第00回 プロジェクト発足


こーちゃんは私の誕生日プレゼントを用意してなかった。


「ごめんって」

「別に怒ってないケド?」


落胆はしたけど。別に約束してた訳じゃないし。

それより昔は仲良しだったとはいえ、ずっと疎遠だった私の誕生日をまだ覚えてた方が偉いと思う。


「埋め合わせするよ」

「別にいいよ」

「あ、そうだ」


こーちゃんは私の意見をちっとも聞かずに話を進めてく。


「可愛くしてやる」

「かわ……? え、もう一回言って?」

「13歳の誕生日祝いに俺が萌を可愛くしてやる」

「私、昨日12歳になったばかりだよ?」

「可愛くは簡単になれないからな。1年かけてやるんだ」

「私が可愛くなんてなれないよ」

「やってみなきゃ分からない」

「私が可愛くなってどうするの」

「なってみなきゃ分からない」

「……具体的に、何するの? お洒落な服でも買ってくれるの?」

「それも悪くないけど。そんなんじゃ本当に可愛くはなれないだろ。これから毎週末、一緒に可愛くなる特訓をするんだ!」

「毎週末、一緒に……?」

「ああ」

「今週から?」

「是は急げだ」


昔みたく構って貰える誘惑に負けて、私は約束を交わしてしまった。



夜、部屋でマンガを読んでいたら「ただいま」とお父さんの声が玄関から聞こえた。


「おかえり。すぐ温めるね」

「ありがとう」


お父さんがお風呂に入ってる間に味噌汁の鍋を火にかける。焼き魚のラップを剥ぎ取った。ご飯をお茶碗によそう。



寝る前に、思い出した。

そういえばこーちゃん、教室で男子と話してたな。アイドルを育成するゲームをやってるって。その影響か。まあ、何でもいいか。可愛くなれるとは思わないけど。構ってくれるなら。すぐ飽きるかもだけど。でもそれまでは。

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