第3話

「タイタン、俺行くことにしたよ」

牢屋に戻ったミルナはタイタンに自分が旅に出ることを伝えた。


タイタンは瞳孔を大きくしてミルナの方を見る。どこかその姿は大きく見えた。


細目でミルナを見続けながら立ち上がり頭を撫でる。


髪がくしゃくしゃになるまで強く撫でまわした後、タイタンは豪快に笑う。


「はっ、行ってこい!」

「うん、ちゃんと見ててよ、俺この世界で一番偉い奴になって帰ってくるから」

「あぁ待ってるよ、ずっと待ってる」

タイタンはぐいっと力強くミルナの頭を抱き寄せて、胸に当てる。


「元気でな」

「うん、タイタンも元気で」

お別れは悲しいものなのだけれど、二人の間に涙はない。


二人は笑って、明日の旅立ちに思いを馳せる。


困難かもしれない、死の危険もあるかもしれない。


だがそこにはロマンがある。


「じゃあ今日は徹夜で話すぞ」

タイタンの言葉にミルナは「うん!」と大きくうなずいた。


その日は看守が嫌になるほど、牢屋の連中が騒ぎに騒いだ。


そして次の日

「じゃあタイタン」

早朝に訪れた看守は眠たそうに目をこすりながらミルナを牢屋から出す。


「ちょっと待て、こいつもってけ」

タイタンから投げられた小石をミルナは両手で支えるように受け取る。

「これって」

見るとその小石には”安全”とだけ書かれていた。不器用で揺らぎながらのその文字からは必死に石で削ったのだろうということが容易に伺えた。


ミルナはそれを大切そうにぎゅっと抱きしめる。


その石には神様の力なんてものはないのかもしれない。


でも、一人の人間による願いはそこに宿っている。それだけでミルナにとってはたまらなく嬉しいのだ。


「行ってくる」

「おう」

ミルナはにかっと歯をむき出しにして笑って、牢屋を後にした。


「じゃあなミルナ、絶対に死ぬんじゃねぇぞ」

タイタンはその後ろ姿が見えなくなるまで見続けた後、力が抜けたように鉄格子に背中を預けた。



「すぅぅぅーーーー、はぁぁぁぁぁぁーーー」

ミルナは釈放されてすぐ大きく深呼吸をした。


久々のコンクリートの壁に囲われていない状態での呼吸に気をよくして思わず笑みを零してしまう。


「久々の外だー」

ぐーと伸びをして、外の新鮮な空気を一身に取り入れる。


そんな最高の時間を満喫していると、例の声が聞こえてきた。


「やぁやぁやぁ約束通り出て来てくれたね」

「ったりまえだ、俺はこの世で一番でかい男になるからな、ってお前なんで顔隠してんだよ」

ミルナが見た女の顔は分厚い布で覆われていた。布の合間から微かに見える目で周りを見ているのだろう。


恰好自体はそう不思議なものではない。袖と丈がやけに長いワンピースに、厚い手袋を身に着けている。だが顔に布が巻かれているせいで、他の恰好が摩訶不思議なものに見えてしまう。


だがそれ以上に変な恰好をしている人間を見たことがあるミルナにとっては多少疑問を持つだけにとどまっていた。


「まぁ少々事情があってね、おいおい話すさ」

「あっそ、じゃあ早速探しに行こうぜー」

「その前に、この首輪つけてくれ」

ミルナに手渡されたのは一個の首輪、まるで犬につけるような到底おしゃれとはいえないものだった。


「えーやだよ、なんか俺が飼われてるみたいじゃん」

ぶーと頬を膨れさせて、文句を垂れるミルナ。

「知らないのかい?巷での最近のおしゃれはこういう首輪をすることなんだぜ」

「まじかよだったらつけるぜ、俺はいつだって時代の勝利者だからなぁ」

そう言われたミルナは問答無用でその首輪を首につけて自信満々に鼻を鳴らす。


「どうだ、似合ってるか?」

どやぁと首輪を見せつけてくるミルナに対してライオットはふっと軽く笑った。

「あぁよく似合ってるよその奴隷首輪」

「………あぁ?」

「君がしたその首輪はね私が作ったものさ、その特性は絶対に主人である私には逆らえないというものさ、だからどれだけ殴りかかろうとしても私に危害を加えることはできない、つまり君の攻撃が私に届くことはないのさ、それに私が君が逃げたと判断した時首輪がしまり、君の命を奪うように設定されている」

「……てめぇが何言ってるかわかんねぇけどよぉ!これはおしゃれでもなんでもねぇってことだよなぁ、てめぇは俺をだましたってことになるよなぁぁ!ぶっ殺す!」

ミルナは直情し、ライオットに向かって殴り掛かる。


だがその行動は寸前で止まり、首輪が締まり始める。


「が、あぁぐっ」

苦しそうに首輪をひっかくミルナ。

「な、んで殴れねぇんだ」

「言ったろうこの首輪をつけたものは私を攻撃できないようになっているんだよ」

ライオットがぱちん、と指を鳴らすと首輪の拘束がほどけ、息ができるようになった。


「が、はぁ、はぁ、てめぇ!俺と組むんじゃねぇのか!!」

「はぁ、全くこれだからおこちゃまは困る、牢屋の時に知っただろう私が心を読めることを」

「っ!?てめぇ」

「浅はかだぜフィン・ミルナ、私をフーゴ捜索に利用できるだけ利用してその後全部奪って自分だけのものにするつもりだっただろう」

「………なるほど、お見通しだって訳か」

ちっと舌打ちをするミルナは忌々しいものを見るように首輪に触るとはぁとため息を吐く。


「今決めたぜ、フーゴを見つけたら真っ先にお前をぶっ殺してやる」

「だから私を攻撃はできないと」

「フーゴってのはなんでも知ってんだろ?ならこの首輪を解く方法くらい知ってるよなぁ」

「………知ってるだろうね、たく生意気なガキだ本心で言ってやがる」

布の隙間から見える瞳が少しだけ楽しそうにへの字に曲がった。


「まぁいいや、ということはフーゴと出会うまで君は協力的になるって訳だ」

「あぁそうだぜ、そこまでは協力してやるよ」

「はぁ疲れるなぁもう、殺意を隠そうとしないんだもん、もうちょい仲良く行こうぜー」

「誰がするかばぁーか!!!!!」

ぐわぁっと食って掛かるようにライオットに向かって怒鳴るミルナを見て気だるそうに肩で息を吐いた。


「人選間違えたかなぁ」

「口に出すなよ、性悪女が!!」

「だーかーらー、私はライオットだって」

「絶対覚えてやらないね!」

ふんっ!と豪快に首を振って断るミルナにとほほと、ライオットは声を漏らす。


「しゃーない少しづつ仲を深めていこうか、腹減ってるかい?そこで私の力のことも色々と話そう」

「………減ってない」

むすっとした顔をしているがお腹の鳴りは抑えることができず、ぐぅぅぅぅっと地響きのような音が鳴り響く。


「減ってるじゃないか、近くに私が行きつけの店があるそこに行こうか」

「………てめぇのおごりだろうな」

「当たり前だろう、いつの時代に牢屋から出てきてほやほやのガキに飯をおごらせる畜生がいるのさ」

ほら行くぞと顎で指示するとクソが、死ねや等と知っている暴言をとりあえず吐きながら後ろをついていくミルナ。


その心中は穏やかではなかった。


(なぁんで、こいつは俺を選んだんだ?忠誠心がなんだと言っているがこんな囚人じゃなくてももっと色々いるだろうによぉ、なぁんかきなくせぇ)

じろじろと睨みながらも、その先に待っているであろうご馳走によだれを垂れ流してしまうミルナなのであった。





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