第5話 死神とメイド、ハウジングをする

 お家の中に入ると、それはもう酷い有様だった。


 カーペットの敷かれたリビングの上に、足の踏み場に困るほどに乱雑に散らばる木箱アイテムボックスたち。


 ただ、ダイニングキッチンや物置き棚など、『初期ハウス』にはなかったものも多々あり、多少は豪華になっている。


「このお部屋をお掃除すればよいのですね? すぐに終わらせますので、ご主人様はそちらに座ってお茶でも飲みながらお待ちくださいませ」


「いいの? ごめんね、手間かけちゃって」


「いえ! ご主人様のお手間を肩代わりするのがメイドの役目ですもの!」


 何故かすこぶる嬉しそうな顔でそう言うと、ソフィアは部屋に散らばるアイテムボックスの整理をし始めた。


 言われた通り、インベントリから取り出した茶葉を使ってお茶を【作成】し、飲みながら待っていたら、数分後には部屋がきれいに片付いていた。


「おお、すごい……」


「いえいえ、軽く整理整頓しただけですわ。それと、ついでにボックスの中身も種類ごとに整理しておきました」


「えっ? そ、そこまで? わざわざありがとう……」


 私は整理整頓が苦手なタチなので、アイテムボックスの中身も非常に乱雑で、どこに何が入っているのかほとんど分からない状態だった。


「いえいえ。余計なお世話ではなかったでしょうか」


「ううん、すごく助かるよ! ありがとう、ソフィア」


「うふふっ♡ もっと褒めてください♡」


「……ソフィアはいい子だね」


「きゃっ♡ わたくしも愛しております、ご主人様!」


 いや、私は『愛してる』なんて一言も言ってないけど。


 この子とは百年以上の付き合いになるけど、このデレ100%な感じにはまだ慣れない。


 どこからどう見てもクール系な美女の口から、語尾にハートマークのついた猫撫で声が出るだなんて誰も思わないだろう。


「ご主人様、次はどんなお仕事をすればよろしいでしょうか? お食事になさいます? それとも肩をお揉みいたしましょうか? それとも、寝室で——」


「それ以上は言わせないよ? そうだね、次は内装をどうにかしたいかな。このままだと質素すぎるし」


 ダイニングテーブルやキッチンなど、最低限の家具と設備はあるが、今のままでは生活感がなさすぎるというか、シンプルすぎるというか。


 せっかくの素敵なお家なので、中もおしゃれにしたいのだ。


 そういえば、この家のベッドはどこにあるのだろう。どんな家にも、ベッドはデフォルトで一つ置いてあるはずだけど。


 気になって二階に上がってみると、その一角に寝室が存在した。


 ワンルームの隅っこにベッドがぽつんと置かれていた初期ハウスとは大違いだ。ベッド脇には読書灯があるし、ベッドの向かいには本棚やデスクがある。


「まぁ。ここがわたくしたちの寝室なのですね」


「いや、ソフィアの寝室は別で作るよ?」


「あら、お気遣いはありがたいのですが、わたくしはご主人様と一緒のベッドで構いませんわよ?」


「気遣いとかじゃないから。私が困るの」


 一人用の小さなベッドに二人で寝るのは、いくら何でも窮屈すぎる。それに第一、この子と一緒に寝たら私の貞操が危ない気がして。


 残念そうな顔をするソフィアはほっといて、お家の内装を考えよう。


 まずは一階から。と言っても、前にも言った通り、私はハウジングにあまり興味がなかったので、デザインセンスにも自信はない。


 とりあえず、テーブルにはおしゃれな柄のテーブルクロスをかけて。その上に、花瓶でも飾ってみようかな。


 建築スキルの【家具】の欄を見ていたら、おしゃれな猫脚の椅子を発見した。


 デフォルトでテーブルに備え付けられた椅子はあったけど、地味なのでこっちに変えちゃおう。


 窓には、銀色の糸でお花の刺繍が施された白いカーテンをつけ。


 壁にはアンティーク調の大きな時計をかけ、寝転がれそうな大きなソファーを置き。


 お皿などが入った物置き棚の上には、動物を象った小さな置物を置いてみた。


 仕上げに照明は、スズランを吊るしたような形のかわいらしいものに。


 すると、どうだろう。それだけで西洋風のドールハウスのような、おしゃれでかわいい内装に仕上がってしまった。


 もしかして、私ってセンスあり? いや、ただ単にゲームの家具がおしゃれなだけか。


 一階のリビングの飾りつけが終わったら、今度は二階の寝室だ。


 直近で使うのはこの二つの部屋だけだろうから、他の部屋は、必要に応じて少しずつやっていけばいいよね。


 まず、デフォルトのベッドは、お姫様が使っていそうな花柄のものにチェンジ。


 デフォルトのやつはシーツも掛布団も真っ白で、ちょっと嫌なんだよね。病院みたいで。


 読書灯は、リビングの照明と同じようなスズラン型のものにしよう。


 続いて、ベッドの向かい側の空きスペースには【魔剣のオブジェ】を設置。他の家具との相性はさておき、中二心をくすぐられる最高の家具だ。


 あとは……どうしようかな。

 そう思いながら家具一覧をスクロールしていると、とってもかわいい動物のぬいぐるみを発見した。


 そうだ、これをベッドの上に置こう。それから、窓辺にも置いちゃおう。


 すると、それだけで室内の女子力が一気にアップした。これぞまさに『かわいい女の子の部屋』って感じだ。(魔剣のオブジェから目を背けながら)


 ソフィアの寝室は、私の寝室の隣に作ろう。……いや、対角線上の方がいいかな。


「わたくしは、ご主人様と一緒に寝たいのに……」


「ソフィアはもう大人でしょ。大人は一人で寝るの」


 しょんぼりするソフィアの寝室も作り終えたら、これで我が家の完成だ。


 一度外に出て、改めて新居を見回してみる。


 やっぱり、何度見ても素敵なお家だ。友達(これからできる予定)を呼んだら、『レフィちゃんのお家、かわいい~!』と褒められてしまうに違いない。


 こんな素敵な家なのだから、ドアの前に『友達募集中! 気軽にノックしてね!』なんて書いた看板を飾ったりなんかしたら、友達になりたいと申し出てくれる人がひっきりなしに現れるんじゃないだろうか。


 ふふ、ふふふふふ……。




 ——数日後。


「聞いたか? ヴィーゼの大平原に、死神が引っ越してきたって噂!」


「ああ、聞いたよ。そんなところに家を建てるなんて、どこかの国を転覆させようとでも考えてるんじゃないか?」


「しかも実際に死神の家を見た奴によると、外見は普通の民家と同じらしいんだ……こちら側の警戒心を薄れさせる魂胆か?」


「怖いなぁ、俺たちの国に来なきゃいいけど……」


 そんな会話を、通りすがりの冒険者がしているのを聞いてしまった。


 ——どうしてこうなるのよーっ‼

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る