ep06:美月視点⑥

 推しが来た!

 この世界で誰よりも愛おしい男の子が!


 駆け寄って抱き締めたい衝動を、私は必死に堪えていた。

 いきなりそんなことをしたら、大人しいアランなら絶対引いてしまう。

 慌てずに親睦を深めよう。


「ルナ、顔が赤いけど大丈夫?」

「熱があるのかしら」

「だ、だいじょうぶ、元気だよ」

「無理しないで、少し横になってきなさい」

「はぁい」


 生の推しを見た感動で赤面していたら、熱があると勘違いされてしまった。

 恋愛感情なんか芽生える筈のない2歳児が、好きな子を見て興奮したなんて知られるよりはいい。

 やむなく、私は寝室へ向かった。


 孤児院の寝室は4人部屋で、ここでは私を含めた女子4人が寝起きを共にしている。

 他の子はまだ部屋に戻ってこないので、私は1人で部屋の姿見を見つめながら、ゆっくり考え事をすることができた。


 鏡に映る私の容姿は、肩までのびた白金色のサラサラヘアに、大きくて睫毛の長い若草色の瞳、色白の肌をもつ女の子。

 ゲームのヴィジュアルで見慣れた、主人公ルナの幼少期にそっくりだった。


 おまけに……


(ステータス)


 ……私が心の中で呟くと、ゲームのように空中にステータスウィンドウが現れた。


 【星空の彼方】のステータスは数字ではなく、経験値の貯まり具合を示すゲージと、A~Fのアルファベットで表記される能力値、スキルや魔法の他に使える魔法に影響する「属性」が記載されている。

 経験値は武術や魔法の訓練、魔物を倒すことで増えていく。

 能力値は経験値のゲージがMAXになると上がる。

 経験値のゲージは能力値が上がると0に戻り、また訓練や討伐をすることで貯まっていく。


 今の私のゲージは全く貯まっておらず、アルファベットは全て「F」。

 つまり、ゲームを開始した直後の主人公と同じステータスということになる。


(……やっぱり、光属性がある……)


 私の属性は、ゲームのルナと同じで光・水・土。

 この世界では、属性は1つであることが多い。

 2属性なら優秀といわれる。

 3属性はかなり希少な存在で、国立魔法学院の特待生になれて、卒業後は宮廷魔導士として召し抱えられる。

 光属性は勇者または聖女の証で、神殿で保護されるか、高位貴族の養子として迎えられることになる。


 シナリオ通りであれば、私は公爵家に引き取られるだろう。

 私(ルナ)は、ミシオン公爵がメイドに手を出して孕ませた隠し子だ。

 ゲームでは、その部分には触れられていない。

 でも、シナリオライターが出版した小説の中で、公爵とメイドだけが知る秘密として書かれていた。

 正妻に不倫を知られないために捨てられたけど、光属性があると分かった途端に養女として公爵家に迎えられることになる。


 ゲームのルナは実の父とは知らずにミシオン公爵の養女になることを受け入れる。

 でも、真実を知っている私は、そんな身勝手な父親のところへ行くのは嫌だ。

 それに、貴族になったら、アランとは離れ離れになってしまう。


(……私は、アランと離れたくない。3属性とか光属性とかは、隠しておかなきゃ)


 私は、ひそかに決意した。

 シナリオ通りには、動かない。

 私は、私の行きたい道を行こう。

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