第14話
決戦は3日後。
Sランク「五帝」との準決勝に向け、私たちEクラスに与えられた猶予はあまりにも短かった。
しかも、手渡された武器は「産業廃棄物(クソカード)」の束。
普通なら絶望して、ふて寝するところだ。
でも、私たちは「E(エンジョイ)」クラス。
配給されたマズい飯すらネタにして楽しんできた猛者たちだ。
「……やるか」
「やるしかないッスね」
Cランク寮の談話室。
私はテーブルにジュラルミンケースをドンと置いた。
「これより! 『第一回・チキチキ猛毒デッキ(クソゲー)我慢大会』を開催する!!」
第26章:クソゲーの海を泳げ! ~地獄の総当たり合宿~
1日目:自爆と事故のカーニバル
「先攻ドロー! ……あかん、詰んだわ」
開始早々、ソウタが頭を抱えている。
彼の場には、例の切り札『怠け者の大樹』が鎮座していた。
「この木、ホンマに何なん!?
維持コストでマナ全部食われて、何もできひん!
ターンエンド! ……ほら、またマナ枯渇して自壊や! ボクの負け!」
『 WINNER : Iroha 』
「……勝った気がしない」
私も微妙な顔で勝利画面を見つめる。
私のデッキの切り札『運命の道化師』は、まだ手札で眠ったままだ。
出すのが怖い。出した瞬間に7/8の確率で即死するなんて、ロシアンルーレットにも程がある。
隣の卓でも、悲鳴が上がっていた。
「痛いッス! やめるッス!」
ミカが泣いている。
「ウチの『ガラスの天使』、強化魔法をかけようとしたら『対象になった』判定で割れたッス! 自壊ッス!」
「……ククク。我(オレ)もだ」
カイが遠い目をしている。
「『反抗期の死霊』……。命令を無視して我(オレ)を殴り続けている。
敵を倒す前に、我のライフが尽きるぞ」
「僕のはもっと酷いばい……」
レイが、解読不能なテキストの書かれたカードを見つめてフリーズしている。
「『文字化けした魔導書』を使ったら、フィールドが『爆発』した。……文字通り、物理演算のエラーで」
惨憺たる有様だ。
勝負にならない。これはデュエルじゃない、「介護」だ。
どうやってこの駄々っ子たちをあやして、勝利まで導くのか。
「……学園長、性格悪すぎでしょ」
私は天井を見上げた。
でも、不思議と腹は立たなかった。
だって、このデッキ……よく見ると「愛」がある。
適当に組んだゴミじゃない。絶妙なバランスで「ギリギリ負ける」ように調整されている。
「……攻略しがいがあるねぇ」
2日目:ゴミの中に光を見ろ
総当たり戦、2周目。
数十回の敗北(自爆)を経て、少しずつ「気づき」が生まれ始めていた。
【 緑川ソウタ(vs 蒼井レイ) 】
「くっそー、またマナが吸われる……!
この『怠け者の大樹』、ホンマに邪魔や! いっそ誰かにあげてまいたいわ!」
「……あげる?」
レイが眼鏡を光らせた。
「ソウタ、デッキリストを確認するばい。そこに『強制転移(ギフト)』という魔法はないか?」
「え? ……あるで。お互いのモンスターを入れ替えるカードや」
「それたい!」
レイが叫ぶ。
「その大樹、相手に押し付ければどうなる?」
「……あ」
ソウタの顔が、悪魔のように歪んだ。
「相手のマナを全部吸い尽くして、払えなくなったら相手が敗北……?う、うわぁぁぁ! なんやこの鬼畜コンボ!自分が使うとゴミやけど、人に押し付けたら『最強の呪い』になるんか!」
【 黒江カイ(vs 白瀬ミカ) 】
「痛い……また殴られた……」
カイの『反抗期の死霊』が、主人であるカイを攻撃する。
しかし、カイはふと気づいた。
「待てよ。我(オレ)のデッキに入っている永続罠……。
『痛みの変換(ペイン・コンバート)』。
自分がダメージを受けるたび、相手のカードを破壊する……?」
カイがニヤリと笑う。
「ククク……そうか。
貴様(死霊)、反抗期なのではないな?
我(オレ)を殴ることで、トリガーを引いてくれていたのか……?」
「痛みがリソースに変わる……! カイ君、それドMデッキの極致ッスよ!」
【 白瀬ミカ(vs 遊崎いろは) 】
「いろはちゃん、見ててッス!
ウチの天使ちゃんは、もう割らせないッス!」
ミカが発動したのは、『全体加護(オーラ)』。
「対象を取る」のではなく、「場全体を包み込む」強化魔法だ。
「対象を取らなければ、ガラスは割れない!
しかもこの天使、攻撃力だけはバカ高いッス!
守るんじゃない……『やられる前にやる』、超火力の特攻兵器だったんスね!」
3日目:運命を裏返すジョーカー
みんなが「解答」を見つけ始める中、私だけが取り残されていた。
「……うーん」
私の手元にある『運命の道化師(ジョーカー)』。
コイントス3回。全部表なら勝ち。一つでも裏なら敗北。
確率は1/8。
どうあがいても運ゲーだ。
「いろはちゃん、まだ悩んでるん?」
ソウタが、完全に使いこなした「大樹」の手入れをしながら寄ってくる。
「うん……。デッキの中に『コイントスをやり直す』カードはあるんだけどさ。
やり直したところで、確率は変わらないんだよね」
私はデッキを広げ、一枚一枚カードを確認する。
学園長が夜なべして組んだデッキ。
必ずどこかに、細い糸のような**「勝ち筋(ルート)」**があるはずだ。
その時、一枚の魔法カードが目に止まった。
『逆転する運命(リバース・フェイス)』
効果:このターン、コイントスの「表」と「裏」の判定を入れ替える。
「……これだ」
私は飛び起きた。
『運命の道化師』の敗北条件は、「一つでも裏が出ること」。
つまり、裏が出る確率は7/8。圧倒的に負けやすい。
でも、この魔法を使えば……。
「裏」が「表(勝利)」に変わる。
つまり、「一つでも裏が出れば勝ち」になる!
「勝率12.5%のクソゲーが……勝率87.5%の神ゲーに変わった!」
私は震えた。
これだ。これが学園長の意図だ。
一見ゴミに見える効果も、視点をひっくり返せば最強の武器になる。
「……性格悪いなぁ、あのラスボス」
私は『道化師』のカードにキスをした。
「でも、解いちゃったよ。
アンタからの挑戦状(パズル)」
決戦前夜:クソデッキ愛好会、結成
合宿最終日の夜。
私たちはボロボロになりながら、充実感に満ちた顔で輪になっていた。
「いやー、酷いデッキやったわ」
ソウタが笑う。
「でも、回し方がわかった瞬間、脳汁出たわぁ!」
「ウチのガラスちゃん、繊細すぎて逆に愛おしくなってきたッス」
「……反抗期の息子を持った親の気分だ」
「文字化けも、解読すれば古代ルーン文字やったばい。勉強になる」
みんな、自分たちの「ポンコツ」に愛着を持ち始めている。
Sランクのエリートたちは、今頃どうしているだろう。
文句を言いながら、まだ「強さ」に固執しているだろうか。
「明日はいよいよ本番だ」
私はジュラルミンケースを閉じた。
「相手は最強のSランク。
でも、『デッキへの理解度(愛)』なら、泥水を啜った私たちの勝ちだ」
私は拳を突き出した。
「見せてやろうよ。
ゴミだと思って捨てたカードに、首を狩られる恐怖を!」
「「「「応ッ!!」」」」
Eクラスの絆は、完璧に仕上がった。
要介護デッキ? 上等だ。
私たちが手塩にかけて育てた「問題児」たちが、エリートの鼻を明かす時が来た!
Sランクの面々視点___
1日目:エリートたちの拒絶反応
場所: Sランク専用・第1特別演習室
「……クソがァ!!」
ガシャァァァン!!
赤髪の**煉獄寺グレン(序列2位)**が、VRコンソールを殴りつけた。
「戻ってくんじゃねぇ! この臆病トカゲがあぁぁ!!」
彼の手元にあるのは**『臆病な火トカゲ』**。
攻撃しようとすると手札に戻る。これでは彼の信条である「殴って勝つ」が絶対に成立しない。
「……静かにしろ、野蛮人」
銀髪のサイラス・ヴォーン(序列1位)は、氷のような目でモニターを睨んでいる。
彼の手元には『旧式演算機』。
毎ターン、複雑な計算式を手動で入力しなければ自爆する、面倒極まりない置物だ。
「……非効率だ。この計算に脳のリソースを割くなど、無駄以外の何物でもない」
他の3人も同様だった。
エリーゼ(序列3位): 『不幸な少女の人形』
効果:自分の手札をランダムに捨て続ける。
「わたくしの完璧な手札が……また捨てられましたわ! お行儀の悪い人形ですこと!」
タイタン(序列4位): 『ガラスの城壁』
効果:守備力は最強だが、1ダメージでも受けると粉々に砕け散る。
「……守れん。これでは、誰も守れんたい……」
ネオ(序列5位): 『バグだらけのAI』
効果:攻撃対象が完全にランダム(自分含む)。
「はぁ!? 味方を殴るとか意味わかんねーし! クソコード書いたの誰だよ!」
初日、彼らは共通して「拒絶」した。
こんな欠陥品は自分のデッキに相応しくないと。
2日目:支配への転換
転機は、サイラスの一言から始まった。
「……発想を変えるぞ」
サイラスは『旧式演算機』の爆発エフェクトを冷ややかに見つめ、言った。
「学園長は、このゴミを『輝かせろ』と言った。
だが、ゴミは所詮ゴミだ。磨いても宝石にはならない」
「あぁん? じゃあどうすんだよ」
グレンが噛み付く。
「ゴミとして利用する(リサイクルする)のだ。
欠陥を『仕様』として組み込めば、それは兵器になる」
その言葉が、Sランクたちのプライドに火をつけた。
愛着など湧かない。友情など生まれない。
あるのは、「欠陥品すらもねじ伏せて使いこなす、王としての自負」のみ。
📅 3日目:完成された「悪用」
最終日。
彼らのデッキは、Eクラスとは全く異なる形で完成していた。
【 煉獄寺グレンの解法 】
「戻ってくる? 上等じゃ!」
グレンは、トカゲが手札に戻る性質を逆手に取った。
『召喚時に1000ダメージを与える』という永続効果と組み合わせ、
「召喚」→「攻撃宣言(手札に戻る)」→「再度召喚」……という無限ループを完成させたのだ。
「殴れんのなら、出るだけで焼き尽くせばええんじゃ!」
【 サイラス・ヴォーンの解法 】
「計算などしない」
サイラスは、『旧式演算機』への入力を「わざと間違える」ことを選んだ。
入力ミスによる「自爆(全体破壊)」を、相手のターンに意図的に引き起こす自爆スイッチとして運用。
「僕が計算を間違えるのは、『今、爆発してほしいから』だ」
【 エリーゼ・ノワールの解法 】
「捨てたいなら、捨てなさい」
彼女はデッキを**「墓地で発動するカード」だけで構成した。
人形が手札を捨てれば捨てるほど、墓地で呪いが発動する。
「あら、また捨ててしまいましたの? ……でも残念、それは『捨てられた時に相手を破壊する』**呪いのお札でしたわ」
【 タイタン・トウドウの解法 】
「割れるなら、割らせない」
ガラスの城壁に**『ダメージ無効化バリア』**を何重にも張り巡らせた。
本体の耐久力を上げるのではなく、外部装甲でガチガチに固める過保護スタイル。
「傷一つつかせん。……私が全て受け止める」
【 ネオ・ピクセルの解法 】
「バグなら、隔離(サンドボックス)すればいい」
攻撃対象がランダムなら、「相手の場にしかモンスターがいない状況」を作ればいい。
自分の場をこのAI 1体にし、残りは魔法・罠でサポートする単騎特攻スタイル。
「攻撃対象、確率100%で『敵』。……バグ修正(デバッグ)完了だ」
決戦前夜:冷徹なる王たち
演習室に、静寂が戻った。
彼らはデッキケースを閉じる。
そこには、Eクラスのような「笑顔」も「愛着」もない。
ただ、道具を極限までチューニングした職人のような、冷たい達成感だけがあった。
「……整ったな」
サイラスが立ち上がる。
「我々はSランク。学園の頂点だ。
Eクラスの連中が『絆』だの『奇跡』だのと騒いでいるようだが……」
グレンが凶悪に笑う。
「関係ねぇな。
ワシらの『暴力(パワー)』で、その夢ごと叩き潰すだけじゃ」
エリーゼが人形を抱きしめる。
「可哀想なお友達……。壊して差し上げましょう」
彼らは「クソカード」を克服したのではない。
「クソカードすらも支配下に置く、圧倒的な実力」を身につけたのだ。
愛で解決したEクラス。
力で解決したSランク。
アプローチの異なる二つの「攻略法」が、準決勝で激突する。
「行くぞ。格の違いを教えてやる」
スタジアムの熱気は最高潮に達していた。
対峙するのは、学園の頂点に君臨するSランクと、泥沼から這い上がってきたEランク。
本来なら勝負にすらならないカード(実力差)だが、今回は条件が違う。
互いに握っているのは、学園長製の**「要介護・廃棄物デッキ」**だ。
試合開始直前。
恒例となった学園長のホログラムが、フィールドの中央に降り立った。
『諸君、準備は万端のようだね。
ゴミを宝に変える錬金術……その成果を見るのが楽しみだ』
学園長は、手に持っていた黄金の封筒を掲げた。
『さて。モチベーションを高めるために、もう一つ「ご褒美」を用意した』
「ご褒美……?」
私が呟くと、学園長はニヤリと笑った。
**『この準決勝を制したチームには……
**「代表者1名による、私とのエキシビション・マッチ権」を与える』
会場がざわつく。
学園長と戦える? それがご褒美? むしろ罰ゲームでは?
『もし、その代表者が私に勝利したならば。
学園祭終了後の「ランク戻し」を撤回し、現在のランク(待遇)を恒久的なものとして保証しよう』
「!!!」
電流が走った。
つまり、勝てば「プロテイン生活」に逆戻りしなくて済む。
美味しいカレーも、フカフカのベッドも、ずっと私たちのものになるんだ!
『ちなみに、私が使用するのは「1軍(ガチ)」でも「2軍」でもない。
調整不足の「3軍デッキ(試作品)」だ。
……これなら、君たちにも勝機はあるだろう?』
「3軍……!」
ソウタが唾を飲み込む。
「あの化け物の3軍がどれほどのモンか分からんけど……やるしかないで!」
ミカも拳を握る。
「絶対勝つッス! ウチはもうあんな部屋には戻らないッス!」
対するSランク側も、目の色が変わっていた。
「……我々の特権を守るためだ。負けられん」
サイラスが冷徹に呟く。彼らにとっても、Eクラスに負けてランクが落ちる屈辱だけは避けたいはずだ。
「条件は整ったね」
私は、対面に立つ銀髪の王を見据えた。
「行くよ、サイラス。
アンタたちには悪いけど……その席、永久に譲ってもらうから!」
第1試合:【青単】蒼井レイ vs 【青銀】ネオ・ピクセル
『 Theme : Bug vs Debug (バグと修正) 』
「ヒャハハ! おじさん、その本まだ読んでんの?」
ネオの場には、『バグだらけのAI』が一体だけ立っている。
攻撃対象がランダム(自分含む)という欠陥品だ。
「僕の『デバッグ』は完璧さ。
フィールドにはこいつ一体だけ!
さらに魔法『孤独な勇者』で、自分への攻撃判定を無効化!
これなら、攻撃対象は100%『敵』になる!」
欠陥を仕様でねじ伏せる。完璧な隔離(サンドボックス)運用だ。
だが、レイは冷静に眼鏡を押し上げた。
「……計算通りたい。君は『一体』に頼りすぎた」
レイの手元にあるのは、『文字化けした魔導書』。
効果不明のランダム魔法。
「解析完了。この魔導書のテキストは、古代ルーン文字の換字暗号たい。
3日かけて解読させてもらったばい」
レイが魔導書を開く。
「このページの呪文は……『対象のコントロールを入れ替える』!」
「はぁっ!?」
「君が孤独にしてくれたおかげで、奪うのは簡単たい。
さあ、こっちへ来い。……バグ修正の時間ばい」
ネオのAIがレイの場に移動する。
最強に育て上げた単騎エースを奪われ、ネオは自滅した。
WINNER : Rei Aoi
第2試合:【緑単】緑川ソウタ vs 【白茶】タイタン・トウドウ
『 Theme : Gift vs Refusal (押し付けと拒絶) 』
「受け取ってやぁ! ボクからのプレゼント!」
ソウタは、維持コストで破産確定の『怠け者の大樹』を、魔法『強制転移』でタイタンに押し付けようとする。
決まれば勝ち。必殺の押し付けコンボ。
だが、巨兵タイタンは動じなかった。
「……すまんね。私は『過保護』なんだ」
タイタンの場にある『ガラスの城壁』には、無数の装備魔法が張り巡らされていた。
『対象にならない』『効果で移動しない』『破壊されない』。
「な、なんやそのガチガチの耐性はぁ!?」
「私の城壁は、傷一つつかん。
……転移魔法、対象不適切により不発」
「うそぉぉぉ! 帰ってくんな大樹ぃぃぃ!」
コンボを弾かれたソウタの場に、大樹が居座る。
次のターン、維持コスト(全マナ)を払えず、ソウタは枯れ果てて自爆した。
WINNER : Titan Toudou
第3試合:【白単】白瀬ミカ vs 【紫黒】エリーゼ・ノワール
『 Theme : Protection vs Curse (加護と呪い) 』
「壊れなさい……。可哀想なお友達……」
エリーゼの『不幸な少女の人形』が、手札を勝手に捨て続ける。
しかし、彼女の墓地には「捨てられた時発動」する呪いのカードが満載されていた。
「墓地発動、『恨みの眼差し』。相手モンスター1体を破壊しますわ」
「ひぃっ! 対象取らないでッス! 割れちゃうッス!」
ミカの『ガラスの天使』は、対象になっただけで自壊する。
ミカは「全体加護」で守ろうとしたが、エリーゼの呪いは「対象を取らない全体除去」も完備していた。
「貴女の守りなんて、薄いガラス細工ですわ。
……粉々におなりなさい」
WINNER : Elise Noire
第4試合:【黒単】黒江カイ vs 【赤橙】煉獄寺グレン
『 Theme : Madness vs Violence (狂気と暴力) 』
Sランクが2勝1敗でリード。
後がないEクラス。第4試合は、最も危険な男同士の対決だ。
「オラオラオラァ! 出てこいやトカゲェ!」
グレンの『臆病な火トカゲ』は、相手がいると手札に戻る。
だがグレンは、それを「弾丸」として使っていた。
「召喚! 永続効果で1000ダメージ!
攻撃宣言! ビビって手札に戻る!
よし、マナがある限りもう一回召喚じゃあ!!」
「出入り」を繰り返す無限射撃。
カイのライフが削られていく。
「……ククク。いい火力だ」
カイは血を流しながら笑っていた。
彼の場には、主を殴る『反抗期の死霊』がいる。
「だが、貴様のトカゲ……戻る場所があると思うなよ?」
カイが発動したのは、永続罠『開かれた冥界の門』。
「我(オレ)がダメージを受けるたび、相手の手札をランダムに1枚捨てさせる」
「あぁん!?」
「グレン。貴様のトカゲが手札に戻った瞬間……我(オレ)は死霊に殴られてダメージを受ける。
するとどうなる?」
グレンが青ざめる。
トカゲが手札に戻る → カイがダメージを受ける → 戻ったトカゲが捨てられる。
「弾丸が……消えた!?」
「リロードはさせん。
……素手で殴り合おうか、覇王」
武器を失ったグレンを、反抗期を終えた死霊がタコ殴りにした。
WINNER : Kai Kuroe
最終戦:【5色】遊崎いろは vs 【銀単】サイラス・ヴォーン
『 Theme : Fortune vs Calculation (運命と計算) 』
2勝2敗。
運命の行方は、大将戦に委ねられた。
「……ここまで粘るとはな。褒めてやろう」
サイラスが、静かにデュエルディスクを構える。
彼の手元には、自爆スイッチ付きの『旧式演算機』。
「だが、これで終わりだ。
君の『運』が尽きるか、私の『計算』が完了するか……試してみようか」
私は、デッキの一番上にあるカードを信じて、ドローの構えを取った。
私の切り札は『運命の道化師(ジョーカー)』。
コイントス全表なら勝ち。一つでも裏なら即死。
確率は1/8。
でも、私には魔法がある。
裏を「表(勝利)」に変える、逆転の魔法が。
「上等だよ、サイラス!
アンタの完璧な計算式……。
私の『0%の奇跡』で、バグらせてやる!」
『 Duel Start : Iroha vs Cyrus 』
学園の命運を賭けた、最後のドロー。
1000年後の未来で、最も熱い「クソゲー」が幕を開ける!
『 Duel Start : Iroha vs Cyrus 』
「先攻は僕だ。ドロー」
サイラスの指先が、空中のキーボード(ホログラム)を叩く。
彼が召喚したのは、ブリキのおもちゃのようなロボットと、例の巨大な計算機。
「銀マナチャージ。
……『旧式演算機』、起動。
このカードは毎ターン、ランダムに表示される数式を解かなければ自壊し、プレイヤーに2000ダメージを与える」
モニターに複雑な微分積分が表示される。
サイラスは表情一つ変えず、瞬時に正解を入力した。
「正解(クリア)。
……だが、このデッキの本質は『正解』し続けることではない」
「え?」
「『わざと間違える』ことだ」
サイラスの目が冷たく光った。
彼は次の入力画面で、デタラメな数字を打ち込んだ。
『 ERROR : Calculation Failed 』
『 Self-Destruct Sequence... Initiated. 』
「なっ、1ターン目から自爆!?」
「僕の場には**『スクラップ・ガード(廃材の盾)』**がある。
自分のカードが効果で破壊された時、そのダメージを無効にし……相手に反射する!」
ズガァァァァン!!
演算機が大爆発を起こす。
その爆風が、魔法の盾によって跳ね返され、私に襲いかかった。
「ぐぅぅぅっ!?」
『 Life : 8000 → 6000 』
「さらに、破壊された演算機は『自己修復』し、次のターンに復活する。
……わかるか? 404番。
これは**『毎ターン撃てる、ノーリスクの2000火力』**だ」
サイラスが冷徹に告げる。
壊れるなら、壊せばいい。爆発するなら、爆弾として投げつければいい。
それが彼の「支配」。
欠陥品を、完璧な兵器として運用する悪魔のロジック。
🃏 追い詰められたカオス
「私のターン……ドロー!」
強い。
「要介護カード」を使っているはずなのに、サイラスの動きには一切の無駄がない。
毎ターン飛んでくる2000ダメージ。
私のライフは4回爆発すれば終わる。
「……マナチャージ! 壁モンスターを展開!」
私は必死に防御を固めるが、サイラスの爆撃は止まらない。
ターンが進むごとに、私のフィールドは更地になり、ライフが削られていく。
『 Life : 2000 』
残りライフ、あと一撃分。
私の手札には、切り札『運命の道化師(ジョーカー・オブ・ディスティニー)』と、合宿で見つけた魔法カード『逆転する運命(リバース・フェイス)』。
準備は整っている。
でも、怖い。
もし失敗すれば……Eクラスのみんなは、またあの泥沼生活に逆戻りだ。
「……震えているな」
サイラスが、爆煙の向こうで眼鏡を直した。
「当然だ。君のデッキの切り札は、成功率12.5%のギャンブルカード。
対して僕の計算機は、100%の確実性を持って君を殺す。
論理的に考えて、君に勝ち目はない」
「……論理、ねぇ」
私は震える手を抑え、顔を上げた。
「サイラス。アンタはすごいよ。
ゴミみたいなカードを、完璧に『管理』してる」
「それがSランクだ」
「でもさ。
アンタはカードを『道具』としてしか見てない。
だから……カードが起こす『奇跡(いたずら)』を信じてない!」
私は、全マナをタップした。
「ラストターンだ!
召喚! 『運命の道化師(ジョーカー・オブ・ディスティニー)』!!」
ケケケッ!
下卑た笑い声と共に、極彩色のピエロが現れる。
攻撃力1000。
今のサイラスのライフを削るには足りない。
でも、こいつには「特殊勝利」がある。
「効果発動! コイントスを3回行う!
全て表なら……私はデュエルに勝利する!」
「確率は1/8。
……無駄なあがきだ」
「まだだよ!
私は魔法カード発動! 『逆転する運命(リバース・フェイス)』!」
私はカードを叩きつけた。
「このターン、コイントスの判定を『逆』にする!
つまり……『裏』が『勝利条件』になる!!」
「なっ……!?」
サイラスが初めて動揺を見せた。
「元の条件は『全て表なら勝利』。
逆転すれば……『全て裏なら勝利』になるだけだ!
確率は変わらん! 1/8のままだ!」
「ちっちっち。違うよ、エリート様」
私はニヤリと笑った。
「元の敗北条件は、『一つでも裏が出たら負け』。
それを逆転したらどうなると思う?」
サイラスがハッとして、計算を始める。
「一つでも裏なら負け……その逆は……
『一つでも表なら負け』……? いや、違う……!
論理的否定(NOT)をとれば……」
『一つでも裏が出れば、勝利』
「そ、そんな馬鹿な……!?
勝率が……12.5%から、87.5%に跳ね上がった!?」
「正解!
これが私の見つけた『攻略法(バグ技)』だよ!」
私は空中に浮かぶ3枚のコインを指差した。
「さあ、踊れジョーカー!
サイラスの完璧な計算式を、嘲笑ってやれ!!」
🎲 運命の落下
チン!
一枚目のコインが弾かれる。
結果は――【 表 】。
「っ……!」
まだだ。あと2枚ある。
どちらか一枚でも「裏」が出れば、私の勝ち。
チン!
二枚目のコイン。
結果は――【 表 】。
「……ふ、ふふふ。
やはり運命は、秩序を選ぶようだ」
サイラスが安堵の笑みを漏らす。
「残り一枚。それが表なら、君の負けだ。確率は1/2……五分五分!」
「五分五分?
違うね」
私は、回転する最後の一枚を見つめた。
「こいつは『あまのじゃく』なんだよ。
アンタみたいなすました優等生の前で、素直に表を出すようなタマじゃない!」
回れ、回れ、運命。
泥沼から這い上がった私たちの、執念を見せてみろ!
チリリン……パサッ。
コインが地面に落ち、転がり、止まった。
全員の視線が、その一点に集中する。
描かれていたのは、王冠を被った王の顔(表)ではなく。
舌を出して笑う、道化師の顔(裏)だった。
【 裏 】
「――――あ」
サイラスの声が漏れる。
「条件達成!
『裏』が出たため……『逆転勝利(リバース・ウィン)』!!」
ドォォォォォン!!
道化師が手にした爆弾が膨れ上がり、サイラスの頭上で破裂した。
紙吹雪とファンファーレが、スタジアムに降り注ぐ。
『 WINNER : Iroha Yusaki 』
エピローグ:王座交代
「……負けた、のか。僕が」
サイラスは、呆然と立ち尽くしていた。
自爆戦術という完璧な論理を組み上げ、確率すら支配したはずだった。
だが、最後は「へ理屈」のような逆転劇に敗れた。
「……計算外だ。君の思考回路は、理解できない」
「理解しなくていいよ」
私は彼に歩み寄り、手を差し出した。
「ただ、『面白い』って思ってくれれば、それでいい」
サイラスは私の手を見つめ……そして、小さく息を吐いて握り返した。
「……ああ。不愉快だが、退屈はしなかった。
Eクラス(イレギュラー)。君たちの実力、Sランクが認めよう」
会場が揺れるほどの大歓声。
Sランク「五帝」陥落。
そして、Eクラスの下剋上完了。
「やった……やったぞぉぉぉ!!」
ソウタたちが雪崩れ込んでくる。
「これでご飯が美味いッス!」
「……深淵の勝利だ」
「計算通り(大嘘)たい!」
もみくちゃにされながら、私はモニターを見上げた。
そこには、満足げにワイングラスを掲げる、ラスボスの姿があった。
『見事だ、遊崎いろは。
約束通り、君たちのランクは保証しよう。
そして……』
学園長の目が、妖しく光った。
『「ご褒美」の時間だ。
天空塔へ来たまえ。
この私が、直々に相手をしてあげよう』
準決勝突破。
でも、まだ終わりじゃない。
最後に待つのは、このクソゲー(理不尽な世界)を作った張本人との、エキシビション・マッチ。
「行ってくるよ、みんな。
……最高の『お礼参り』にね!」
私は仲間たちに見送られ、天空塔へと続く光のエレベーターに乗り込んだ。
目指すは最上階。神殺しの時間だ。
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