第8話FileNo.08 蔵の中の亡霊
【プロローグ】
都内某所の高級住宅街。
その一角に建つ大豪邸の敷地で――早朝、悲鳴が上がった。
古い木造の“蔵”の中から、
大物政治家・太田陽造(68)の遺体が発見されたのだ。
死因は他殺。
しかし蔵の扉には 内側から鍵がかかっていた。
完全な密室。
鍵の管理者は、使用人の権助(64)ただ一人。
しかし本人は必死に否定する。
「わ、わしじゃありません!昨晩から鍵は部屋に置いたままです!」
そこへ妻の洋子夫人が叫ぶ。
「この蔵には昔から“亡霊”が出るって言われてるのよ!
きっと亡霊の仕業だわ!!」
息子の俊作が深いため息をつく。
「母さん、その話もういいって……」
まさに疑惑が疑惑を呼ぶ密室事件。
そこへ、里中芋三郎刑事が静かに歩み出る。
「亡霊か……なら、その“正体”を暴いてみましょうか」
芋三郎は、この不可思議な密室殺人を解決へ導けるのか――。
【解明編】
警察車両が並ぶ庭先で、
家族と権助が険しい表情で向かい合っていた。
洋子夫人「鍵を管理してるのはあんたでしょう!?
あんたが陽造を殺したんだわ!」
権助「ち、違います奥様!普段は鍵をかけておりません!
だ、誰かが持ち出したとしか……!」
芋三郎「つまり――鍵を持ち出していた人物が、犯人ということになりますね」
その時、広瀬刑事が走ってきた。
「芋三郎さん!指紋判定が出ました!
鍵から検出された指紋は……権助さんの指紋のみです!」
洋子夫人「やっぱりあんたなのねえええ!!」
権助「ひぃぃぃぃ!!」
芋三郎は軽く手を上げる。
「まずは蔵の中を確認しましょう」
◆ 蔵の内部
古びた木の匂いと、冷たい空気。
芋三郎は足音を立てずに歩き、空間を注意深く観察した。
そのまま、蔵の扉の横で立ち止まる。
「……犯人が分かりました」
一同「!!?」
芋三郎は静かに、洋子夫人を指差した。
「犯人は――あなたです、洋子夫人」
夫人「な……何を言っているの!? 証拠を見せなさい!」
芋三郎は扉の脇の床を指した。
「証拠はここです。“ハイヒールの踏ん張り跡”。」
夫人「!!」
広瀬「踏ん張り跡……?」
芋三郎は淡々と説明を始める。
「夫を殺したあと、あなたは蔵の中に隠れ、
権助さんが来るのを待っていた」
「そして権助さんが扉を開けようとした瞬間、
あなたは内側から“思いきり引いた”。
ハイヒールで踏ん張ったため、跡が残ったのです」
広瀬「だから権助さんは“鍵がかかっている”と勘違いしたわけですね!」
芋三郎「その通りです。
権助さんが鍵を取りに行った十数秒の間に、
夫人は蔵から抜け出し、あたかも密室のように見せかけた」
俊作「母さん……どうして……」
夫人は崩れ落ち、震えながら告白を始めた。
「……あの人はお金のことしか考えてなかった……
国の未来より、自分の立場を……私は許せなかったのよ……!」
広瀬「太田洋子、殺人の容疑で逮捕します」
夫人は手錠をかけられ、連行されていった。
パトカー「パーーーッ……プー……」
警察官「しかし……密室トリックが“扉を踏ん張って押さえる”って……ありなのか……?」
広瀬「動機が真面目で、トリックが雑なのってなんか気持ち悪いですね……」
芋三郎は空を見上げ、静かに煙草を吸った。
「それにしても蔵の中に大量のガンプラがあったな……
買うだけ買って作らない……よくあることか…」
その煙は冬空へゆっくり溶けていった。
――FileNo.08 完。
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