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 私が復讐のためにランベルトに纏わりつく中、ニナはいつもと変わらず、穏やかな淑女であり続けた。


 彼女は、謙虚で思いやりのある人であり、私を言葉で説き伏せて、元の友人関係に戻そうと努力していた。

 決して権力に任せて、私を排除しようとはしなかったのだ。


 私がニナに近付いたのは、復讐の足がかりを得るために過ぎなかった。ランベルトと出会えば彼女は用済みになり、それ以上関わるつもりはなかったのだけれど━━

 彼女があまりにも、完璧な王太子妃だったから。

 ニナを上手いこと利用できれば、ランベルトを完全に孤立させられるのではないか。そう思わざるを得なかった。


 だから、まずは、彼女をランベルトから遠ざけることにした。彼の中でニナを信用できない悪人に仕立て上げて、彼女の意見を聞き入れられないようにしたのだ。


 ありもしない嫌がらせの話をいくつも作り、涙ながらに訴えかけると、ランベルトは次第にニナを信用しなくなった。

 彼女に対して冷たい態度で接するようになり、いつしか私の話だけを信じるようになった。


 そんな彼を冷たい目で見つめていたのが、エドアルド殿下だった。

 殿下はいつでもニナを庇い、そして、優しい目で見つめていたから。彼が彼女のことを好きなんだとすぐに理解できた。


 ━━これは、利用するしかないわ。


 この二人を上手いこと使えば、ランベルトをどん底まで落とせるかもしれない。

 そう思った私は、エドアルド殿下の前では、あえて、性悪な悪女を演じてみせた。


 私のニナに対する冷ややかな言葉や、含みのある視線に、殿下は思った通り、すぐに気付いてくれた。

 私によってニナが陥れられていることを察知していた彼は、彼女が婚約破棄を突き付けられると、案の定、手を差し伸べた。

 だから、私は二人の仲がもっと深まるように後押しをしてあげた。

 ニナへの嫌がらせを執拗に行う一方で、エドアルド殿下が彼女を助けられるようにと導いたのだ。


 こうして、ニナは殿下の愛を感じて、徐々に惹かれていった。

 ニナのエドアルド殿下を見つめる目は、あからさまに変わり、彼の優しさに心を溶かされていったのだ。

 そう。私の思惑通りに━━


 その一方で、私は、彼らの様相など知りもしないランベルトの前で、ますます「馬鹿な女」を演じた。

 笑って、甘えて、くだらないことを口にして。

 ニナが行っていたやるべき仕事を手を付けようともせずに、遊んでばかり━━

 そうすればするほど、彼は私を見ながら、ニナの面影を探さずにはいられなくなっていった。


 ━━このまま未練に苛まれて気が触れれば、あなたは自らの手で、自らを滅ぼすことになる。


 ニナとやり直したいと思ったってもう遅い。彼女には、エドアルド殿下がいるのだから。無理に取り戻そうとすれば、ランベルトは王太子の座から引きずり落とされるだろう。


 ━━もうすぐ、復讐が達成される。


 お父様が望み通りエドアルド殿下が王太子となり、ランベルトが無様な形で失脚するのだ。

 ランベルトのために私達家族を貶めた人間達が、彼とともにゆっくりと沈んでいくのだと思うと、笑いが止まらなかった。







 ランベルトは、思った以上に派手にやらかしてくれたらしい。

 しつこくニナに付き纏ったあげく、復縁を求めて、結果的に暴力沙汰を起こしてしまったのだそうだ。

 この一件が決定打となり、国王陛下は彼に対して正式に廃嫡を言い渡した。

 そして、問題を起こしたことに対する罰として、寂れた田舎の領地への左遷を告げたのだとか。


 ━━いい潮時だ。


 その話を聞いた私は、すぐに荷物をまとめ、彼の前から去る準備を整えた。

 ランベルトは「一緒に付いてきて欲しい」「俺を見捨てないでくれ」と言っていたけれど、当然、これ以上、彼と一緒にいるわけがなかった。


「ランベルト様は私ではなく、ニナ様がお好きなのでしょう? そんな人とはもう、一緒にいられませんっ!」

 私は純粋で馬鹿な女のふりを最後まで続けた。無様にも床に手を付き、落ち込む彼の前から去って行ったのだ。


 そして、私はトランクを片手に王宮から出て行こうとした。

 二度とランベルトと会うことはないだろう。そんなことを思っていたら、冷たい風が頬を撫でた。


 早く、馬車に乗って遠くの地まで行きたい。

 私の願いは、突如現れたニナによって阻まれた。


「ビーチェさん、少しよろしくて?」


 彼女はこんな日でも、落ち着いていた。

 静かに私の前に臨み、返事を待っている。


 ━━今まで沢山迷惑をかけたのだから、彼女には何をされてもいいわ。


 そう思ったから、私は彼女を拒絶しなかった。

 私は彼女に断罪の機会を与えたのだ。

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