第4話 ある生き残りのお話と、生き残った転生者

異世界が地球に来てから5年が経っている。大災害を生き延び、仲間たちとここまで逃げて来たものの、遂に魔法使いたちに捕まってしまった。子供の頃は魔法にあこがれていたけど、本物を見ると恐ろしくしか思えない。


あの魔法で焼き尽くされてきた仲間たちのことを思い出すと、自分もあんな目に合うのかとゾッとする。


奴らにとって私たちはただの獲物なのだろう。岩の魔法によって作られた檻に入れられながらそんなことを考える。


半分近くの仲間が今目の前で騒いでいる魔法使いたちによって殺された。家族が殺され、今にも呪い殺しそうな目で見ている男の子もいる。


ここにいる人たちは、コロニーへ向かう途中で合流して膨れ上がった烏合の衆だ。お互いの顔も知らない人たちがたくさんいる。


16歳になって、今頃は高校に通っていたはずだった。そんな平和は、もうない。どこかのコロニーへ行ければそんな暮らしもできるかもしれないが、私たちはコロニーへとたどり着くことさえできなかった。


魔機技師エンジニア』に体を改造してもらい、奴らに復讐すると言っていた男の人ももう居ない。


というか改造されてたくせに一撃で殺されていた。まあ相手も魔導士だからしょうがないのはしょうがないけど。


まあ、こんな事態だ。みんな、遊びのように殺されてきた人間たちを見ている。だからこそ、どんな目に合うのかも予想できるのだろう。


あんな目に合うくらいならば自殺する、なんて人もいる。一瞬で死ねれば幸運、死ねなければ地獄。


私は最後まであがくけどね!


轟音。何かが近づいてくる。

それは速すぎて私の目には見えなかった。


そして着弾。とてつもない衝撃波を起こし、目の前の魔法使いたちを吹き飛ばす。奇跡的にかわざとなのかはわからないが、私たちへの被害は殆どなかった。


しかし首魁は生き残っていた。

さらに点火音がして、人影が迫ってくる。


それは武骨な鉄塊を腰から引き抜いて、首魁に向かって撃つ。撃つ。


敵の防御は―――破れない。

もう一発背後の敵に撃ち、殺す。


しかし待ち伏せをしていた魔法使いに吹き飛ばされてしまった。あの傷では助からないだろう。奴らも追い打ちをかけている。


希望は、消えた。

あれはバケモノ魔法使いよりもよっぽど人間に見えた。


怒っているように見えた。


私たちに近いナニカに見えた。


ああ、もう駄目なのかな、と思う。

私たちはこれからどうなるのだろう。


―――――


あれから数時間が経った。

希望を与えられ、それを失うというのは、最初から無いより余計に辛いことだ。


私も完全に諦めかけた時、ビルから再び黒い人影が飛び出してきた。

それはもう銃を持っていなかった。見覚えのあるシルエット。

日本の伝統的な刃物の形、『刀』。まあそう呼ぶには少し武骨すぎるけど、確かにそう見えた。


一本の刀を持ち、寝静まっている魔法使いたちへと加速。

見張りを切り裂く。焚火に照らされ、ようやく人影の姿が見える。


それは、一本に縛った白髪に強い眼光を携え、月光の下で輝いている美女(美少女?)であった。少し美化したかもしれないけど、私にはそう見えたのだ。


一つの希望が、再び灯った。


彼女は強かった。すべての魔法使いを切り裂き、最後の魔導士も断ち切った。私もよく知るような居合で。


そしてぶっ倒れた。


岩の牢を作っていた魔導士が死んだからか、檻も崩れる。

人々はまだ呆然としていた。

まあ、それもそうだろう。


希望と絶望を行ったり来たりして、ようやく希望にたどり着いたのだ。

生き残った数十人。


そのうちの一人が走り出した。

コロニーへ向けて。


一人が走り出した。

家族の死を弔うべく。


一人が走り出した。

すべてを失い、死に場を探すべく。


みんな、この忌々しい場所から少しでも離れようと躍起になって走り出していった。

私を除いて。


私も歩き出した。

私たちの希望になってくれた彼女へと向けて。


倒れた彼女のそばにしゃがみ込む。

彼女が受けたはずの外傷は既になかった。


彼女は人間よりも人間に見えた。

だが、彼女は完全な人間ではないのだろう。見るからに彼女は魔法使いではない。しかし、生身であんな動き、できるわけがない。


彼女を引きずり、一番近くのやつらのテントへと運ぶ。入口に倒れていた死体を吐き気を催しながら押しのけ、彼女を中のベッドに押し込む。


もしかしたら怪我をしているかもしれないと思い、軍服をはだけさせる。人間味のない人工的な皮膚があり。そして、そこには帝国の紋章が刻印されていた。


「嘘」


ため息が漏れる。帝国は、最も多く国を滅ぼした異界の国だ。

私たちの一番の仇だ。なのに、彼女は私達を救ったのだ。


どうすればいい?敵が。しかも特に多く人を殺したであろうと思われる強大な戦力を有する仇が。今、無防備で私の前で眠っている。


この手にはナイフがある。父の趣味で、逃げる時に家から持ち出した一本のナイフが。


それを持ち上げる。手が震える。これを振り下ろせば、殺せるかもしれない。たくさんの人々の仇を討つことができる。


一瞬躊躇し―――手をゆっくりと下す。うん、私には殺せない。

というか、私に他人の仇を討つ義務なんてないもんね。それにどうせもう一度死んだようなもんだし、この人に殺されるなら、もうそれはしょうがないと割り切ろう。


こんな世界で生きていくには殺しあわなきゃならないんだから、弱者は食い物にされるだけってことだ。


大体地球72億人だけでも物資がギリギリなのにそこに新しく人が来た上に異常気象なんて、それこそもう人自体を減らさないと成り立たない。


問題解決の前に人が滅びるんだから、次善策としてそうして延命しなきゃきゃ共倒れだもん。


それに私が一人で出て行ったところで死ぬのがオチだ。だったらこの人に賭けたほうがまだいい。


決心すると、いっそすがすがしい気持ちになった。状況は完全に地獄絵図だけど。


―――――


「エル様ー?起きてください、もう朝ですよ!」

「むにゃ…後五時間寝かせて…」

「もう本国じゃないんですから!今は戦争中ですよ?」

「どーせ虐殺でしょうに…」

「だーめーでーす!さっさと起きてください!昨日の威厳は何だったんですか!?」

「否定はしないのか…」


こいつはアリア・クローデル。私が魔導士になったときについた世話係だ。私が魔導士になったのは魔導国でも最年少。未熟さを補うための世話係という名目ではあるが、実際はただの監視係だろう。こんな時のための。(世話係の仕事)


「もう!そんな布団があるから悪いんです!」


悪魔が近寄ってくる。私の平穏な睡眠を乱す悪魔が。


「フーッ!」

「威嚇なんてしても無駄ですからね!?」

「ニャァァァ!私の布団を返せ悪魔ァァァ!」

「誰が悪魔ですか!」


ヤツが布団を私から引き離す。安眠は誰にも邪魔されてはならないものだと思うのだが。こいつじゃなかったら殺ってるかもしれん。


むう…目が覚めてしまった。

しょうがない、朝ご飯を食べに行くか。


「ところでお前、なんでメイド服なんて着てるのさ」

「え?世話係といったらメイドでしょう?」

「今時メイドでもメイド服なんて着てないよ?」

「え?」

「え?」

「マジですかそれ?」

「大マジ」

「嘘ぉ…」


まあいいや。クローゼットから服を取り出して着替え―――「早く出てってよ。なんでそこにいるのさ?」

「エル様のお着替え姿を目に焼き付けるために決まってますが?」

「キッッッッショ!」

「ッ♡」


変態が頬を紅潮させる。


「やっぱ変態じゃん…とりあえず出てってよ。私もお前に魔法は使いたくないよ?国に怒られるから」

「怒られなければ使うんですか?」

「使う。塵さえ残さずに消す」

「ヒドイ…」


変態が名残惜しそうに天幕を出ていく。

いなくなったことを確認して、魔導士の証であるローブに腕を通す。白の生地に金糸での刺繍を施し、付与魔法まで付いた一級品の魔道具だ。


コイツを羽織り続けている限り、私は魔導士としての特権を有し、仕事に縛り付けられる。さっさと隠居して一日中寝てたい。そこら辺の山の中でもいいから。


あくびをして天幕から出る。それと同時に、数キロ先の山から炸裂音が数回響いた。大量の鉄塊が着弾し、火薬の猛威を開放する。


「畜生ッ!」


あまりにも急なことで対応しきれなかった。あれはおそらく榴散弾の類なのだろう。空中分解と同時に爆弾を空中にまき散らし、広範囲にわたって絨毯爆撃を行うような非道な兵器だ。


私だって、迎撃のための大規模攻撃を行うには最低限の時間が必要だ。いつもなら余裕で殺れていただろうが、寝ぼけているところを撃たれてはどうしようもない。


機界軍だ。間違いない。よく見ないと帝国か共和国かはわからないが。

どーせあいつら隊員がどんだけ死んでもどうでもいいが、私の評価が落ちるのは誠にいただけない。


―――余談だが、あの兵器は帝国の中でも旧型だ。大体、帝国において火薬を使用する兵器などほぼ時代遅れとされる。光学系の兵器のほうがよっぽど強いからだ。故に分かることがある。あれは、捨て身の部隊。奴隷階級の者をかき集め、中古品で武装させ、敵に突っ込ませる。ただそれだけの部隊だ。


まったく、国もよくぞここまでの役立たず共を押し付けてくれたものだ。全員まとめたよりも私一人のほうがよっぽど強い。私に崇拝や憧れを向けるものの、追いつこうなど全く考えていない成長性のないやつらばかり。


おまけに今の爆撃で半分近く死んでいる。まあ国にはまだたくさんいるものの、そのうち人員不足になるんじゃないか。私を過労死させないで欲しいものだね。


―――――


魔法には、多くの技術が組み込まれている。その中でも最も重要なのが、物理法則だ。重力然り。水蒸気爆発然り。化学反応然り。


私は元現代人だからね。その程度の知識はあるってワケ。

それを情報として書き込み、魔力を注ぎ、自分の属性に合った魔法を発動させる。

無属性ならともかく、属性魔法には属性は必須だ。


私の属性は『光』だ。あまり見ないレア物だが、その弱さは群を抜く。魔法の学びなしでは、指先を少し光らせる程度のことしかできない。

だから学んだ。魔法を開発した。前世の学びをすべて使った。国に重宝されるため、自分には使えない魔法もたくさん作った。


光の本質は『波』と『粒子』だ。光子フォトンと呼ばれるエネルギー粒子の集まり。まあこんなことは調べればすぐ出てくるが、私が言いたいのは『エネルギーENERGY』はすべてに通ずるってことさ。


いや違うよ!?別に脳筋じゃないよ!?私が言いたいのはE=mc^2ってやつ。相対性理論だか何だかってやつね。まあちょっと違うけど、光ってのはエネルギー源にできるワケ。私の魔法を使えばね。


だからそのエネルギーを使って日本に帰れないかと思ってたのさ。魔法を研究すれば。なんかそれより先に来ちゃったけど。


以上!ちょっとした身の上話でした!

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