第3話 レフィ、死神になる
星降りの
巨大な遺跡の扉を開け、古代の魔術師が魔王エストレーラを地下深くに封じ込めた霊廟へと降りていく。
霊廟の護衛であり、ゲーム内では中ボスだったゴーレムたちは、さっさと倒してしまった。一番最初の章のラスボス前の中ボスなんて、弱い弱い。
霊廟の封を解くと、その瞬間、禍々しいオーラと強いオーラが、吹き付ける旋風のように私の肌に触れた。
ゆっくりと開く扉の向こうから顔を表したのは、複数の顔がくっついた肉塊のような、禍々しい見た目をした生き物。あいつがエストレーラだ。
『ググ……グァァァァァァ……ッ!』
どこか苦しそうに聞こえる呻き声を発したのちに、エストレーラに張り付いた無数の目の全てが私を見る。
ゲームだと大したことなかったけど、こうして実物を見るとやっぱりグロいなぁ。
よし。まずは、あいつを状態異常にしてやろう。状態異常を駆使することが、
【災厄の黒翼】
カラスの翼が舞い落ちるようなエフェクトが出る。これは、指定した相手一体をランダムな状態異常にするスキルだ。
一秒後、エストレーラの頭の上に紫の泡のようなエフェクトが見えるようになった。
よしよし、無事に毒状態にさせられたみたいだ。
レベルMaxの
だが、それでもエストレーラはあきらめようとしない。強力な攻撃スキルを連発してくるが、私の
回復スキルを使われないうちに、さっさと倒しちゃおう。
私は鎌を持ち直し、スキルを頭に思い浮かべた。
【最後の審判】
状態異常の相手に対し、大ダメージを与えるスキル。
大鎌が鋭く光り、エストレーラの体をザシュッと斬りつける。
すると、その瞬間——
『グァァァァァァァ——‼』
血しぶきが上がるとともに、激しい呻き声をあげてエストレーラは形を失い、辺りに散らばった。
エストレーラを倒した証として、私は顔の一部を切り取っていくことにした。
丸くぎょろりとした眼球は今にも動き出しそうだけど、もう動かない。
これを持って、竜の谷に帰ろう。
◇◇◇
私が魔王エストレーラを討伐したという噂は、瞬く間に世間に広まった。
伝説の武器を持った勇者などではなく、ごく普通のドラコイドの女の子が魔王を討伐したのだから、大陸中はもう大騒ぎだ。
私を讃える声は止まないし、国王は褒美として多額の報償金と貴族の称号を与えようと言い出した。
もちろん、断ったけど。貴族の富と地位を手に入れてしまったら、もう『普通の女の子』ではいられなくなってしまうだろうから。
私はあくまで普通の女の子として、この人生を楽しみたいのだ。
いつの間にか、私に二つ名というか、あだ名のようなものを勝手につけ始める人たちも現れた。
まぁ、それは英雄の宿命のようなものだから仕方ないだろう。
それに正直、十七歳になっても中二病が治らなかった私としては、そういうのは大好きだ。どんどんつけてほしい。
魔王を倒してから暫くして、宿の女将さんのご飯が恋しくなって久しぶりに『嘶く黒馬亭』に行ってみると、周りにいたお客さんたちがたちどころに湧き上がった。
「おおっ! 英雄が来たぞ!」
「我らが
ちょっと、そんなぁ。照れますって。
「レフィさんはこの世界を救った勇者……いや、
「ああ、それがいい! 魔王を呪い殺し、世界に平和をもたらした死神、レフィさんに万歳!」
「「「万歳!!」」」
魔王に死をもたらした死神、かぁ。
かっこいいなぁ、ダークヒーローみたいで。二つ名として名乗っちゃおうかな。
そしたら、かっこよさに惹かれて『友達になりたい』って言い出す人がいっぱい現れたりして……うへへ、うへへへへ……。
——この時の私は、愚かにも現実を楽観視し、舞い上がってしまっていたのだった。
それから、百年の月日が経ち。
ある日のこと。私が拠点としているギルドハウスの前を、お母さんらしき女性に連れられた小さな子供が通りかかった。
「わぁ〜、おっきいお城! かっこいいなぁ!」
「あんまり見ちゃいけません。あそこはね、恐ろしい死神のお城なのよ。見つかったら、エマちゃんも連れ去られちゃうかもしれないわ」
「そうなの〜!? こわ〜い!」
——『魔王に死をもたらした死神』。
その二つ名はいつの間にやら一人歩きし、私はみんなから恐れられる存在になっていたのでした。
いや、なんでよっ!?
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