銀河の時空管理者 ~神と名乗る時空竜と一つになりまして~
十本スイ
プロローグ
――数分前。
昨日から今まで徹夜でゲームにのめり込んでいたため、集中力が途切れたせいか一気に眠気が押し寄せてきている。できれば早く空腹を満たしてベッドにダイブしたい。きっと得も言われぬ心地好さに身を委ねることができるだろう。実に楽しみだ。
コンビニで食料を買い、アイスを食べながら帰路を歩く。
そろそろ初夏なので、気温がちょうど良くて夜風が非常に気持ち良い。草履でペタペタとリズム良く鳴らしつつ歩を進みながら鼻歌で気分を高める。
もうすぐ自分が住むアパートへと辿り着く。この路地を曲がって真っ直ぐ進めば、その突き当たりに自宅があるのだ。そんな路地を曲がった直後のことである。不意に軽やかだった足取りを止めた。
その理由――何故か目の前に人が倒れていたからだ。
(えぇ……さっきはいなかったのに……)
ここで僅かながらでも良心がある人間ならば、すぐに駆け寄り声をかけることだろう。しかし日雲は、そうしなかった。いや、できなかったという方が正しい。
何故なら今も身動きしないその人物が明らかに――――――魔法少女だったからだ。
いや、言い方に語弊があったかもしれない。正確には、見た目がアニメに出てくるような煌びやかな衣装を纏った魔法少女然としているということ。
アイドルがライブ衣装でも、と思うかもしれないが、こんな真夜中にアイドルが衣装を着て倒れているわけがないし、そもそもライブ衣装よりも派手で、さらに右手には箒らしきものを持っているのだ。これで魔法少女を連想しないのは嘘であろう。
ただ気になるのは、そのファンシーな衣装がボロボロだということ。まるで今の今まで何かと戦っていたかのような風貌。
すると、ピクリと魔法少女の身体が動き、ゆっくりとだが確実に上半身を起こし始めた。
日雲はその様子を、二本目のアイスを取り出して食べながらボーっと眺めていると、頭上から細長いものが少女目掛けて落下してきた。それに気づいた少女は、歯を食いしばりながら前転して回避する。
先ほどまで少女のいた場所に突き刺さった謎の細長い物体。それを目で追ってみると、上空に一つの影を見た。
人ではない。明らかな異形。ギョロリとした目が一つで全身が闇色に染まった、一見してタコに似た存在。複数本ある触手らしきものの一本を伸ばしていたようだ。
「くっ、ここまで追ってくるなんて!」
嘆きにも取れる発言をしたのは少女である。一応言葉は日本語としてこちらの耳には届いていた。
歯噛みする少女に向けて、さらに触手が襲い掛かっていく。それを紙一重でかわし、手に持った箒を振るう。それと同時に、箒の先端に魔法陣が出現し、そこから炎の塊が異形に向かって放たれていく。
炎弾となったソレを、上空に浮かぶ異形が軽快に回避する。
さて、この状況でまともな思考ができる人間がどれほどいるだろうか。普通なら思考停止して固まるか、異形に驚愕し逃げ惑うか、あるいは夢か幻だろうと目を擦ってみるかなど、とにかく何かしらの行動を見せるはず。
しかしながら日雲は違った。一切表情を崩さず、淡々と魔法少女と異形のバトルを三本目のアイスを舐めながら眺めている。そして冷静に状況を把握していた。
(……なるほど。〝アイツ〟が言ってたのはこのことだったか)
これで証明が成されたと得心した瞬間、触手を掻い潜った少女が日雲へと接近し、そこで初めて日雲の存在に気づく。
「――えっ!? あ、えと、まさか原住民さんっ!?」
日雲を見て驚きを露わにする少女だったが、すぐにまたも触手が向かって来ていることにハッとした。同時に箒を掲げると、大きく展開した魔法陣が障壁のようになって触手を阻んだ。
「す、すいませんっ! こ、これはですね、何と言いますか……っていないっ!?」
背中を向けながら詫びを入れる少女だったが、顔だけを後ろへ向けて確認するものの、そこにいたはずの日雲の姿が見えず声を上げた。
少女に守られた形になった日雲だったが、いつの間にか障壁の脇を通り抜けて前を歩いていたのである。
「ちょ、ちょっとぉっ! そっちに行っちゃダメですよぉ!?」
慌てふためく少女に対し、日雲は我関せずという心持ちで自宅へ向けて歩いていた。そんな日雲を視界に捉えた異形が、今度は日雲をターゲットにしたかのように触手を伸ばしてきた。
「あれ? で、でも何でこの中に入れて……ううん、今はそんなことよりもっ、このままじゃあの人の身体に穴が開いちゃう!? こうなったら――」
日雲に向かう触手を見て、何かしら覚悟を秘めた眼差しで箒を構える少女。しかし次の瞬間、彼女は言葉を失う。
何故なら日雲に向かってきていた触手が、瞬時にしてバラバラになったからである。
何が起きたか分からないのは少女だけでなく異形もだ。故に異形は、明確な殺意を日雲へと向ける。そしてそのまま全ての触手を超高速で放つ。
だが、またも平然と歩く日雲に届く寸前で、綺麗に何枚もの輪切りと化す。
「……鬱陶しいから、お前」
異形の起こす行動に苛立ちを覚えた日雲の言葉。その直後、今度は全身が細切れになった異形が、幾つもの欠片となって落下し、その間に煙と化し消失していく。
「……う……嘘ぉ……」
その光景を、ポカンと口を開けながら見ていた少女だったが、しばらくしてハッとなり、慌てて日雲に声を掛けようと顔を向ける。
「あ、あの、一体あなたは……って、またいないぃっ!?」
すでに視線の先には、日雲はいなかった。
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