夏
ありがとう
私は鬱病だ。
中学二年生の頃からそんな予兆があり、高校一年生で診断された。
でも自己認識は、ちょっと真面目過ぎる明るい子だし。根がポジティブでアホで愉快な女子高生として生きてきた。
けれど、そんな生活に限界が来た。休みがちだった私の出席日数はついに足りなくなり、高校二年の秋、留年が決まった。
それをきっかけに、単位制の高校に転入することを決めた。
留年が確定したとき、私は地球の滅亡を宣告された気がした。だって今まで必死にしがみ付いていたものを自ら手放してしまったのだ。心の中では、何やってんだバカ! である。
自分を責めた。ものすごく。なんども心に爪をたてた。——そして思いだす。前にもこんなことがあったな、と。
中学の頃、私は別室登校だった。偶に授業を受けに教室に行くけれど、それ以外別室。
教室に行くたびに白い目で見られた。否、透明の目。まるで見えていないような。でも蔑みだけは感じる、そんな目。
机には、いつも知らない誰かの私物が置かれていた。教科書、ノート、筆箱……。私はそれが悲しかった。だから、怒った。『ここに置いたら呪う』という紙まで置いたことがある。
ずっと義憤を感じていた。数か月前まで、クラスメイトだったのに。友達だったのに! 私はそう叫んでいた。でも皆は私をいない者にした。
いなくなったものがどうなるのか。どんな扱いを受けるのか知っていた。だから、私は高校でも白い目で見られると思っていた。
二ヶ月ぶりに高校に登校した高校一年の夏、私は鋭い目で周りを見た。全員敵。とまで思っていた。
けれどそこに敵はいなかった。
一人で食べようと思っていたお弁当を鞄から取り出す前に、女子が話しかけてきてくれた。委員会が同じ、R課ちゃんだった。
ふんわりボリュームのある黒髪を揺らし、真顔で「お弁当、一緒に食べよ」その後に、ニコッ。日和のような笑顔で笑った。
一匹狼を決め込むつもりでいた私は「え?」聞き返した。でもそんなことを無視してR課ちゃんはお弁当を広げる。
誘われたのは女子六人グループ。
その日の会話には混ざれなかったけれど、その日のお昼は楽しかった。
あれ? この人達は、私が思っている人達とは違うのかな? ソワソワしながら固いご飯を口に入れた。
この半年後、色々あってこのグループは私含め四人に人員削減される。けれど、残った四人は仲がよかった。毎日くだらないことで笑った。箸が転がっただけで笑った。
お弁当に誘ってくれたR課ちゃんは、母子家庭。中学の頃にお父さんが亡くなり、今は話を聞く限り口の悪そうなお母さん。ギリパラサイトシングルじゃないお姉さんと、R課ちゃんの三人で暮らしているらしい。
R課ちゃんの父親が亡くなったことを知ったのはその年の秋。深刻な顔で「私のお父さん亡くなってるんだ……」と言われた。
なんとなく察していた私は「そうなんだ」とだけ言った。R課ちゃんとしては拍子抜けしただろう。それだけなんだもん。
そんなR課ちゃんは気を遣い過ぎる質があり、偶に気の遣い方に怒りたくなる時がある。家で毒付いた時もある。けれど、私の高校生活が楽しかったのは、R課ちゃんのおかげ。
でもそんな生活もあと少し。
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