秋
行為の目的
私は文芸部に所属している。
活動としては年に二階部誌を発行したり、分科会という集まりに行ったりする。
当時、三年生はもう卒業していて、部員は二年生が五人。一年生が十人。の計十五人だった。
その中にR課ちゃんもいた。R課ちゃんと私は、部活の雰囲気に馴染めなくて、よく二人でいることが多かった。
分科会の日。私とR課ちゃんは仲良くおしゃべりをしながら分科会を楽しんだ。講習は、審査委員の方の話で、なんだか言い回しに腹が立つこともあったが、勉強になることも多かった。
午前のプログラムが終わり、昼食を取ることになった。昼食は各自で撮ることになっており、場所は自由。もちろん、飲食スペースはある。けれど、席はほぼ満員だった。
どこで昼食を取ろう、ということになり、展望台が解放されていることを知った。外の景色を見ながらご飯……。いいね! となった私たちはエレベーターで展望台へと向かった。
エレベータの中は、エレベーターの隣にあるモニターから丸見えだった。
「……ねえ」
「なに?」
「この中、皆見えるんだよね」
「そうだね」
「じゃあ、私がここでピースしたら、皆見えてるわけだ」
そう前置きをして、私は虚空にピースした。「いぇーい!」
「やめてよぉ~」
くすくす笑いながら「いえ~い」とピースする。エレベーターの中は、一瞬プリクラになった。
そうこうしていると、ポーン。と音が鳴り、エレベーターの扉が開いた。澄んだ光が差し込む。目の前には町の景色が広がった。
「うお~! 高い」といいながら、前面ガラス張りのホールの扉を開けた。ビュウと乾いた風が吹く。日差しは暖かくて、外食べるには丁度いい日だと思った。
雑居ビルや古い店を見ながら、お弁当を広げた。R課ちゃんのお弁当は、冷凍食品のハンバーグ。私は昨日の晩御飯のメニューがそのまま入ったお弁当だった。
二人でとりとめのない話をしながら、冷たい風の吹く展望台でご飯を食べた。
私がR課ちゃんのハンバーグを二口で平らげた後、ぎぃ……。重い扉が開く音がして、話し声が聞こえてきた。まだ、成熟しきっていない独特の高さのある、男子の声だった。
てっきりここに人は来ない、と思っていた私たちは、同じタイミングで振り向く。そこには他校のブレザーを着た、男子二人組がいた。仲良さそうに笑っている。
私たちは、何事もなかったように、サッと目を逸らす。今までよりも少し小さな声で話始めた。でも意識は二人とも、反対側に座った男子に向けられていた。知らない男子、来ちゃったね。クスクスと笑い合う。
R課ちゃんがハンバーグの最後の一口を口に入れようとした時だ。
「あの……」
低すぎず、高すぎない声に呼ばれる。「はい……?」振り向くと、他校の男子、ここではA君とB君と呼ぼう。彼らがいた。
「N高の子だよね?」
ぎこちない笑顔で尋ねてくる。私たちは、何だ何だと訝しげな顔をしながら彼らに「はい」と答える。
「何組?」
「二組です……」
二組。そう聞いた途端、彼らの顔が輝く。まるで何かの取っ掛かりを見つけたように。
「マジ⁉︎ え、じゃあO石Rって知ってる?」
O石R……? 私の中でほわほわっと、入学当初の記憶が蘇る。
入学したばかりの時、担任のY田の勧めで、一年二組はグループラインを作った。『一の二』と書かれたグループラインに、改めて、高校生になったんだなぁ、と思った。
そんな時、ピコン。と通知が来た。ラインだ。けれど送り主は知らない名前。表示された通知をタップしてみると、インスタのURLと馴れ馴れしい一文があった。
『これからよろしく』
『今、彼氏とかいる?』
私は静かに既読スルーした。
その時の送り主が確か、O石Rだった。そんなことを思いだしながら、彼らに頷く。ABはわっと盛り上がった。
興奮した様子で「オレら、Rの友達なんだよー」「同じ中学!」と言った。そのテンションにつられて、私たちも「えー! そうなんですか⁉︎」声のトーンを高くする。
唾をのんだのか、Aの喉仏が上下した。そして、スッ……真顔になる。なんだ? と思った。何がお前らを緊張させている。と思ったら、照れたように歯を見せた。
「名前、聞いてもいいですか?」
名前……?
私とR課ちゃんは目だけでお互いを見る。名前……?
「KR課です」
R課ちゃんが、聞き取りやすいはっきりとした声で答える。それに続いて私も「AIです」と答えようとした時——「そーなんだ!」遮られた。言葉にならなかった口がぱくぱくという。
「じゃあ、Rに今度聞いてみるね!」
恥ずかしそうな笑顔で答え、持っていたスマホを振る。「じゃ!」手を振って、そそくさと展望台を出て行く。私たちも手を振り返した。
……てか、私の名前は? 聞かなくていいの?
R課ちゃんの顔は、小動物系の愛嬌ある可愛い顔だ。アーモンド形の綺麗な形をした目は、韓国アイドル級だし。丸い光の乗る鼻先もカワイイ。彼女は嫌だという丸い顔も、彼女の顔に合っている。
総評、カワイイ。
そんな彼女の顔をマジマジと見た。R課ちゃんは「なんだったんだろうねー」と言っている。
考えた。彼らの表情。不自然な会話。聞かれなかった私の名前。それらがピースとなってつながっていく。考える姿はさながら探偵。そして最後のピース——私はボーイッシュ!
ピーン!
きた。やっときた。鈍すぎ。
これは……ナンパ……!
私は興奮した。マジこんなことあるんだ! しかも高校生で! 他校の男子から! うお~! 叫びたくなった。でも同時に悲しい現実が襲ってくる。
ボーイッシュって、モテないんだな。それともモテないのは私?
つらい現実を知った、そんな秋。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます