第8話「大賢者の超絶詐欺と、魔王と勇者の偽装カップル潜入作戦」
1.
人類の経済の中心地、自由貿易都市メルハイ。宇喜多昌幸は、この巨大な都市の広場に立っていた。彼はボロボロの服を脱ぎ捨て、かつて大賢者だった頃の豪華なローブを纏っている。
宇喜多の目の前には、金持ちの商人や貴族たちが集まっていた。彼らの目的は、宇喜多が主催する「未来の経済予測と投資セミナー」に参加することだ。
宇喜多は壇上に立ち、自信満々に微笑んだ。その顔には、借金まみれの哀愁ではなく、天才的な詐欺師の輝きがあった。
「諸君。私はかつて、勇者パーティの軍師だった大賢者、宇喜多昌幸だ」
宇喜多は咳払いし、声を張った。
「人類と魔族の戦争。それは、我々経済人にとって、最大の危機であり、最大のチャンスだ。私の予測によると、三日後、人類軍が魔王軍の最重要拠点を陥落させる。これにより、特定地域の土地価格が暴騰する。今投資すれば、利益は100倍だ!」
聴衆は騒然となった。魔王軍の最重要拠点陥落という超機密情報が、宇喜多の口から軽々しく語られたのだ。
「馬鹿な! その情報は本当か!?」一人の商人が叫ぶ。
「疑うなら、投資しなくてもいい」宇喜多は冷たく言い放つ。「だが、私の予測は一度も外れたことがない。この情報は、金貨1000枚で売ろう。ただし、購入は先着一名のみ。この1000枚の金で、私は一人の悪質な闇金業者との関係を断ち切る!」
宇喜多の言う「闇金業者」とはシルバーのこと。彼は自分の借金返済の動機まで、詐欺に利用していた。
商人は迷った。金貨1000枚は大金だが、もし予測が当たれば、利益は桁違いだ。
「私が買おう!」最前列にいた太った貴族が手を挙げた。彼は宇喜多に金貨1000枚を渡し、興奮した顔で宇喜多から予測情報――「魔王軍の補給線が通る、辺境の荒地」の購入権が記された羊皮紙を受け取った。
宇喜多は金貨1000枚を手にし、満足げに微笑んだ。
「ありがとう。これで、僕は闇金業者との縁を切れる。さあ、諸君! 投資は自己責任だ!」
2.
その頃、自由貿易都市メルハイの街角に、不自然なほど美しい人間の男女が立っていた。
魔王リリスと、戦士ギルバートである。
リリスは、人間に変身する魔法を使って、ゴージャスな貴族の女性に姿を変えていた。ギルバートは、彼女のエスコート役の騎士として、普段よりも落ち着いた服装をしている。
二人は、宇喜多を追って人類の都市に潜入していた。
「ギルバート、この格好は居心地が悪い。なぜ私が、貴様の『愛する妻』という設定にしなければならないのだ」リリスは苛立ちを隠せない。
「仕方ありません、リリス様。最も疑われず、宇喜多に近づける方法です。宇喜多が狙うのは金持ちの貴族。僕たちが金持ちの夫婦を装うのが最善です」ギルバートは冷静に答える。
「それにしても、宇喜多の奴。自分の借金を返済するために、人類の貴族から金貨1000枚も巻き上げているとは…」リリスは驚きを隠せない。
ギルバートは、広場で宇喜多から情報を買った貴族を見つけ、その貴族に声をかけた。
「旦那様。お顔からして、何か大きな取引をされたようですな」
「おお、ご婦人! 見てください! 私は大賢者から、人類の勝利を確約する超機密情報を買ったのだ! これで私は大富豪だ!」貴族は興奮気味に羊皮紙を見せた。
ギルバートとリリスは、羊皮紙の内容を見て絶句した。
「魔王軍の補給線が通る、辺境の荒地…? あそこは、地価が最も安い場所です」ギルバートは顔を顰める。
リリスは、宇喜多の意図を瞬時に理解した。
「違う! ギルバート、宇喜多の狙いは土地の暴騰ではない! 彼の真の目的は、この土地が暴騰する『理由』を世間に信じ込ませることだ!」
3.
その夜、宇喜多は受け取った金貨1000枚を抱え、貧民街のボロ宿で、次の計画を練っていた。
「金貨1000枚。これでシルバーの借金は完済できる。だが、僕はもう逃げない。この金を使って、僕のクズの才能を、勇者パーティ時代よりも高く売る!」
宇喜多の真の計画は、詐欺で得た1000枚を元手に、人類側で新たなビジネスを立ち上げ、リリスやギルバートが手出しできないほどの地位を築くことだった。
その時、宿の扉がノックされた。
宇喜多が扉を開けると、そこに立っていたのは、美しい貴婦人と、彼女を護衛する騎士、つまりリリスとギルバートだった。
「宇喜多! やっと見つけたぞ!」ギルバートが剣を抜きかける。
「お久しぶり、大賢者様」リリスは、貴婦人の優雅な笑みを張り付けたまま、宇喜多を睨みつけた。
宇喜多は冷静だった。
「まさか、リリスとギルバートが、偽装夫婦を演じてまで、僕を追ってくるとはな。お前たち、僕の才能に夢中じゃないか」
「ふざけるな!」リリスは貴婦人の皮を脱ぎ捨て、魔王の威圧感を放った。「貴様のクズな詐欺は許さない! いますぐ、金貨を返しなさい!」
宇喜多は、金貨1000枚が入った袋を抱え、窓から飛び降りた。
「無駄だ! この金は、僕の『自由』の代償だ! 君たちの手の届かない場所へ、僕は行く!」
ギルバートは、宇喜多を追って窓から飛び降りた。リリスも後に続いた。
人類の巨大都市で繰り広げられる、魔王と元勇者と元大賢者による三つ巴の追跡劇。宇喜多の逃走は、単なる借金逃れではなく、自らの破滅的な自由を勝ち取るための、最後の戦いとなっていた。
(第8話 完)
大賢者・宇喜多昌幸は魔王討伐よりギャンブルが大事 @princekyo
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