寂れたビルの子供と女

 投稿者:二年F組 馳川万代


 これはワタシの、友人から聞いた話なんですがね?


 その友人の友人、仮に、A君としときましょうか。


 そのA君が、仲間数人と「幽霊が出る」という雑居ビルに肝試しに行ったってんですよねえ。


 このA君というのが、本来真面目な学生なんですが、引っ越した先で学校に馴染めなかったんでね、やがてあまり素行の良くない、いわゆるヤンチャな連中と行動を共にするようになった。


 学校に馴染めない者同士、不思議とウマが合ったそうなんですよ。そんな仲間たちでつるんでいたわけなんですね。


 ある日いつものように、夜遅くに家にも帰らずたむろして「なんか面白いことねえかなー」なんてやっていた。


 すると一人の仲間が「肝試し行かないか? 俺いいとこ知ってんだ」と、こう言い出したんですよ。


 「肝試し? あーいいじゃねえか、それじゃあ行こうか」とみんな暇を持て余してたんで乗り気なんですね。

 

 ちょうど一人、車を持ってる仲間がいたんですよ。学生で車持ってるってのは貴重ですからねえ、そらたいしたもんですよ。大きい車じゃありませんが普通車でもって五人全員乗れるってんで、その車にぞろぞろ乗り込んで、ズゥーと行ったわけだ。


 で、道中でこの肝試しに行こうと言い出した仲間が、「Aよお、あそこは冗談抜きで出るんだよ」なんて言うんですねえ。「あそこへ行ったもう何人もが、女の霊を見てんだ」ってんですよ。


 この彼を、仮にB君としときましょうかね。


 B君が言うには、そのビルというのがもうえらく年季の入った雑居ビルなんですが、一階のスナックだけ営業しててその上の二階から五階までは、不思議となにかの店が入ってはなくなって、新しい会社が入ったかと思ったら潰れて、入れ替わりが激しくていつからかほとんど空室だそうなんですよ。


 そこの屋上に女の霊が出て追いかけられて、もし捕まってしまうと屋上ですからねえ端に追い詰められてそのまま落っこっちゃうなんていう、そういう話があるんですよねえ。


 この女というのが、男に騙されて大きな借金を抱えた挙句、その男と無理心中をしようとして自分だけ死んでしまったという、深い悲しみと怨みを持った幽霊だってB君は言うんですよ。


 「その幽霊はなあ、自分を苦しめたその男を探していて、似た感じの男を見つけるとそのまま抱き着いて屋上から一緒に飛び降りるんだってよ。その男はやせ形で背が高くて、ちょうどお前似てんじゃねえか?」なんて言うもんだから、A君は内心で(うわーやめてくれよ、怖いなあ)と思ったんですが、仲間たちの手前、「バカ言うなよ」なんて強がった。


 供米田高校から西へ線路沿いにしばらく行ったところ、駅前というには少し離れたところに、そのビルはあるんですね。


 車の中から見てると、周りにはマンションだとか背の高い建物もあるんですが、そのビルはなんだかポツーンと孤立したような、寂しい感じがしたって言うんですよねえ。


 それというのも、そのビルの裏側は線路の高架が建っていて、右手は空き地、左手と正面は幅が広めの道路でね、隣り合う建物というのがないんですねえ。


 ビル自体も見るからに古びた、一階のスナックもやってるんだかやってないんだかわからないくらいの、なんとも暗あい感じだったってんですよ。


 人気ひとけが無いんですよねえ。


 入口というのは鍵がかかってるんですが、非常階段が裏側にあって、ちょっと柵を乗り越えれば容易に入れてしまうってことがわかった。


 じゃあ入るかとなったんですが、ここでB君が、「せっかくだから一人ずつ登ってさ、屋上の端まで行って帰ってこようぜ」なんて言い出した。


 A君はもうすっかり怖気がついてしまっていて、(うぅーコイツなにを言い出すんだよやだなあ)と思ってるんですが口には出せない。


 だれが最初に行くかってことでじゃんけんをしたんですが、悪いことにA君が一番手になってしまった。


 ううーBのやつなんだってあんな話するんだよーやだな怖いなあと思いながら暗ーい鉄の階段をカンカン、カンカン登っていく。


 ビルの脇の街灯と月のぼぉんやりした光しかなかったんでね、先がよく見えないんですよ。


 折り返しがいくつもある階段なんで、次に曲がったところになにか、それこそあの話の女がいたらやだなーなんて思って登っていったそうですよ。


 すると、自分の行く先から視線のようなものを感じたんでふっと見上げると、「ウゥッ」と身がすくんでしまった。なにか小さい影が階段の折り返しのところからこっちを覗くようにしているのが一瞬見えて、スッと引っ込んだ。


 そしてカンカンカンカンと、小さい足音が上へあがっていった。


 子供のような小さい影だったそうですよ。


 「うわーなんだあ?」こんな夜中の無人のビルですよ。子供がいるはずがない。


 呆然としている間に、イィィィィガチャン……と、上のほうで扉が閉まるような音がした。


 たまらずA君、下で待っているB君たちに電話をかけた。



「おい、なんだい、いまさあ、階段に子供がいたんだけど」


「子供ぉ? いるわけないだろ、いま何時だと思ってんだ? いないよ」


「いやいたんだよ! いま走ってく音したろぉ?」


「いやあしないよ。お前の足音だけだよ」



 そんなはずはない。自分は確かに子供を見たはずなんですが、信じてもらえなかった。


 そう高いビルでもないし、大きな声を出せば直接聞こえるくらいの高さなんで、足音が聞こえないわけはないんですがね、仕方がない。


 「なんだお前、最初に行くことんなったからって俺たちビビらせようとしてんのか?」なんて言ってる。


 ここで帰っても言い訳して逃げたことにされちゃうんでね、怖いんですがA君、スマホのライトを点けて、おそるおそる進んでいった。


 カン、カン、カン、カン……。


 シィーンとした空気に、階段の音だけが響く。


 五階ですからね、登ろうと思えばすぐに登り切っちゃうはずなんですが、踊り場の折り返しが来るたび、足が止まるんだ。


 毎回決心を固めて気合を入れて、「えいやっ」と振り返る。


 その先に何もいないことを確認して、ようやくまた進んでいくんで、なかなか上までたどり着かない。


 時間をかける分、余計に恐怖は膨らんでいきますよねえ。


 友達の手前、逃げ出したくはないという一心が、彼をかろうじて上へ進ませる。


 そんなことをしながら、どうにかこうにか、階段の一番上までたどり着いた。


 そこには背丈ほどの柵と鉄製の扉があって、屋上の中の様子はよく見えない。


 鍵はついていないようなんですが、A君、開けらんないんですよねえ。


 あの子供が走り去ったあと扉の閉まる音がしていたんで、いるとしたらここなんですよ。


 ドックドックドックドック心臓の音が、静まり返った地上五階でやけにうるさく感じる。


 扉の取っ手に手をかけて、しばし立ち尽くしていたA君なんですが、ここへきてこう思い始めた。


 おい待てよ、どうして俺が子供なんかにビビらされなきゃいけないんだと。要するに子供がたとえこの世のもんじゃないにしても、なにか祟り殺されるような筋合いはないし、生きている子供相手ならね、なおさら怖がる必要ないじゃないかと。


 人間追いつめられると、恐怖って怒りに変わるんですよねえ。


 なにかしてくるようならこっちも力いっぱい抵抗してやろうと、もし太刀打ちできなくても、五階建てなんで、走って逃げればすぐ地上に着くってなもんで、火事場の馬鹿力とでも言いますか、気持ちは固まった。


 ガッチャン……イィィィィ……


 扉を開けた。


 そこには想像していたよりもこじんまりとしたね、室外機であったり換気扇の機械がいくつか並んだ、埃っぽい屋上だったそうですよ。


 開けたとたんに、トトトトッと、子供が走り去るような小さな足音がしたんだ。


 見ると室外機の影、髪の長さから見て女の子かなあ、子供の顔が一瞬見えて、A君と目が合ってすぐ引っ込んだ。


 「ははーん、やっぱり生きてる子供だな」とA君は少し安心して、自分もそうなんですがこんな時間、こんなところにいるような子供はろくなもんじゃないんで、少しお説教でもして、なんなら家まで送ってやろうかなあ、家に居づらい事情でもあるんなら、自分たちのところでもってしばらくいればいいし、とにかく顔を見てやろうと、その室外機のほうへ歩いて行った。


 いわゆる不良とも呼ばれる彼なんですが、この時は子供相手というのもあって、怒りはすっかり収まって、優しい気持ちだったそうですよ。


 というのもA君、引っ越しのきっかけというのが両親の離婚だったんですね。まだ小さい妹とは離れ離れになってしまって、その妹のことも少し思い出してたってんですねえ。


 「おーい、こんなとこいたら危ないぞ」と声をかけながら、さっき顔が引っ込んだ陰をひょいと覗き込んだら「うわッ」と思わずA君驚いた。


 子供はいなかった。


 人形なんだ。


 室外機の影、さっき子供がいたはずのそこには、人形がぺたーんと座るようにして置いてあった。


 ぬいぐるみにね、髪の毛が、要するにフランス人形や日本人形って一本一本の髪の毛が生えてますよねえ。あんなような髪がついていて、汚れてますがねえフリルの付いた洋服が着せてある。


 「うえーどういうことだ?」とA君は周りを探し回るんですが、子供はいない。


 理性ではそんなわけがないとわかってるんですが、どう考えてもさっきの影? 足音? この人形のものとしか、思えませんよねえ。


 静かーに佇んでいるその人形、衣装の感じからおそらく手作りなんでしょうね、かつては手をかけられていたはずなのにこんな寂しいところに忘れられて、見つけてほしくて自分を呼んでたのかなあなんてA君、学校に馴染めずに一人だった自分とどこか重なって、なぁんだか哀れな気持ちになってきた。


 ここまで結構な怖さを味わってますからねえ、もう感覚が麻痺したというか、空気に慣れてきたんですね。


 持って帰って、お寺で供養か、お焚き上げでもできるかなあと思って人形をひょいと持ち上げた。


 その瞬間──


 カン、カン、カン、カン……階段の下のほうから、階段を上がってくる足音がする。


 ずいぶん時間をかけちゃったんで、おそらく仲間が心配して様子を見に来たか、あるいはしびれを切らして次のやつが上がってきたかなと思って階段の下に向かってね、「おーい、いま戻るよ」なんて声をかけたんですがね、返事がない。


 屋上から出て柵から身を乗り出して階段の下を覗き込むと、上がってくる人影があるんですがね、長ーい髪が見えた。


 自分の仲間に長髪のやつはいない。


 知らない誰かが上がってくる。


 するとその人影が踊り場を回る拍子に、顔が見えた。


 街灯に照らされたその顔、なにか大きく傷が入ったような、顔半分に何か塗ったように黒くなった顔の女だったそうですよ。


 それがカン、カン、カン、カンと登ってくる。


 もう誰も入ってないビルですからねえ、こんなところに用事があるやつはいないんだ。


 「ええー、だれだぁ?」なんて思って、下の仲間に電話をかけようとしていると、女と目が合った。


 ふわーっと、女の顔が照らし出される。


 その女の顔というのが、顔半分黒く塗ったのではなくて、皮膚のはがれたような赤茶色の、ケロイド状って言うんですか大きな傷跡で、とても普通の状態ではない。


 その時A君は思い出したんですよねえ。それまで人形に気を取られていたんですが、もともとこのビル? 女の幽霊が出るって話でしたよねえ。


 「おいよせよ……まさかあの女か!?」A君はそう思って「おい早く出てくれ……早く出てくれ……」と仲間が電話に出るのを待ったんですが、一向に繋がらない。


 目が合ったその女? A君を見て、半分だけの顔でニターっと笑ったってんですねえ。


 その瞬間A君ゾクーっとして、思わず後ずさったんですが、肘を柵にぶつけて持っていたスマホを落としてしまった。


 ガランガランとスマホが階段の隙間から落ちていく音とともに、カン、カン、カンという女の足音が、カン、カン、カンカンカンカンカンカン! とものすごい速さになってんですよねえ。


 「うわー来る来る来る!」


 暗い中、スマホもない。


 下からは顔が半分だけの女がものすごい勢いで上がってきてる。


 たまらず屋上へ引き返してドアをバーンと開けて、しかし逃げ道はない。


 屋上の端までダァーッと行ってビルの下へ向かって「おーい! おーい! 助けてくれー! 助けてくれよー!」と叫ぶんですが、仲間の姿が見えないんだ。


 おかしいですよねえ! 五階建てなんだそのビル。周りは静かで隣に建物もない。大声で叫んでいれば下まで聞こえるはずですから。


 おかしい。A君ここへきて、「これおかしい」と思った。


 階段上がってからずいぶんと時間が経っているんですが、すぐ横の道路? その先の国道まで通じてますから普段なら夜中でも多少車が通る。それが一台も通ってない。


 いつもなら国道から音の大きい車やバイクがバァーッと行くのが聞こえるんですがね、シイィーーンと空気が凍ったように何も聞こえない。


 聞こえるのはカンカンカンカン迫ってくる足音だけ。


 もう異様なんですよね。


 まるでそこだけ現実から切り離されて、この世ではなくなったかのように感じて、それまで忘れていた恐怖感が足元からゾーッと立ち上がってきた。


 いまにも階段の終わりのそこ、その姿が見えるんじゃないかと思うと、とにかく隠れないとと思って室外機の影にバッと隠れた。


 やがて足音が、カンカンカン……カン! と、すぐそこで止まった。


 イィィィィ……


 ゆっくりと屋上の、さっきA君が飛び込んで半開きになっていた扉が開かれた。


 すぐ背後に、たぶんあの女がいる。


 お互いにじー……っと、時が止まったように音も立てなかった。


 とてもじゃないけど顔なんか出せないんで、「ううー勘弁してくれ、帰ってくれー」と願いながら、息を殺して耐えていた。


 すると突然「おーい」とB君の声が聞こえた。間違いなくB君の声だった。


 一瞬A君は、下の仲間が気づいてくれたと思って返事しようとしたんですが、すぐに「ううッ」背筋が凍った。


 そうではないんだ! 声はB君なんですが、その声の場所、聞こえてきてるところっていうのが、すぐ背後、要するにいま現在その女のいるであろう階段の終点の部分から聞こえてんですよ。そんなはずはない。


 さっきまですごい勢いで女が登ってきていたそこにB君がいられるはずがないんだ。


 声は「おーい、出て来いよー。もう帰ろう」と呼び掛けてくる。


 でもその声は聞き慣れたB君の口調じゃないんですね。変に低く抑えたような、抑揚なく半笑いでしゃべるような声だったそうですよ。


 「もういいぞ、疲れただろ、帰ろう」と言いながら声がゆーっくりと移動してくる。


 「ううー勘弁してくれー勘弁してくれー」ガタガタガタガタ震えてた。


 すると、声がわずかなんですが、自分の隠れているところと違うほうへ進んでいく。


 A君、「もし隙が見えたら一目散に逃げるしかない」と覚悟決めて、少しだけ視線を動かすと、かすかに白っぽい影が背中を向けてゆっくりと歩いているのが見えた。


 A君は「いまだ!」とダァーッとかけて怪談へ向かったんですが、「うわあ!」足がビタッと止まっちゃった。


 B君が立ってんですよ! そこ、階段の入り口んところに。


 生気がまるでない笑顔でこっち見てニタニタ笑ってる。


 「え、じゃあこの女は?」と振り返ろうとしたその瞬間!


 「かえして」って耳元で女の声がして、後ろからガバッ! っと体に抱き着かれて、すごい力で後ろ向きに引きずられていく。


 「うわああ! おい、B! 助けてくれよー!」もがきながらB君に助け求めるんですが、B君はピッと直立したままニタニタ笑ってるだけ。


 とにかく抵抗するんですが、人間とは思えない力でもってどんどんどんどん屋上の端に連れてかれる。


 「やめてくれー! 離してくれー!」


 いよいよ端まで達して、腰の高さにある壁を掴もうとするんですが、ドーンと押されたようになって、体がふわっと浮く、目の前に顔が半分焼けただれた女の顔がニーッと笑ってた。

 

 その瞬間ふーっと意識が飛んじゃった。



 気がついたらA君、病院のベッドにいたそうですよ。


 どういうわけか頭に包帯がグルグル巻きになってる。


 起きあがろうとしたんですが、体がうまく動かない。何やらチューブやらコードやらが体に装着されてるんですね。


 目を覚ました彼に、周りのナースたちが慌ただしくなって、やがてお医者さんがやってきてあれやこれや検査をした。


 医者は「Aさん、あなた階段から落ちて頭を打って、長いこと寝てたんですよ」って言った。


 階段から落ちた? 


 いや違う。仲間と肝試しに行って、ビルの階段登った先で、女に組みつかれて、落っこちそうになったのまでは覚えてるんですがねえ、医者は間違いなく階段で頭を打ったと言ってくる。


 しばらくして仲間たちがお見舞いにやってきたんで、当日のことを訊いてみた。



「おいよかったなお前、目が覚めてなあ」


「もうちょっと病院着くのが遅れてたら危なかったらしいぞ。俺らに感謝しろよ」


「おお、それはありがたいんだけどさ、俺肝試しの当日のこと覚えてないんだ。あの日俺はビルの屋上まで行ったよなあ」



 そう訊くと彼らは、不審そうに顔を見合わせてる。要するに記憶が混濁してわけのわからないこと言ってんなという顔だった。


 こっちは本当に覚えてませんからねえ、「おい、なんだよ。俺なんか変なこと言ってるか?」ちょっとムッとしたわけですねえ。


「お前本当に覚えてないのか? 屋上にはさあ、鍵がかかってたんだよ。お前はそこから一番近い踊り場でもって、壁にもたれるようにして、意識を失ってたんだよ」



 ええ? 鍵がかかってた? 自分は確かにそのドアを見た。鍵はついていなかった。


 なんだ? じゃああれは全部夢だったのか? 


 言われてみれば屋上で味わったあの感覚? とても現実とは思えないんで、夢だと言われれば納得できるような気もしますよね。



「そうだ、Bはどうしたんだよ? あいつは何て言ってるんだ? なんともないのか?」



 あのときB君は、女と一緒に屋上に現れて、A君が女に引きずられてるのを見てましたからねえ。


 B君がそんなことはしていないと言うのなら、これはもう夢だろうということにしようと思ったんですが、仲間の様子がおかしい。



「おいどうしたんだよ? Bはどうしてる? まさか俺と同じように入院してんのか?」



 仲間はまた顔を見合わせて、何も言わない。


 「もしかして、Bはもっと重症なのか?」あの時のB君、女の霊に憑りつかれたようになってましたからね、A君より深刻かもしれない。



 しばらく待ってようやく、仲間の一人が口を開いた。



「なあAよ、誰のこと言ってんだ?」



 そう言うんですよ。



「いやいや、BだよB」


「そんなやつ知らないよ。俺たちこれで全員だろ?」



 B君なんていないって言うんですよ。



 それがたちの悪いジョークならいいんですが、どうもそんな雰囲気じゃないようなんですね。


 A君、にわかに冷たい汗をかいてきた。


 自分はB君のことを確かに覚えている。なぜかずっと一緒にいたはずの仲間たちは覚えていないんですねえ。



「冗談言ってんなよ、Bだよ! あの日肝試しに行こうって言ったのはあいつだろ? あのビルに女の幽霊が出るって話して、じゃんけんして一人ずつ階段上って屋上へ行くって言いだしたのもあいつじゃないか!」


 A君、昏睡から目覚めてまだ何日も経ってませんからねえ、うまく回らない口でもって精一杯問いただした。


「お前なに言ってんだよ。そりゃ全部お前だろ? “肝試し行こう”も幽霊の話も、一人ずつ行くって話もお前が自分から言ったんだぞ?」本気で困惑してるんですよ。


 だけども自分はあのビルに行こうなんて思ったことはない。そもそも肝試しに行きたいなんて思ったことはないしね? ましてやそこの怪談なんて知ってるわけがないんだ。


 わけが分かりませんよね。



 その日は混乱してるんだろうということでそれで面会は終わったんですが、後日訪ねてきた仲間の一人から聞いた話で。


「お前ねえ、こないだはまだ病み上がりに負担だといけないから話せなかったけど、お前を見つけて助け起こしたとき、お前「人形かえして、人形かえして」ってぶつぶつ言って、それから意識を失ったんだ」ってんですよねえ。


 もちろんそんなんことを言った記憶はない。


 あの出来事は一体なんだったんだろう?

 

 あの人形は夢だったんだろうか?


 言われてみれば、あの人形の髪型と衣装は何となく思い出せるんですが、顔がどうにも思い出せない。


 夢って後から思い出そうとしても、もやがかかったようになって思い出せないことがありますよねえ。



 そのビル? おんなじ場所にまだ建ってるんですが、転落事故があったとか、ニュースや怪談の類いは見つからなかった。


 B君の行方も、誰に聞いてもとうとうわからなかったそうですよ。


 結局初めからいなかったかのように、消えてしまった。


 人形も女もB君も、ぜーんぶ夢だったんでしょうかねえ。


 “馳川さん、世の中そんな不思議なことってあるんでしょうか?”


 そんな話を、聞かせてくれましたねえ……。




====================

7-03


 いろいろ言いたいけど 長い そして後半くどい


 サイコー! 文章で見るとこんなにオモロイんだね縺溘l繝翫ヮ


(※ヤタムキコメント)

 このビルはまだありますね。気になる人は行ってみたらどうでしょうか?

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