ep43:陽太視点⑫

 アストルに転生して6年が経つ春の日、海外から留学生がやってきた。


 ソレイユ王城、謁見の間。

 王座に座るのは、国王オロール・ロワ・ル・ソレイユ。

 父の左側に立つのは、正妃シェリル・レーヌ・ラ・ソレイユ。

 父の右側に立つのは、王太子アレクサンドル・プランス・ル・ソレイユ。

 第二王子アストル・プランス・ル・ソレイユに転生した俺は、兄の右側に立っていた。


(何故、彼女がここに……)


 俺は驚きを隠しながら、彼女を見つめた。

 謁見に来ているのは、6歳の少女。

 膝下まで伸びた艶やかな黒髪、深緑色の澄んだ瞳、目鼻立ちがハッキリした顔はややキツイ印象があるものの、人目を惹く美しさがある。

 彼女は鮮やかな青色のドレスの裾を両手でつまみ、王に向けて優雅に一礼した。


「ソレイユの国王陛下と王族の皆様に、御挨拶申し上げます。わたくしの名はカレン・フィーユ・ラ・ミシオン、どうぞカレンとお呼び下さいませ」


 6歳とは思えないくらい、堂々とした立ち居振る舞い。

 謁見の間で王族と向かい合うのは、ゲームでは悪役令嬢とされた公爵家の娘カレンだった。


 ソレイユとエトワールは友好国なので、貴族の子弟が留学に来るのは、珍しくはない。

 しかし、彼女が今ここに来ているのはおかしい。

 まあ、ゲームでも外伝でもカレンが6歳になる前にソレイユは滅亡しているから、来るわけがなかったのだけど。


(婚約者と同じエトワール国立学院に入らないのか……?)


 問いたいが、初対面でそれは無しだ。

 少し交流してから、さりげなく聞いてみることにしよう。


「カレン様は魔力が高く、魔法を扱うセンスもお持ちです。是非とも我が国の魔法学院で学んで頂きたいと思い、推薦いたしました」


 彼女の隣で力強く語る男は、ゲームに出てきたクレール先生だ。

 しかし彼は、ゲームでは主人公のルナばかり褒めていた。

 カレンを母国に連れ帰って魔法学院に推薦入学させるなんて展開は、ゲームでも外伝小説でも見たことがない。


(ルナはどうしたんだろう? 今ここにいないということは、ミシオン家に置いてきたのか?)


 疑問だらけだが、今すぐ聞けるものは一つもない。

 俺は公務用の柔和な笑みを浮かべて、その場に立つのみだった。


 よく見れば、少女はゲームで見た悪役令嬢とは随分と雰囲気が違う。

 ゲームの悪役令嬢カレンは、甘やかされて我儘に育ち、5歳の頃に父親の興味がルナに移ってしまってからは、酷い癇癪持ちの性格になっていた。

 両目はいつも怒りに吊り上がり、眉間に皺を寄せてイライラしている顔しか思い出せないくらいだ。


「クレールが推薦するなど、初めてではないか? 成長を楽しみにしているよ」

「はい、頑張ります」


 王の言葉に笑顔で応えるカレンは、まっすぐで素直な性格の子供に見えた。

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