【夏編】 第6話 名探偵、集う。

「調査に行くよ!!!」

 と式折は陽気そうな声で僕に話す。またかぁ……と呆れようとしたが、その原因はおそらく僕の言動のせいなので呆れられないぜ。

「……へいへい」

 乗り気じゃなさそうな声で言った。

 とはいっても、調査ってなにをするんだ。――はっ。

「――まさかとは思うが、学校中を探すとか言わないよね?」

「言うけど」

「はぁー? 無理に決まってるだろ! 範囲広すぎだぜ」

「仕方ないさ、本がなくなったなんて重大な事件だよ。捜査も規模も大きくしないと」

 う〜〜〜ん、と僕が反論を考える。……僕程度の頭脳じゃあ、この天才少女に反論などできるはずもなく、

「……」

 黙り込む。

 式折は、沈黙を肯定と捉えたようで、

「よし! 行きましょうかね、まずは隣の調理室からね」

「……はぁ」


 僕は、立ち上がった式折は、ドアの前に向かう。僕も重い足取りでそちらに向かう。


 式折が戸を緩やかに、そう穏やかに、右に滑らせる。軋む音が耳に障る。


 ――この後、もっと耳に障る声が聞こえるまで、およそ三秒ほど。カウントダウンスタート!


 さん、にぃ、いち、

 

        * * *


 ぜろ。

 

「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 誰だ誰だァ!」


 言うまでもないが式折の声ではない。この声の主人は……外村 戒斗だった。うるせぇぇぇぇぇぇぇ!

 

「ッ……! ……はぁ、びっっくりしたぁ。なんだ、戒斗くんか。どうも、三ヶ月ぶり!」

 式折が静かに言った。驚きから冷静までの移行がちっとばかし早すぎないか……。

 僕はといえば、びっくり仰天すぎで、後ろにずっこけてしまった。尻が痛い。


「式折! ここであったが百年目!」とクサイ台詞を戒斗くんは吐いた。

「あ、修も百年目」

「ついでみたいに言うなぁ!」


 彼――戒斗くんの方を見ると、彼の他に二人ほど生徒がいた。――眼鏡をかけている真面目そうな少年と、桃色の長い髪を伸ばしている、アオちゃんににも似た少女。

 すると、眼鏡の少年は、僕を心配してくれたらしく、僕に近づいて、

「大丈夫ですか? うちの戒斗がすみません……」

 とすぐに手を貸してくれた。きゅん。好きになっちゃうかもなぁ。

「ありがとうございます……」

 と彼の手をとり、立ち上がった。


 おっと、急に色々と人が登場しすぎで情報過多すぎるな。


 一旦彼らに、『あれ』をさせなければ……。


「どうぞ、自己紹介を……」

 僕は呆れるようにして言った。式折もうんうんと頷いている。

 ここで呆れるために、先ほどの呆れを貯金しておいたのだ。


「人を名乗らす前に、自分から名乗るってのは一般教養じゃないの? わたしでも知ってるわよそんなこと。そんなことも出来ない上級生なんて、年をとっただけの馬鹿な愚か者じゃないの。しかも――」

 と途方もない罵詈雑言を吐いたのは、例の少女だった。言っていることは大概あっているのだが、失礼だし無礼なやつだった。

 

「ちょっと! もうやめなさい」

 と彼女の声を遮るのは例の少年だった。少女は、「いいところだったのに……」と黙りこく。式折はというと、

「あはは、面白いこと言うねぇ!」

 笑っている。本心だろう。


「えっと……ぼくは六年二組の平島 マナブです。探偵クラブの部長を務めています。うーん、自己紹介ってなにをいえばいいんだろう。……じゃあ、好きな食べ物は、押し寿司です! どうぞよろしく」

 と礼をする。まともな人だった。この春から通しても、一番まともだ。まとも万歳!

 そこで、僕らも定型文の自己紹介を。

 

「臨時学級の式折ミヨです! 好きな食べ物は卵焼き、勿論甘いやつ!」

「僕は鹿賀修。ただの一般人です。かにめしが好きだな」


 マナブは、ほら、と暴言を言ってきた少女に自己紹介を促すと、意外と素直に答えてくれた。

「二本柳 アカ。探偵クラブの四年生。馴れ合うつもりはないから。……好きな食べ物はきゅうりの漬け物」

 とアカちゃん(ちゃん付けはやめようか)は言う。

 二本柳……というと、アオちゃんの姉妹か? もしくは双子……。


「オレはァ!」

「君のは前聞いた!」

 と式折の素早い切り返しにより、外村の自己紹介は止められた。


        * * *

  

 もう混乱が始まろうとしているので、彼らには椅子に座らせた。

 しかし、二本柳は別の机の椅子に座った。言った通り、馴れ合うつもりがないのだろう。

 

「で、君たちは何をしにこの図書室に来たのかね?」

 と碇ゲンドウみたいなポーズをした式折が探偵クラブの戒斗とマナブに投げかけた。

「えっとですね……図書室で本が紛失した事件があったらしくて、その調査に」

 とマナブが答える。ふぅん。結構この事件は生徒に蔓延しているのか。


 式折は続けて問いかける。

「それは誰から聞いたの?」

「アカだぜ。なんかお姉ちゃんが図書委員らしくて、アイツの姉がその本が紛失したことについて心配していたらしくてよォ。それを解消してやりたいやらなんやらで、探偵クラブに事件を持ってきたんだ」

 戒斗が答えた。なるほどなるほど。

 

「アカさんは姉孝行な人だったのか」

 と僕が小声で言うと、

「うっせぇ黙れ! お姉ちゃんなんか嫌いだわ! 馬鹿アホ死ね!」

 アカさんの猛攻がやってきた。まぁ、この程度は僕にとっては可愛いもんだ。

「こらっ! そんなこと言っちゃダメでしょう? 謝りなさい」

 マナブが良識的なことを言う。アカは「……ごめんな」と本心では思ってなさそうなことを言う。

 

 アカさんが僕らのいる机にやってきた。ムスッとした表情で。おそらく、僕が失言しないか見張ろうとする気だろう。アカさんからの視線が冷たい、というか痛い。ズキズキする。


「で、調査って何をするんだ?」

 僕が核心めいたことを彼らに問いかける。

「答えたいことは山々なんですが、こちらからの質問にも答えてほしいです。……事件には関係ないことですけれども」

 確かに、質問責めをしすぎた。僕の――僕らの悪い癖かもしれないな。

「いいですよー! なんですか?」


 

「臨時学級ってなんなんですか?」


 

 答えに困る質問だ。……自分自身、まだそれについてわかっていなかったりする。何故出来たのかは分かっているが、それだけが全てではない、というのは春の羽間先生の語りから解る。ただ、その他の事情が、どうしても解らない。

 

 ――嘘だ。本当は、感じているはず。考えてるはず。最悪の予測を――。


 

 考えたくない。


 

 考えたくない、と考えていると式折が、

 

「ひーみつ!」

 とにこやかに言った。秘密、ということは知っているのだろうか。だけど、黙っているのか?

 解らないよ。……何も、解らない。


 ふぅ。疲れてくる。……多分、暑さのせいだろう。


「はぁ……いや、すみませんね。答えずらい質問をさせてしまって」

 とマナブくん。気にしなくていいんですよ。


「じゃあ、事件に関わるほうの質問を。盗まれた本の概要は知ってますか? アカはアオに訊いてなかったそうなので……」

「それでしたら――」

 と僕はその本について聞いたことをそのまんま彼に伝える。ただし、オタクトークは除いて。

 そのことについて、マナブはメモ帳でちゃんとメモをしていて、探偵っぽいなぁと思った。

「マナブ、探偵っぽいな!」

 と戒斗が言う。まさかこいつと思考がシンクロするとは。

「まぁ、部長ですから」


         * * *


「……さぁてッ! 調査、しますかぁ!」

 戒斗が空気を断ち切るように言う(叫ぶ、という表現の方が正しいと思ったが)。

「調査って……何をするんだ?」

 

「あァん? 全教室の端から端、隅から隅まで徹底的に! 目視で! 調査するに決まってんだろォ!」

「そうだよね!」

 式折が同意する。タフすぎるだろ、この人たち。

「はぁ」

 脳筋さは、戒斗と式折は同等のようだ。賢さは……式折の方が上だろうけど。


 それに対して、アカさんが、横槍をさす。

「だるッ! そんな微妙な案、略して妙案しか思いつかないから、クラブの中で馬鹿って言われるんだよ。その頭の悪さで生きていられるのかしら? 恥ずかしくて死にたくならないの? ――え、代替案? よく考えてみなよ、マナブくん。まぁ、マナブくんなら考えてるだろうけど。盗まれたんなら、盗んだ人が持ってるはずじゃない? 学校の外に持ち出してる可能性があるじゃん! ……つまりね、犯人を推測したほうが、手取り早いの。もし犯人が持ってないなら、犯人から本がある場所を訊き出せばいいもんね」


 最初の暴言はともかく、僕も同じことを思っていた。……どこにあるか、ではなく犯人は誰か。それが、今回の事件で重要なことだろう。

 戒斗はやや納得した様子。暴言には傷つけられてないよう。メンタル強っ!

「犯人ねぇ……」

 式折はどこか遠くを見つめている。考え込んでいる様子だ。


 そこからは、色々と案を出し合った。


「どうして盗まれたんだ?」

「その本が読みたかったんじゃない〜?」

「なら普通に貸し出しをすればいいじゃないの、低脳」

「そう言うこと言わない!」

「他に本の使い道があったとか?」

「確かに」

「本を使って人を殴って殺すんだろッ!」

「不謹慎な……」


 ――会議は有耶無耶になり、夕方になった。

 

        * * *


 そんな時、視野の外だった『あの人』がやってきた。

 

 ドアが開かれた。勢いよく。春から夏にかけて、何度も何度も聞いてきたため、開けてきた人はもう解るようになってきた。

「ふぅ〜、疲れた疲れた。清掃に教材に断罪に行事に保護者にエトセトラぁ……。今日こそは最高の一杯ってものを楽しめそうだなぁー!………………あ」

 先生は、僕達に気づいていないみたいだったが、やっと見つけたようだ。片手にアサヒスーパードライ。結露が光っていて、キンっキンに冷えてやがりそうだ。……飲む気?

「せんせぇ……」

 と怪しむ目で見つめるのは、式折。ついでに僕も。

 

「いやいやいやいや! 飲まないからな! 実に優れたこのアルミ缶の鑑賞をしようと思ってだな……」

 

「先生ってお酒嗜むんですね! 意外でした」

 マナブくん。そこじゃないと思うなぁ。

「嗜まないわよ! 勘違いすんなよ!」

 嘘がバレバレだよ先生。……もしかして、この人ってダメ人間だったり?


「っと。――ところで諸君、もうとっくに下校時間は過ぎているはずだよ、ここでどうしているのかね?」

「えっと、ちょっと話してましてね。もう帰ります」

 僕がそう答える。事件に関わっていることは、なんとなく羽間先生には聞かれたくなかった。

「え! 帰んのか?」

 と戒斗。僕は頷く。

「下校時間は過ぎてるんだし、帰ろうぜ。続きは明日にでも」

「ちぇー」

 と言い、僕らはランドセルを背負った。そして、僕らは廊下に出た。


「犯人……」

 とアカ含む数人が考えている。僕も考える。……解らない。現時点でもう、情報量が少なすぎる。解ってるのは、本のタイトルくらいか。これでどうやって推理するんだ。


 玄関で、じゃあね、をして帰路に着く。僕と式折の二人っきりだ。


        * * *


 思えば、式折と帰宅するのはもう日常になっている気がする。何十回もこうやって一緒に帰宅していた。色めいた坂の上、僕は式折に雑談をふっかける。


「そういえば式折ちゃん。最近小説どう?」

「……まさか、修くんと最近の小説の流行について語り合う日が来るとは!」

 と今まで見たことないような驚いた表情。

「違うよ。執筆がどうかって訊きたいんだ」

「そっちかぁ……」

 歩調を変えることなく呟く。読みずらい行間だったかもしれない。

「んーっとね、最近は長編に命をかけてるよ。遺作にするつもり」

 僕はほんの少し歩調を遅める。

「遺作か……不謹慎だな」

「そうでもないよ」

 式折は僕の歩調に合わせるようにして、速度を落とした。


 僕は頷きもせず、まっすぐ前を向いて歩く。


「どんな内容だ?」

 

「異世界転生してハーレムを築くやつ」


「……まじで?」


「うそぴょーん」


 びびった。遺作にそれを書くのは式折らしくないと思った。いや、逆にらしいのかもしれない。ウケ狙いっていうのかな。

「じゃあなんだよ!」

「これもまた、秘密だね」

「……」


 斜陽が降り注ぐ坂を蹴り上げながら、僕らは歩いて行った。


        * * *


 日はもう沈み切って、僕は家に居た。具体的に言うと、自室のベットだ。

 

 僕は毎日のように、帰宅したらここで寝るようにしてる。疲れを取るためだ。

 

 でも、今日はこんなことをしている場合ではないと思った。――できればやりたくない手段だったが、何かのヒントくらいにはなるだろう。


 僕は枕元のスマホを手に取り、ぽちぽちする(こういう表現はおじさんっぽいかも)。そうして、僕は電話のアプリを起動した。


 連絡履歴の奥底に眠るあいつを見つけた。


 数秒、いや数十秒ほど悩んだ末、僕はこいつ――幾何学ジオに電話をかけた。


 プルルル、ガシャッ。


「なんだよ〜今執筆してるんだから邪魔しないでくれたまえ……え? 修くんじゃないか! いやはや、まさか汝から電話してくれるなんて、光栄の限りだよ。で、御用件はなんだい? 寂しくなってわたくしに会いたくなったのかい? それならわたくし直々に向かいに行ってあげるけど、わたくしの従兄弟殿〜」


 電話を切りそうになった。黙れ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「少年少女の些細な(非)日常」 八代オクタ @YaTu46

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ