第4話 調査

 ピコン。端末に届いた通知から通話アプリに飛ぶ。あれから3日、手分けをしてHello worldでのオリジナルワールドメイキングについて勉強をした。今日は情報共有の予定でオンライン定例会だ。

「やっほー。揃ったね」

「今日は遅くならないように早速始めよう」

今日は放課後、全員自宅から参加しているので制限はない分、ほどほどに区切りをつけるのがユニットの暗黙の了解となっている。

「まずは僕から。僕の分野は全体のシステムについてだから」

最初に名乗り出たのは芽来だ。

「頼む」

「うん。Hello worldはワールドメイクをするための専用ソフトで数年前に販売開始されて、すぐに実用化、一部の動画クリエイターや、ゲームメイキングを得意としていたユニットに利用されている」

「ソフト内では他のユーザーが公開設定にしたワールドにインすることができて、人によってはシステムを駆使して作ったバーチャルMMOを流行させているなんてこともある」

「メイキングの方ではかなり自由度が高い分、プログラムとかゲームシステムの設定にはその専門的な知識のある人がいないと厳しい段階らしい」

「ただし、ゲームソフトを開発する会社と同じ工程を踏まなくてはならないということでは全くなくて、イラストや音楽、ストーリーの打ち込みなんかはテンプレート通りに作ればAIの技術で世界にしてくれる」

「もちろん、その後も調整は必要で、嗅覚情報なんかは複雑だったりする」

静かに聞いていた二人だったが結翔が

「じゃあ、やっぱりソフトを使い慣れている人はいくらか必要なんだね」

と期待の滲む声で言った。

「うん。でも一方で、使用する音楽やイラストのクオリティ、ゲームの場合シナリオも作品の良し悪しに直結するから手を抜くことは許されない。それどころか、メインとして重要視する必要がある。」

一馬が整理しようと声をあげた。

「芽来の説明では、最低でもHello worldのユーザー、イラストレーター、シナリオライター、音楽クリエイターが何人かずつ必要そうだな」

芽来は言いにくそうに答える。

「何人か、と言っても得意分野が別々の、たとえばイラストレーターなら建造物、自然、人物とかって分担するのが定石っていうレベルらしい。音楽も、本格的にするなら主題歌とかbgmとか効果音も必要だから分けるとか」

結翔は思わずというように遮った。

「うわー、すごい人数だ」

少し間を空けてから

「しかもさ、普通にコンテンツとして売り出すためにプロデューサーの僕らに加えて宣伝の依頼も必要だよね」

と確認をとる。

「規模が大きくなる予感がするな」

プロジェクト難航の危機とあっても、三人の声にはすでに期待の色の方が強かった。芽来は一馬に話を振った。

「次は一馬かな。今有力なユーザーを調べたんだよね?」

「ああ、事務所の新部門所属候補の調査って所でな」

一馬はタブレットで資料をめくる。

「一番の大手は動画とかで見ると一発でわかるけどTerminal《ターミナル》っていうグループっぽかったな。メンバーは配信者とかじゃないから正体不明なんだけど、システムの使いこなしがずば抜けてて、安定した質の音楽とビジュアルが人気らしい。ゲーム性がないのにこんなに人気なのは異常という声が多数」

「その名前は、僕も調査中に何回か目にしたね!」

結翔が補足して言った。

「うん。それで次は何グループか同率で配信者が多そうだったな。俺が調べた限り名前が浮かんでるところは少ないけど、やっぱりゲーム性を設けて売ってるっぽい。単純に人気のある人が遊びで作ったところとか、紹介したところとか、あとは人気イラストレーターを起用して話題性を呼んだりって感じかな」

「紹介している配信者や芸能人で有名なところは?」

「うーん。正直、結構このソフト自体話題性があるだけでユーザーの母数は多くない印象だったし、まともにシステムをさわれてた芸能人は全然いなかったよ。遊ぶ専門だと逆に多すぎて……」

「ちょっと確認していいか?」

と声をかけた一馬は少し間があったあとで

「あー俺らに関係あるとこだと、前回の企画で作ったソシャゲを紹介してくれたサーカスリボン!さんが上手ってコメント多かったなって思ったんだった」

え、と声を漏らした芽来は

「サーカスリボン!さんなら個人的に連絡してた?」

と問う。

「え、ああ。リーダーの片山希名かたやまのなさんがDMくれたからお礼だけやりとりしたよな」

「あ、もしかして募集の手伝いを片山さんに頼めないかって話?」

結翔が一番ワクワクした様子だ。

「うん。ダメもとで頼んでみるのはあり」

ダメもとで、というのには、今回は誰も突っ込まなかった。

「まあ、ちょっと知名度が違い過ぎるもんね。サーカスリボン!といえばチャータメのフォロワー数争いが熾烈な動画部門で確か……」

「四番目くらい?」

一馬が画面の前で一人頷く。

「そんなだったな。DM来た時は巧妙な詐欺を疑ったもんな」

「僕も結構印象的だったし、覚えてるよ!」

「一旦、候補としてはいい。次は結翔お願い」

芽来を司会として、会議は順調に進んでいく。

「うん!僕の分野は実地調査だったでしょ?ちゃんとHello worldで遊んできたよ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る