ギフト
しとえ
ギフト
外はチラチラと雪がちらつき始めている。
「クッソ寒いな…」
一斗缶にその辺にあったゴミを放り込んで行く。
ふと古本のマッチ売りの少女が目に止まった。
そういやガキの頃、どこかで読んでもらったな。
マッチ売りのガキはマッチなんて売ってないで、そんなことを命じる親のところからさっさと逃げ出せばよかったものを……
マッチを買わない客もいつまでも売り続けている子供もそれ以上どうする事もできなくて死んでいくストーリーもはっきり言ってクソだろ。
誰も手を差し伸べず 自分でもどうすることもできず死んでいくだけのストーリーなんざクソ食らえだ。
俺は本を一斗缶に放り込み火をつけた。
今日の予定は上々。
盗みに入るのにクリスマスイブほど適した日はない。
どいつもこいつも浮かれてやがる。
「しかし、冷え込むな」
アジト代わりに使っている廃ビルは 人なんざ絶対に来ない。
いい加減、夜もふけて盗みに入るにはちょうどいい時間だ。
狙いをつけていた住宅街に車を走らせる。
目立たぬ場所に車を止めて後は時間との勝負だ。
一軒、また一軒、ピッキングで素早く扉を開け音もなく入っては ささっと 必要なものだけ盗って次のターゲットの家に向かう。
しかしまあ、クリスマスイブだけあってツリーの飾りの下にはプレゼント。
明日の朝になりゃガキが喜ぶんだろうな。
俺には縁遠いものだ。
なんだか無性に腹が立った。
プレゼントの1つを壊してやろうと手を出した時、
「それをとるのはやめてもらえないかね」
と後ろから声をかけられ、俺はビクッとした。
だれの気配もしなかったのに…?!
振り向くと赤い服を着た年老いた男が立っていた。
サンタクロース…
いやそんなはずはない、おそらくサンタの格好した同業者だ。
うっかり誰かに見つかっても ごまかせるようにサンタの格好しているのだろう。
「…なんだ。あんたも同じ口だろ」
そう言うとその老人は
「いいや、私はプレゼントを置きに来たんだ」
と笑って言った。
あくまでサンタクロースのふりをしようってわけか…
「あんたサンタ?」
「そうだよ」
「俺のところには1回も来てくれたことがないよな」
「いいや君のところにも1回来たことがあるさ」
その老人はそう言った。
あくまでサンタとして話そうとしているその様子に、思わずにやけた。
「俺はプレゼントなんて1回ももらったことねえぜ。嘘言うなよサンタさん」
すると俺の方を見て、老人は笑った。
「私はね、どの子のところにもプレゼントを渡しているんだ。だが、私がプレゼントをもらったことを子供達は忘れてしまう。プレゼントを渡すのは生涯で一度きり。君にも渡したよ。君はそのプレゼントにまだ気がついてないね。 それはいつか君に力を貸してくれるはずだ」
老人はそう言うと窓をガラリと開けた。
窓の外にトナカイがいる。
キラキラと輝くソリが宙に浮いている。
「メリークリスマス!君に祝福を」
老人はそりに乗り込み、ソリはトナカイと共に夜空へと駆け上がった。
嘘だろ…
本物のサンタクロース…?
俺は目をこすった。
目の前が不意に明るくなる。
いつのまにかアジトにいて目の前には燃え尽きた一斗缶の焚き木。
「なんだ夢かよ」
なんて事はない盗みには行かず寝てしまったのだ。
チャンスを不意にしてしまった …
いいさ、年末は盗みに入るにはいいシーズンだ。
コンビニに行っておにぎりとビールを買ってくる。
どいつもこいつも忙しそうにしやがって……
公園のベンチでビールを飲むとガサゴソと隣で音が聞こえた。
薄汚れたガキがコンビニの袋に手を伸ばそうとしていた。
思わず腕を掴む。
「ごめんなさい…ごめんなさい」
ガキの腕は傷だらけだった。
大方どこかから家出してきたのだろう。
あまり良い環境で育ってきたのではなさそうだ。
ふと自分の子供の頃の記憶がよみがえる。
「やるよ」
俺ははひとつおにぎりを渡した。
「どうせ何も食ってねえんだろ」
家出のガキなんかほっときゃいいものを、なぜか目が離せなくなった。
手を伸ばして助けてくれる大人は俺の周りにはいなかった。
俺はいつのまにか大人になっていた。
むさぼり食うガキを見ながら、自分の幼少期を思い出す。
俺がサンタクロースからどんなギフトをもらったのからない。
だが俺はもうプレゼントを待つ幼い子供ではない。
「腹が減ってるならもう1つ食うか」
そう言っておにぎりをもう一つ差し出した。
ギフト しとえ @sitoe
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