第11話

熱気に包まれたスタジアム。

私の勝利(と、レイカ先輩の「解凍」)で幕を開けた学園祭トーナメントは、ここからさらに混沌の度合いを深めていく。

​Eクラスの仲間たち。

彼らはもう、ただの「落ちこぼれ」じゃない。

1ヶ月間、自分の「偏愛(エゴ)」と向き合い、ネットの海でジャンクカードを探し、泥沼で特訓した**「歴戦の変人たち」だ。

​さあ、エリートたちよ。

私の次は、こいつらが相手だ!激突! Eクラス vs 変人エリート軍団

​第2試合:【緑単】緑川ソウタ vs 【紫緑】毒島カオル

​『 Theme : Life vs Virus (生命と猛毒) 』

​「ヒヒッ……。緑川くん、君の植物たちは元気ですねぇ」

​対戦相手は、白衣にマスク姿のAAAランク、毒島カオル。

フィールドには紫色の煙が充満している。

​「僕のデッキは【猛毒汚染(ヴェノム・スワンプ)】。

君がマナを貯めて、植物を育てれば育てるほど……僕のウイルスも繁殖するんですよぉ」

​毒島が発動したのは、永続魔法『寄生する菌糸』。

ソウタの場にある植物族モンスター全てに「毒カウンター」が置かれ、ターンごとに攻撃力が下がり、最後には枯れ果てて相手のコントロール下に移るというえげつないカードだ。

​「あぁっ! ボクの世界樹が! マナの源泉が腐っていくぅぅ!」

ソウタが悲鳴を上げる。

「無駄ですよぉ。治療法はありません。君の豊かなマナは、僕の苗床になるんです」

​絶体絶命。しかし、ソウタはガタガタ震えながらも、恍惚とした表情を浮かべた。

​「……苗床? 甘いな、マッドサイエンティスト」

​ソウタの手札から、緑色の光が溢れ出す。

​「ボクのマナへの愛はなぁ……毒ごときで死ぬようなヤワなもんちゃうねん!!」

​ソウタが叩きつけたのは、路地裏のショップで見つけた、誰も使わない「過剰成長」のカード。

​「魔法発動! 『超・光合成(ハイパー・シンセシス)』!

毒? ウイルス? 関係あるか!

減るスピードよりも速く、増やせばええんやろがぁぁぁ!!」

​「な、なにっ!?」

​「効果発動! マナを全てアンタップし、デッキトップから5枚を強制マナチャージ!

さらに墓地の植物族を全て肥料にして……出でよ!

『惑星を覆う蔦(プラネット・アイビー)』!!」

​ズゴゴゴゴ……ッ!!

毒に侵された植物を突き破り、さらに巨大な、スタジアムを埋め尽くすほどの超巨大植物が出現した。

毒のダメージなどものともせず、自己再生と増殖を繰り返す。

​「毒の致死量を超えた生命力……!?

計算外です! 培養槽が割れちゃうぅぅぅ!?」

​「飲み込めぇぇぇ! 自然の摂理(パワー)の前にひれ伏せや!!」

​WINNER : Sota Midorikawa

​🪽 第3試合:【白単】白瀬ミカ vs 【銀単】ギア・ロイ

​『 Theme : Fantasy vs Factory (翼と整備) 』

​「てやんでぇ! なんだその翼は! 整備不良だらけじゃねぇか!」

​AAランクの職人、ギア・ロイがスパナ(型デバイス)を振り回す。

彼のデッキは【無限整備(ガジェット・ファクトリー)】。

相手の機械族モンスターを「分解(除去)」したり、「改造(コントロール奪取)」したりする、エンジニア特化デッキだ。

​「ウチの翼はコスプレじゃないッス! 魂の装備ッス!」

「うるせぇ! ネジが緩んでんだよ! 俺の工場でバラバラにして組み直してやる!」

​ロイが繰り出す『解体用アーム』が、ミカの天使たちに襲いかかる。

ミカがこの1ヶ月で強化した「機械化天使」は、皮肉にもロイの「機械メタ」の格好の餌食だった。

​「きゃあぁぁっ! せっかく溶接した翼が外されるぅぅ!?」

​「へへっ、いい素材だ! 俺様の『巨大ロボ』のパーツにしてやるぜ!」

​ミカの天使たちが次々と分解され、ロイの場にパーツとして吸収されていく。

だが、ミカは涙目でドライバーを握りしめた。

​「……人の衣装にケチつけるなんて、レイヤーの風上にも置けないッス!」

​ミカが取り出したのは、工作実習室で作った特製の強化パーツ(カード)。

​「装備魔法発動! 『自爆スイッチ付き・リアクター』!」

​「あぁん? 自爆だと?」

​「ウチの天使たちは、ただの機械じゃないッス!

**『分解されると爆発して、相手を道連れにする』**呪いの装備ッスよ!」

​ドカーン! ドカーン!

ロイが奪ったパーツが次々と爆発し、彼の工場のラインを破壊していく。

​「うわぁぁっ!? 工場が! 俺の聖域が油まみれにぃ!?」

​「整備不良はお互い様ッス!

いくよ、本命の天使ちゃん! 『聖なる爆撃部隊』、突撃ッスーー!!」

​WINNER : Mika Shirase

第4試合:【黒単】黒江カイ vs 【銀赤】鉄テツ

​『 Theme : Curse vs Gunfire (呪いと銃弾) 』

​「ターゲット確認。……不衛生な男だ。消毒する」

​Aランクのミリオタ、鉄テツは全身迷彩服でガトリングガンを構えていた。

彼のデッキは**【重火器乱射(ヘビー・アームズ)】**。

圧倒的な火力と手数で、相手をハチの巣にする物理特化デッキ。

​「……フン。鉛玉で、我(オレ)の深淵に届くと思うなよ」

​カイは旧校舎で拾ってきた「ビデオテープ」のようなカードをセットした。

​ダダダダダダッ!!

テツの猛攻が始まる。カイのモンスターは次々と撃ち抜かれ、蜂の巣になって消えていく。

​「弾幕薄いぞ! どうした、口ほどにもない!」

「……ククク。いいぞ、もっと殺せ。

貴様がトリガーを引くたびに……『呪い』は蓄積する」

​カイのライフが削れ、墓地に死体が山積みになる。

そして、条件は満たされた。

​「永続罠、解禁。『呪われたビデオレター』」

​「なんだそれは!?」

​「このカードは、墓地のモンスターが5体以上破壊された時、相手のモニターに強制割り込みする。

……効果は、『相手の装備カード(武器)を全て破壊し、その数だけ相手の手札をハンデス(道連れ)にする』」

​バギィン!!

テツの重火器が一斉に暴発した。

​「なっ、ジャムった(弾詰まり)だと!? 俺の整備は完璧なはず……!」

​「物理的な故障ではない。怨念だよ。

……さあ、丸腰になったな?

ここからは、我(オレ)の痛み(ライフ)を倍にして返してやる」

​武器を失った兵士に、無数の怨霊が群がり、精神を蝕んでいく。

​WINNER : Kai Kuroe

​📚 第5試合:【青単】蒼井レイ vs 【青紫】本田シオリ

​『 Theme : Logic vs Silence (論理と静寂) 』

​「……静かに。本を読んでいます」

​図書委員の本田シオリは、巨大な魔導書を開きながら呟いた。

彼女のデッキは**【禁断の魔導書(グリモワール)】**。

「沈黙(サイレンス)」の魔法で、相手の魔法・罠の発動を封じるコントロールデッキだ。

​「君のうるさい計算式、全て閉じさせてもらうわ」

​シオリがページをめくると、レイの周囲に静寂の結界が張られる。

魔法が使えない。計算が狂う。

​「……厄介な検閲やね。知識の探求を邪魔するとは」

​レイは眼鏡のブリッジを押し上げた。

魔法が使えないなら、別の方法で「解」を出せばいい。

​「君は静寂を好む。変化を嫌う。

なら……『ノイズ』を混ぜればどうなるかな?」

​レイが召喚したのは、魚族でも機械族でもない、「音」を操るモンスター。

​「召喚! 『深海の歌姫(ディーヴァ)』!

このカードは魔法ではない。モンスター効果による『音波攻撃』たい!」

​「……っ、うるさい」

シオリが耳を塞ぐ。

​「さらに、僕が図書館のデータベースから発掘した古書カード……

『禁書指定のパラドックス』!

これは魔法じゃない。『フィールドのルールを書き換える』儀式たい!」

​レイは、シオリの「沈黙」のルールの裏をかき、逆に「魔法を使わずに魔法のような効果を得る」無限ループを組み上げた。

​「君の静寂は、僕の論理(ロジック)の前ではただの『空白』に過ぎん。

……証明終了(Q.E.D.)たい」

​WINNER : Rei Aoi

​Eクラス、全勝通過

​「……嘘だろ」

「あいつら、全員勝ちやがった」

「しかも、相手はAランクやAAランクのエリートだぞ……!?」

​会場がどよめきに包まれる。

まぐれじゃない。

相性最悪の相手を、それぞれの「個性(エゴ)」と「工夫(改造)」でねじ伏せた。

​私たちは、控室に戻り、ハイタッチを交わした。

​「やったね! 全員初戦突破!」

「危なかったわぁ……。あの毒、夢に出そうや」

「機械油の臭いが取れないッス……」

「……呪いのビデオ、ダビングしておいたぞ」

「合理的勝利たい」

​ボロボロだけど、みんな笑っている。

勝った。私たちは、この学園で生き残れる。

​だが、モニター越しに、冷たい視線を感じた。

トーナメント表の反対側。

シード枠で勝ち上がっていた、Sランク「五帝」たちだ。

​銀髪のサイラスが、無表情にこちらを見ている。

赤髪のグレンが、凶悪な笑みを浮かべて首を鳴らす。

​「……さて。準備運動は終わりって顔してるね」

​私はデッキケースを握りしめる。

次戦、いよいよ準々決勝。

ここからは、「変人」レベルじゃない。

「化物(モンスター)」たちの領域だ。

​「面白くなってきたじゃん。

行こう、みんな。

天空の塔(てっぺん)まで、あと少しだよ!」

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