第7話「天才の最後の売買と、魔王と勇者の共闘(地獄巡り)」
1.
魔王城を出た宇喜多昌幸は、外壁沿いの貧民街に身を隠していた。彼の手中には、毒酒販売とカジノでの小当たりで得た、わずかな金貨が残されているだけだ。金貨500枚という借金には、遠く及ばない。
「逃げたところで、どうにもならない。シルバーの利息は待ってくれない。リリスは失望し、ギルバートは俺を更生させようと追いかけてくる。…八方塞がりだ」
しかし、宇喜多の頭脳は絶望の中でこそ、誰も考えつかないアイデアを生み出す。
「そうだ。僕が売れるもの。それは、毒草でも、詐欺的な魔石でもない。僕自身の天才性だ」
宇喜多は立ち上がり、貧民街で最も目立つ場所に看板を立てた。その看板には、墨で大きくこう書かれていた。
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【大賢者・宇喜多昌幸による、人生相談&絶対儲かる未来予測】
一回:金貨1枚
限定三名
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宇喜多の目的は、未来予測を通じて金儲けをしたい貧民街の住民から金貨を巻き上げることではない。彼の狙いは、その情報が魔王軍や人類軍に流れることだった。
貧民街に集まったのは、魔族の商人、ゴブリンの元兵士、そして人間族の物乞いなど、多種多様な人々だった。彼らは、伝説の大賢者の予測に半信半疑ながらも、最後の希望を賭けて金貨を差し出す。
「大賢者様。私は今、金貨0.5枚しかない。この金で、次に魔力スロットのどの台を回せば勝てるか教えてほしい!」
宇喜多は、その男の顔をじっと見つめ、冷たい声で答えた。
「回せば回すほど負ける。それが君の運命だ。だが、もし勝つ方法を知りたいなら、『次に魔王城に突入する人類軍のルート』を僕に金貨1枚で売れ」
男は驚愕し、金貨0.5枚を宇喜多に渡し、震えながら去っていった。宇喜多の相談は、全て「未来の情報を得るための取引」に変貌した。
2.
その頃、魔王城地下カジノ。
宇喜多の逃走を許したリリスとギルバートは、カジノの破壊された壁の前で、奇妙な共闘関係を結んでいた。ライムは、リリスの魔法で拘束されている。
「リリス。宇喜多を捕まえるまで、俺たち人類は城から引かない」ギルバートは剣を収めた。
「ふざけるな。宇喜多は私の軍師だ」リリスが怒りを込めて言う。
「違う。宇喜多は今、誰の味方でもない。ただの借金まみれのクズだ。彼の才能が、完全に破滅する前に止めなければならない。そのためには、お前の『執着心』と、俺の『戦闘力』が必要だ」
リリスは深く息を吐いた。
「…分かった。宇喜多を捕らえるまで、一時的に手を組む。ただし、捕らえたら、彼の処遇は私が決める」
「ああ、いいだろう。ただし、俺も同席する」
二人の間に、不気味な合意が成立した。魔王と元勇者が、一人のクズを追うという、史上稀に見る地獄巡りの始まりだった。
その時、拘束されていたライムが叫んだ。
「リリス様! ギルバート! 宇喜多は今、貧民街で自分の才能を売り渡しています! あそこへ向かうべきです!」
ライムは、宇喜多の思考回路を熟知しており、彼が最も追跡しやすい場所で、最も危険な行動に出ることを予測していたのだ。
3.
リリスとギルバートが貧民街にたどり着いたとき、宇喜多は最後の客と話をしていた。その客は、闇金業者シルバーが雇ったゴブリンの斥候だった。
宇喜多は、ゴブリンに極秘の軍事情報を金貨と交換した後、満足げに笑った。
「よし。これで金貨がちょうど15枚だ。シルバーには、今日の利息分だけは払える」
宇喜多は金貨を数え、立ち上がった。その目の前に、リリスとギルバートが立ちはだかった。
「宇喜多!」リリスが声を荒げる。
「ギルバート!」ギルバートが剣に手をかける。
宇喜多は、両者を見て、絶望する代わりに、歓喜の表情を浮かべた。
「素晴らしい! まさか、魔王と勇者が共闘して僕を追ってくるとは! 最高の舞台だ!」
宇喜多は、持っていた金貨15枚を、集まった貧民街の住人たちに向けてばら撒いた。
「君たち! これは大賢者からのサービスだ! この金で、今すぐ『金儲けに役立つ情報』を広めろ!」
貧民たちは金貨に殺到し、カオスが発生した。宇喜多は、その混乱に乗じて、リリスとギルバートに最後のメッセージを残した。
「リリス! ギルバート! 僕はもう、君たちの『お人形』じゃない! 僕が欲しいのは、借金のない自由な人生だ!」
宇喜多は、貧民街の路地裏へと姿を消した。
リリスは、宇喜多がばら撒いた金貨ではなく、彼が貧民街で売っていた情報に気づいた。
「ギルバート! 宇喜多が売っていた情報は、『次の競馬で、大穴馬が逆走する』というものだ! 彼は、またギャンブルに関わる人間を破滅させようとしている!」
しかし、ギルバートは宇喜多の行動の裏にある、別の真実を見抜いていた。
「違う、リリス。宇喜多は、わざと『信用されない情報』を売っている。彼は、僕たちに追われているこの極限状況こそが、新たな天才的な金策につながることを知っているんだ」
宇喜多の逃走は、単なる借金逃れではなかった。それは、彼自身のクズの才能を世界に証明し、そして自ら破滅に向かうための、最後の賭けだった。
(第7話 完)
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