、漫画のように、目の周りが腫れて青くなっていた。


「声をかけたらさ、彼氏持ちでこれだよ」

「バカだな。周りを見ないからだよ」


 彼は、周りも見ないし、話も通じないというのが得意技なのだ。

 なんと言うか、視野が狭い?


 国の発表で財政が厳しい昨今などと言えば、そうなのかと突っ走る性格。

 高校生なので所得は無いし、買い物をして消費税を払わなければいけないと考える。


 人の良い、おバカ?

 だが学校の成績は良い。

 実際には、運動もそこそこできるし、モテないこともない。

 彼が、異性に声をかけるのは思春期だということもあるのだが、ニュースで深刻な少子化だと言っていたから。


「成人男性は三十二パーセントが未婚で、女性は二十三パーセントです。このままでは日本は……」

 そんなニュースを見て、早く結婚をして、バンバン子どもを作らなければ、などと考えてしまった。

 それに付随する、必要なもろもろは当然の様に無視である。

 就職をして金を稼ぎ、子育てを出来る環境を作らなければいけない。そんな事などは思いつきもしないで突っ走る。


 ある日いきなり、ナンパを始めた彼。

 それを見て、密かに彼のことを良いな、とか思っていた女の子達は、一気に冷めた。


 そう、教室内で始まったそれは適当で、「えっ。少し考えさせて」などと返した女の子。

 だが彼は、その言葉を聞いて横へすぐに移り、別の子を口説き始めた。

 その様子を見て、当然だが最初に声をかけられた女の子は怒る。


「私のことが好きじゃなかったの?」

 『君と付き合いたい。俺と一緒に子どもを作ろう』そんなふざけた言葉を、彼女に向かって、吐いたばかり。


「うん。そこにいたから声をかけた。駄目そうだから今度はこっちの彼女に……」

 そんな、最悪で絶望的な答えを返してしまう。

 二人共から睨まれる。


「あっそう」

 その子は、胸の内を隠して、怒りと悲しみに震える。


 好きだと言われれば、多少は興味もわくし、自身に興味を持ってくれて、告白までしてくれるのは好き嫌いは別にして、多少なりとも嬉しいものではある。



 たとえ相手が可も無く不可も無くと言うとき、その時に運良く好きな相手がいない場合、声をかけられて、それがきっかけに気に存在にもなったりする。

 上手く行けば、そこから友達となり、恋人へ移行などと言うこともある。


 だが、思いの無いナンパは、むなしいだけ……


 まれに、それをきっかけに付き合う可能性もあるのだが、ある程度断られてもしつこく行ったことにより、成立をする。


「だめ? そんじゃあ、いいや。ねえねえ、そこ行くお姉さん」

 そんなのは、正直迷惑以外の何者でもない。


「何あれ? ざけんな」

 そう言われるのが関の山である。


 この頃の四方しほう真武まなぶは浅慮であり、ろくでもない人間だった。


 男子からは、そのふざけた行動がおもしろいらしく、知り合いは多かった。

 ただ根本的に話があわず、親友という者は皆無。



 そんな彼は、ナンパの主戦場を町中へ移した。

「そこの彼女、どこへ行くの? 時間があるなら、ちゃあしばこう」

 ネットで調べたナンパ講座。

 そこに書かれていた大阪での声かけの基礎編。

 お茶でも飲みに行こう。

 それを、ちゃあしばこうと表現するらしい。

  

 それを知って、試す。


 だが反応は芳しくなく、冷たい目で断られる。


 だが諦めない。

 彼は次の標的に向かう。

 だがその獲物は凶悪で、言葉では無く、拳で答えを返してきた。


「げふっ」

 彼の力が抜けきった腹に、それは食い込む。

 下からすくい上げるような拳。

 それは孤を描きながら、速度を増す。

 捻る込むような動きが加えられて、拳が回転しながら腹へ。

 それは丁度肝臓があるところに食い込むと、彼の体を少し持ち上げるように止まる。


 拳の力を、相手の体内に置いてくる。

 それは、打撃攻撃、奥義の一つ。


 衝撃波は、彼の体内に撃ち込まれて、波となって伝播する。


 くの字に折れた体。

 そこに蹴りが来る。

「ほげえっ」

 奇妙な声と共に、息がもれて、彼の体は錐揉み状に飛んでいく。


「うぜえ」

 そんな言葉を残して、彼女は向きを変えて立ち去ろうとした。


 だが飛んでいった彼の下に、魔法陣がまばゆい光りを放つ。

 あの魔法陣は?

 それを見たときに彼女は、飛び込もうとしたのだが、間に合わなかった。

「あれは、転移陣よね」

 彼女はそれを知っていた。

 一度は失敗した戦い。


「魔王め……」




 ―― 彼は目を覚ます。

 冷たい石の床。

 それを心配そうな目で見つめる女の子。


「姉ちゃん。ちゃあしばこうぜ」

「ちゃあ? お茶でございますね。ええ。私で良ければ」

「本当に?」

 彼はついに見つけた……


 彼女達は喜んでいた。

 ついにやって来た。

 禁呪の魔法陣。

 

 はるか彼方の世界から、力を持った勇者を呼ぶ魔法。

 その成功に喜ぶ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2025年12月16日 20:00

召喚は、一か八かの賭けである。 :短編です。 久遠 れんり @recmiya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画