第6話 やっぱり恋しい

あれから、二ヶ月が経った。


同僚と遅くまで飲み、終電なんてとっくに終わっていた。


一人になってスマホを開き、気づけば何度も、理香子さんの番号に電話をかけていた。


深夜二時過ぎ。


まさかと思いながらも、コール音の向こうで、


「……湊くん?」


と聞き慣れた声がした。


多分、十回はかけたと思う。


迷惑なはずなのにそれでも出てくれる理香子さんの優しさに、少し泣きそうになる。


「こんな時間に、どうしたの?」


「理香子さん、元気ですかぁ?」


「…酔ってるの?大丈夫?」


「あははっ、さすが理香子さん」


酔いに任せて、ヘラヘラした態度で話す。


「理香子さんの住んでるところ、行きますね」


「えっ、何言ってるの…?」


「じゃあ、またあとで」


そう言って電話を切る。


タクシーを捕まえて、行き先を伝えた。


我ながらバカなことをしてるとは思う。


でも、酔いに任せてじゃないと、あの人に会えないと思った。


自分から会わないって言ったくせに、ほんと、バカだ。


会ったら、また会いたくなると思う。


そうならないように、自分から距離を置いたはずなのに。


***


理香子さんの住む駅の近くまで行くと、


冷たい夜風の中、部屋着のままの彼女が立っていた。


「…来てくれたの?」


「そりゃ…来るよ。心配だし」


酔いでふらつく俺を支えながら、


「とりあえず、どこかで休もう」


と小さく呟いた。


***


近くのホテルの灯りが、やけに眩しかった。


部屋に入ると、


理香子さんは「少し休んで」とだけ言って、


毛布を掛けてくれた。


俺はそのまま、眠りに落ちた。


目が覚めたとき、朝の光がカーテンの隙間から差し込んでいた。


玄関の方で、バッグを持つ理香子さんの後ろ姿が見えた。


「帰るの?」


そう声をかけると、彼女は一瞬だけ立ち止まって、


「うん……もう行かなきゃ」とだけ言った。


「…やだ」


俺は急いで玄関に駆け寄り、彼女の腕を掴んだ。


「ちょっと…湊、くん?」


「まだ、行かないで」


「…でも」


しばらく彼女を腕の中に閉じ込めて、彼女のスマホが鳴った。


「…行かなきゃ、ごめんね」


彼女は俺の腕の中から抜け出して出て行った。


あの夜が“最後”になるはずだったのに。


***


それから数日後、


彼女から「この前はごめんね」とメッセージが来た。


気づけばまた、飲みに誘ってしまっていた。


酒のせいにしてはいけない。


もう終わらせると決めたのに、


どうしても、あの人のそばを離れられなかった。


あの日から俺の中だけで、時間が止まったまま。

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