第3話 大艦巨砲主義じゃい!魔法はクソ!

エンジンをかける。ブオンと音がして、発電機エンジンが動き出す。最高だ。カッコイイ。わざわざ改造した甲斐があったというものだ。ほう、と感嘆のため息を漏らす。そしてアクセルを踏み、目的地へと出発する。


―――走り出してから10分が経った。ほぼ直線で駐屯地を目指していたが、悲鳴、そして破壊音が聞こえてバイクを止める。少し離れたところから聞こえてくるようだ。常人と比べかなり強化された聴覚にようやく微かに聞こえるといった程度だ。


銃声は――無い。恐らく帝国軍は関与していないだろう。そして破壊音から察するに、おそらくは魔法。帝国軍は無慈悲に脳天を撃ち抜くからな、地球の人間が生き残れるがない。


つまりは、魔界軍が日本人の生き残りを襲っているのだろう。


バイクを悲鳴の聞こえた方向に向ける。―――まあ、もう散々殺しているのに今更彼らを助けようなどと思うのは自己満足だと十分理解しているけど。


「うん、私は魔界軍およびゲリラの殲滅任務を受けている。だから魔界軍を皆殺しにしようと、生き残ったゲリラをうっかり逃がしてしまっても、何の問題もないな。ヨシ!」


もし軍法違反だと捕まっても大丈夫なように、自分に言い訳をする。

我ながら訳の分からない言い訳だ。


そして、エンジンを全力で踏み込む。

最大加速ブースト、起動』


ソニックブームがビルの間に反響し、後には轍が残った。


「ぐぅっ!やっぱり慣れないなっ!」


超高速で移動するバイクにしがみ付く。最大加速ブーストは、短期決戦の時にのみ使う危険な機能だ。エンジンへの負担も大きいし、長時間移動することはできない。直接自分につないで操作しなければすぐにバッテリーが切れてしまう。


つまりは特攻だ。


自動人形オートマタ達も急いで目的地に向かうときにも、たまには使うが。え?私だけ?一緒にするなって?ひどくない???


少しスピードを落として座席に座り直し、戦いに備える。

「『機構変形メタモルフォーゼ』、『電磁加速砲レールガン』!」


機構に意識を向け、変形させる。私の意志に従い、全身の大きさに近い巨大なレールガンに腕が成形される。


私の『眼』に意識を向け、機構を励起させる。


観測眼オブザーブを起動』


観測できる全ての情報がデータ化され、脳に流れ込む。これにはかなりの負担がかかるので、早く終わらせたい。


電磁加速砲レールガン過剰充填オーバーチャージ!』

レールガンが過剰に発生した磁場の影響で形を変える。完全にバイクを停止させ、レールガンを地面に固定する。リロードしたのは直径10センチほどの砲弾。


レールガンに負荷をかける代わりに、災害のような破壊を巻き起こす必殺技だ。


照準をのぞき込む。およそ1キロ先。角度を調整。狙撃、開始。


ドン、と大きな音がする。そして超音速の砲弾が魔法使いの一団に着弾する。

地面を抉り、瓦礫を吹き飛ばす。爆心地の魔法使いは皆死亡。残りは―――数人か。咄嗟の防御で衝撃波から身を守ったようだ。魔導士級もいるな。


厄介な。手を出したのは失敗だったか?


オーバーヒートした愛車をその場に残し、スラスタを全開にして残党に迫る。奴らの魔法に愛車が巻き込まれたらどうなるか、考えるだけでも恐ろしい。できる限り戦場を遠ざけなければ。


移動しながら腕を元に戻す。こちらに気が付いた魔法使いたちがこちらに炎の魔法を撃ってくる。それをビルの壁を足場にして避け、近づく。


残り200メートル。ここまで被弾は無し。さらに加速し、残りを一直線に迫る。


一団の懐に入り込むと、急加速に追いつけなかったのか魔法使いたちの動きが止まる。

一度ハンドガンを腰から引き抜き、ハゲの魔導士に狙いを定める。


発射。もう一発。


2発とも命中はしたが、障壁を割るには至らない。

「このクソガキがっ…!機界軍か!?」

「チッ、足りないか?」


魔導士を除く残りの魔法使いはまだもたもたとしている。殺し合いというものを碌に経験したことのない新兵なのだろう。


殺れる。魔法を十全に使えない魔法使いなど、銃を扱えない兵士に等しい。―――いや、待て。こんな新兵を敵地に監督一人で送り込むか?


戦争で培った直感を信じて後ろを振り向くと、物陰にしゃがみ込み、こちらに杖を向ける青年が見える。


―――は?


「『衝撃弾インパクトッ』!」


避けようとはするが、間に合わない。次の瞬間、頭に強力な衝撃を受けビルの奥まで吹き飛ばされ、視覚がシャットダウンされる。体が動かない。


おかしい、あそこに魔法使いは居なかったはずだ。十分に警戒していた。となれば、やはり魔法だろうか。むむ、レーダーにも映らないのに、分かるわけがないだろう!


いくら経験を積んでいたところで、まったく違う法則が適応されるならどうしようもない。一度意識が遠のき、シャットダウンされる。


まったく、愛車を置いてきていてよかった。


―――意識が戻る。あれから数時間が経っているようだ。体が動かないが、恐らくは代替物質マテリアルの在庫を消費して再生しているのだろう。それにしても、ずいぶんと時間が掛かったな。


次に、視覚が戻ってくる。どうやら廃ビルの壁を突き破っていたようだ。内装から察するに、ここはオフィス街だったのだろう。


更にレーダーが戻る。


魔法使いたちはまだキャンプをしている。…魔法で作られた檻に数十人の日本人が閉じ込められているようだ。


まだ気が付かれてはいない。奴ら、吹き飛んだ私の機手を鹵獲したようだ。不味いな。再生はするが、解析されて技術的優位を取られてはどうしようもなくなる。


オマケに私の責任問題になる。魔界の技術発展具合を見るにそう簡単には解析されないだろうが、奴らには魔法ズルがある。


もし解析されてしまえば、それこそ目を覆えない。


代替物質マテリアルの消費を早め、再生を加速させる。


腕を持ち逃げされるようなら、黒纏双刀ノワールの使用も辞さない。まあ単純に責任逃れのためだが。

再生が終わる。立ち上がり、瓦礫を払う。


吹き飛ばされた時に突き破った壁から外へと歩く。少しよたつくが、何とかなりそうだ。


私の体には多くの機構が詰め込まれている。戦闘特化型のため、主に遠距離と近距離に特化した兵装ばかりだが。


そのうちの一つに、近距離戦闘に特化させるというものがある。これは遠距離戦に持ち込めない時の為の機構だ。少しばかり反動が大きいため、そうそう使うことはない。


電磁加速砲レールガンがオーバーヒートで使えない今、私に使えるのはハンドガン、そして黒纏双刀ノワールのみ。


どちらも遠距離には向かない。そして、今は反動など気にしている暇ではない。

限界突破リミットオフ


体全体が赤熱化する。制御核の温度が急上昇する。

物質倉庫ストレージ開放オープン


これは半暴走状態なため、体が自壊していく。それを補うのが私達自動人形オートマタの『代替物質マテリアル』だ。


「なっ!おい!あいつ動いてるぞ!」


気づかれたか。だが、もう遅い。片手で鞘を持ち、もう片方の手を刀の柄にかける。


黒纏双刀ノワールの使用許可申請を確認―――許可します。』

冷たい黒色の刀が光を宿す。機構が作動する。分子割断ブレード、『黒纏双刀ノワール』がその真価を発揮する。


私は戦場の経験から、独自の戦闘技術を編み出した。あくまで自動人形オートマタに合わせた剣術で、稚拙ながら後輩に教えたこともあった。


縮地で見張りの目の前に迫る。まあ、スラスタでブーストして踏み込むだけの技だが、上手く使えば攪乱など朝飯前だ。


「『閃』ッ!」

刀を抜き放つ。頭から足まで体を両断する。男は悲鳴を上げる間もなくこと切れた。


「なんでっ!頭は徹底的に叩き潰したはずだ!あいつらは頭が弱点なんだろ!?」

再生が遅かったのはお前のせいかよ。不具合かと思って心配しちゃったじゃないか。


私の脳は急所でも何でもない。本当の急所は体の中心にある真核ブラックボックスだ。


めっちゃ固いけど。


恨みを込めて、再びたたき切る。この様子だと、2本使う必要はなさそうだな。いい加減にまた奇襲を受けるわけにもいかないし。


代替物質マテリアルを使用。黒纏双刀に注ぎ込む。ブレードが拡張される。

宴会をしていた魔法使いたちを一度に両断。破壊性能に全フリしたため、拡張部分は一撃で壊れてしまう。


例のハゲ魔導士が慌てて天幕から出てくる。

「おいっ!こっちだバケモノ!これ以上俺の部下は殺させんぞっ!」


「チッ!このまま殺せるかと思ってたが…そんなに甘くはないか」

どうやら障壁は忘れていないようだ。せめて油断していたらやりようはあったが。最初に殺すべきだった。


「バケモノめ!我が国の英雄、エル様が直々に開発なされた魔法を喰らってみよ!『火よ!水よ!互い混じりて吹き飛ばせ!水炎蒸爆スチームバースト』!」


魔導師が杖をかざし詠唱すると、温度にして数百度を超える熱気が身を焦がし、爆風が体を吹き飛ばす。

「ぐぅっ!」


だが、左腕と片目で済んだ。刀を持つ右手は健在。スラスタはもう使えないが、強化された機足があれば十分。地面を蹴り、間合いを詰める。


更に刀の機構を開放する。


「『超越分断オーバーディバイド、起動』!」


刀を鞘に納め、一撃を振り抜く。その一閃は障壁を両断し、魔導士を切り裂いた。


戦闘を終え、ガクンと反動が来る。体が動かない。真核ブラックボックスが熱い。地面に倒れ、意識を失う。


それにしても、超越分断オーバーディバイドで切り裂けて良かった。正直、かなりの賭けだった。本来戦艦に使うような近距離での必殺技だ。それでも、『魔法』という未知の技術に通用するかどうかは分からなかった。


まあ、結果オーライ!終わり良ければ総て良し!…寝てるシャットダウン間に殺されなければいいな…

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