第4話

「さて、まず何から話そうか」

がしゃ、がしゃ、がしゃ。むしゃ、もぐ、ばくっ。

「私の力が先か、それとも次に行く場所についての話か」

がしゃ、がしゃ、むしゃむしゃむしゃ、ばくばくばく。

「君はどっちがいい?」

ばくばくばくばくばく、ずるずる、ばくっ。

「ねぇそろそろ食べるのやめて私の話聞いてくれないかなぁ」

ライオットは目の前でとどまることを知らないミルナの食欲に辟易としてため息を零す。


ミルナレストランに入ると同時に厨房に真っ直ぐに向かい、食材をほおばろうとしていたのだがギリギリでライオットが羽交い絞めにすることによってなんとかその凶行を止めていたのだが、その後も目の前のミルナは酷い食べ方で周りの家族連れ達をドン引きさせていた。


というのも、まともにフォークとナイフの使い方を知らず、基本手づかみで口に放り込むのだ。最初は使い方を教えようとしたライオットだったのだが会話をしようとする気が全くなくご飯を食べ続けるミルナを見て諦めたことでこの状況が完成したのである。


「んあ?ちょっと待て」

一瞬聞く素振りを見せたがすぐに視線を逸らし、食べ続ける。

「………りょーかい」

瞼をひくひくさせながらも、ライオットは布隙間から丁寧に肉を運んでいく。


それを見たミルナが違和感に思ったのか珍しくご飯を食べる手を止めた。


「おまえそれ邪魔だろ、脱げよ」

「それは無理な相談だね」

「あー?食いづらいだろそれ」

「食いづらいよ、もちろん」

「意味わかんねぇ奴」

「それがレディというものさ」

ほんの少し、閑話休題ともいうべき浅い会話を交わした後は二人共各々のペースで料理を減らしていき、一時間が経つ頃にはようやくミルナの腹が満足したのか、腹をポンポンと叩き、にかーとだらしない笑みを零している。


「あ、あ、あ、軽く30人前は超えているぞ」

重ねられた皿の量を見て唇をひくひくとさせる店員をよそにミルナは妊婦のように膨れ上がった腹をライオットに見せる。


腫れあがった腹は血管すら浮き出ている。

「ぎゃはっ!見ろこれ、まるで妊婦だよなぁ!!ぎゃはっ」

「はははっ!どんだけ食ったんだよ君ぃ、生後何か月ですかー?」

「もう生まれそうなんですー、ほら触ってみてください、ここ動いてるんですよ」

「あらほんと、今どんっと蹴られた気がしました」

「あらやだー、やんちゃな、子ね」

一通りの茶番劇を見せられた店員はチップももらえそうにないと悟るとげっそりとしたまま、厨房に戻っていった。


「さて、とじゃあそろそろ本題に移ろうか」

ぽんっと手を叩いて場を仕切りなおすライオット。ミルナも飯を食って気をよくしたのか、机の上に足を乗せたまま話を聞こうとする。

「あー、お前の力の話だっけ?」

「じゃあそっちから話そうか」

そしてライオットは語り始める。


「大きい声では言えないが私は魔法使いなんだ」

「まほーつかい?あー、なんかどっかで聞いたことある」

「大昔にあった職業みたいなものだよ、魔法全盛の時代は確か500年以上前の話だったかな」

「魔法ってなんか火とか出せるあれだろ?あー、俺の口の中に水出したのも魔法ってやつか」

「そう、他にも私の声に魅了された人の体をある程度操れたりもする」

「あっそ」

「反応薄くない?ちょっと傷つくぜ」

「まぁ俺はずっとスラムで生きてきたからな、世間の話や一般的常識とかは知らねぇんだ、だから魔法が使えるとか言われても、最近知ったあの、あー、えーっとら、らい、らいなんとかっていう炎を出す小さな箱を見た時と同じようなものだろっつー感想しかねぇよ」

「ライターねとほほー、現代の人間にとって魔法は失われた技術というのが浸透しているから聞けば驚いて話しかけてくるのが普通なんだけど、まさかあんな現代の技術と魔法の神秘が同等なんてー」

がくっと肩を落とすライオット。だがまだ話したいことはあるようで「まぁそれはいいとして」と続ける。


「実際魔法っていうのは現代の技術でだいたい再現可能なんだ、例えば以前君の口に水を出す魔法を使ったが、あれは別にホースかなんかを繋いで君の口に向かってだ水を出せば実現できるし、さっき言った炎を出す魔法だってライターで簡単に実現可能なことなんだ、とどのつまり基本的に魔法で出来ることは現実で再現できるのさ、魔法はその過程を短縮しているだけに過ぎない」

「あー、聞く限りだけどよぉ、それでも魔法ってすごいんじゃあねぇか?過程を短縮できるならよぉ」

「そうだ、魔法はすごい技術、だった」

「………」

「だが時代が進むごとに技術は進化していき、以前は木をこすってようやくつけていた火が今ではたった一回ボタンを押すだけで出るようになっているように、その結果を出すまでの時間がどんどん短くなっていったのさ、でも魔法を使える体になるまで20年、一つ目の魔法を覚えられるのがおよそ3年、つまり一つ目の魔法を覚えるのにかかる時間は平均して23年、効率が悪いのさ魔法は」

「確かにそりゃあ不便利だなぁでもそれでも、ノータイムでその結果が出せるって言うならよぉ、十分なんじゃあないか?」

「そうとも行かない、魔法を使うには魔力っていう力が必要でね、永久機関とかじゃあないんだ」

「えい、あー?てめー何言ってんだぶっ殺すぞ!」

「あ、忘れてくれ、とりあえず魔法を使うには魔力っていう体内をめぐる力が必要なんだ」

「あー、それのよぉ何が問題なんだー?」

「魔力って言うのはね、体に含まれる水と三大栄養素であるタンパク質、脂質、炭水化物、という要素を使い捻出される新たな要素なんだ、だから使いすぎると普通に死ぬ、つまりそう簡単に使えないのさ」

「あー、めんどくさすぎるだろ魔法」

「そうだから廃れた、全く持って非効率的だった、それに魔法の進化よりも現代の技術の進歩の方が早かったしね、理解してくれたかい?」

「あー魔法に関してはまぁなんとなくな、だけど一つ気になることがあったんだがお前何歳なんだ?魔法は随分昔に廃れたんだろ?なら今なお魔法を使ってるお前が若いとは思えないんだが、どうにも声が若々しい、ちょっと気になるぜ」

「………レディに歳を聞くのは失礼なんだぜフィン・ミルナ覚えていくといい」

「ババア」

「全くねぇそんな程度の言葉でこの私が動じると思ったのかい?殺すぞクソガキ」

一瞬にして放たれたのは絶対に殺してやるという殺気だった。


流石のミルナもその殺気に当てられて、怖気づいたのか「お、おう」とだけ返して押し黙る。


「さて、と私の力の話はとりあえず終わったし、じゃあ次の話に行こうか」

「次の目的地の話か?」

「そうそう、次は大富豪フーゴの手がかりを見つけに行く」

「でもよぉ、そのフーゴっていうのは確か一枚の写真しか手がかりを残さなかったんだろ?」

「そうだね、でもその一枚が重要なのさ、フーゴの写真が取られたのは巨人トールの銅像がある噴水の前だ」

「………お前馬鹿なのかぁ?そんなんが分かったところでよぉ、どうせそこに行ったら誰もいねぇぜ」

「それはそうさ、だからこれは次の手がかりへのヒントなんだと思うのさ、これ見てみて」

ライオットがひらりと一枚の紙きれをミルナの前に差し出す。

「あー、これ絵画か?」

ミルナが見たのは色とりどりで鮮やかな一枚の絵だった。中心にはにこやかに微笑む初老の男性と後ろには大きな槍を携えた巨人が噴水の上で堂々と立っている。


白と黒以外の色が使われている所を見ると写真というにはあまりにその域を出ていることが分かる。


「いーや写真だよ」

「はぁ?てめぇ舐めてんのか?俺ですら写真は黒と白だけってことくらい知ってるぜ、昔スラムのことを記録したいからって撮られたことがあっからよぉ」

「それでもこれは写真だ、色付きの、だけど」

「………ありえねぇ」

「そう、あり得ないことが起きている、だからこの色付きの写真を誰もが写真と認めなかった、自画像を誰かに描かせたのだと考える人がほとんどだった、でもさらにおかしいことに、この写真が全世界の家庭に配られたのはフーゴお抱えの新聞会社からのものだったからね」

「何が、いいてぇ」

「色がついた写真を複製している、という点が非常におかしい」

「………」

ミルナは険しい顔をしたままライオットを睨みつける。


「今の印刷技術では色の転写はできない絶対にね、それに加えて今の絵画技術でこれほど精巧に絵を描こうとすると水彩画になってくるが、この絵には水彩画特有のしみや、線のぼやけがない、つまりこれは水彩画ではなく写真だ、色がついた写真と、それを模倣する技術、言いたいことは分かるかい?」

「魔法ってことか」

「そうフーゴは魔法使いだ」

「でもよぉ、まだフーゴが魔法使いと決まったわけじゃあねぇだろ、仲間がそうである可能性だってあるわけだしよぉ、それにぃさっきてめぇ自身が言ったじゃあねぇか、魔法は基本的に現代で作り出すことができる技術だって、再現できない技術を再現してるこの写真を、魔法っていえるのかよぉ」

「そうじゃない確かにさっき基本的に再現可能だといったが、そうでないものもある、私はかつて人を言葉で操る魔法を作った、当時それは誰も見たことがない技術だった、だが後の時代で教祖と名乗るものたちが台頭しただの言葉のみで人々の心をつかみ、宗教という自分都合の集団を作った、たかが一般人に私の魔法が凌駕されたのさ、そこで考えたんだけど魔法って言うのは未来の常識的技術も再現できる技術なんじゃないかってね、あまりにサンプル数が少ないから眉唾ものだけど、まぁとにもかくにも私は思ったわけだよ、このまるで非現実的な写真に色をつける手法も、未来では魔法なしに再現できる技術なんじゃないかってね」


「というかそうでないと説明ができないし、魔法以外の何かしらの力が存在していたとしても、今どれだけ考えたところで答えは出ないしね、だから私はフーゴが魔法使いだと仮定した上でこの首筋にある刺青に目をつけた」

「あー?それのよぉ何が」

「これと同じように見えないか?」

ライオットが袖をめくり見せてきた腕には写真に写っているフーゴと同じような刺青が入れてあった。


「これは魔法使いの証ともいれるものだ、魔法使いは魔法を覚える時自分の体をキャンパスに、その魔法に関することを描く、そうしないと魔法は体に定着せず、使うことはできないのさ」

「………なるほどな、確かにこの首筋に見える奴は文字に見えなくもないな」

「そう、だからフーゴが魔法使いだということはほぼ確実だ、さっき言った私が知らない力を持っていない限りね」

「あっそ、で?魔法使いだからなんだってんだ?同じ仲間だから仲良くしましょってか?馬鹿か!?馬鹿なのかてめぇは!」

「一体いつそんなことを言ったんだい、「魔法使い」このワードに注力した時に後ろにあるこの噴水に目をつけてみろ」

「この巨人がどうしたんだ?」

ライオットはその疑問を待ってましたと言わんばかりににっこりと笑う。


「この巨人の名前はトール、魔法が全盛だった時代よりそのまた昔にいた人類の始祖ともいうべき存在だ、まぁほとんど迷信で実際いたかどうかは定かではないがね、そして彼には巨人の他にもう一つだけ魔法使いの間でだけ有名だった異名がある、”魔法使いの教科書”というものがね、その昔トールは人類の最高峰と呼ばれていた、指を弾けば炎は出るし、手を動かせばすさまじい風も吹かせる、さらに不老不死という能力も持ち合わせていたらしい」

「魔法みたいだな、って言ってほしいのか?」

「そう魔法とは巨人トールの体を研究した結果生まれたものだった、魔法を作る方法の一つとして最も有効とされているのが目の前にある事象を直接見て触れることだからな、まぁ当時の魔法使いたちはそんなこと知らなかったとは思うがね、多分トールという明らかに異常な人類を調べたいという欲求から生まれた副産物が魔法なんだろう」

「………おい、話がなげぇさっさとよぉ、話まとめろよぉ」

長ったらしい話に飽きが来たのかミルナはぐたぁっと机の上で突っ伏してから文句を垂れる。


それを見て、ライオットはつい頬を赤らめ、両手を大きく振る。


「す、すまない魔法のことになるとつい長話になっちゃうんだ、こほんじゃあさっさと話を終わらせようか」

くしゃくしゃ、と髪を整える動作をする。


「そうそう、ここで次の目的地の話に繋がるんだけど、この写真は魔法によって作られた、そしてこの写真には見てくださいと言わんばかりに刺青が浮き出ている、つまりこの写真自体をキャンパスだと仮定し、魔法を使うための栄養素タンパク質、脂質、炭水化物、そして水をこの写真の上に垂らすと………」

ライオットは写真の上に水、鶏肉、ラード、ライスを乗せると徐々に写真の端に文字が浮かび上がって来た。ミルナはそのありえない現象に目を丸くさせる。


ライオットはそれを見てほくそ笑む。

「魔法が起動するってわけさ、まぁ自分の体以外に刻んだ魔法式で発動するなんて真似は今の私の知識では想像を絶する技術だけどね」

ふぅと、息を整えてライオットは続ける。


「ここには”死した場所に叡智はあり、叡智あるところに答えあり”と書かれているわけだが、この死した場所っていうのはトールが死んだ場所で、トールが死んだのはここから東に40キロほど先にある国イシュタルだ、そしてこの叡智っていうのは図書館のことだ、だから次の手がかりは軍事国家イシュタルの図書館に隠してある、なぜ確定しているかは後で教えよう」

「おーけーだ、次はそこってことだな?」

「正解」

ぱちんっ、と指を弾いて謎にうっとうしいウインクをミルナにぶつける。


「俺は難しいことはわからねぇ、そこに行けというなら行くしかねぇからなぁ、道案内は任せたぜ」

「はっはっ、気持ちいい性格してるね君、じゃあ行こうか善は急げだ、うだうだしていたら宝を持ってかれてしまうからね」

近くに置かれていたバッグを肩にかけて、ほとんど無いに等しい胸を張ってライオットは告げる。


「このどこにでもあるレストランから始めようか、私達の宝探しを」










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2026年1月11日 20:00

私は人を捜している @rereretyutyuchiko

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