最終話 希望の満ちるその先へ

 泉跡を抜け出し、ロックゴーレムと戦うステラのほうへ駆け寄る。


「ステラさん!」

「水があったのか!?」

「それよりいい物がありました! どうにか隙を作ってもらえますか?」

「了解!」


 タンスを肩から下ろし、負い紐を重ねて持つ。武器代わりに振り回したことはあれど、武器そのものとして扱ったことはさすがになかったなと、小さく笑った。


「イマ!」の合図に駆け出し、ロックゴーレムに横から詰め寄る。


「やあああああああッ――あえ?」


 またしても何かに足を取られ、担いでいたタンスを半ば投げ出すような形で転んでしまった。

 ばかばかばかっ、なんでこんなときにまで!


「キリコ!」


 私のほうに気が向いたロックゴーレムの蹴りが襲いかかる。もうダメだと頭を抱えたその時、大きな音だけが響き渡り、けれど肝心の衝撃は来なかった。恐るおそるタンスの影から窺うと、ゴーレムはうずくまっている。


『ああー……痛いよね、角に小指ぶつけると』


 寒そうにつぶやかれた妖精の言葉に、何が起こったかを理解する。そんな経験が妖精にもあるのかは疑問だけれど、〝岩の足に小指が存在するのか〟のほうが正直もっと気になった。


 でもこれ、大チャンスじゃない?


 タンスの負い紐を掴み直し、ロックゴーレムの膝まで跳びのぼっていく。そこは屈んで近くなった腹部の目前だ。ゴルフのクラブをそうするように、瘴気を狙ってタンスを振り上げフルスイングする。


「わわっ」


 ガツンという手応えのあと、反動で落ちた。着地に失敗してぶつけたお尻は痛いが、怪我というほどではない。


 瘴気がほどけるように抜けて、ガラガラとロックゴーレムが崩れていく。

 土埃が舞うのも気にせずステラが駆け寄ってきて、立ち上がるのに手を貸してくれた。


「……それは本当にマジックバッグなのか?」

「実は凶器だったのかもしれませんね……」


 二人そろって、タンスをまじまじと眺める。


『何を言ってるんだ。それ、神聖具だぞ』

「しんせいぐ?」


 オウム返した私の言葉に、ステラがキョトンとする。妖精が見えていないようで、隣りに居ること、言っていることを伝えた。


「妖精が見えて、話せて、しかも神聖具を持っているって……そうか、キリコは聖女だったのか」


 突然出てきた「聖女」のワードに目を剥く。


「え、違うよ! だって、違うって言ってた」

「召喚した王家の誰かがかい? それは見る目がなかったな」


 剣を収めながら声を上げて笑うステラに、違うもんと口をとがらせた。


「それにしても、キリコもユーステル王家の被害者だったとはな」

「も。ってことは、まさかステラさんも?」

「ああ。この呪いは王子からなすり付けられたんだ」


 護衛依頼中、夜の誘いを断ったことを発端に呪いをかけられたらしい。


「ひどい! なんて自分勝手な!」

 憤慨する私に、ステラが「ありがとう」と呟いた。


『ふうーん、事情は分かったよ。それじゃあ、また泉にその神聖具を叩きつけてくれる?』


 指示された場所にタンスの角を数回ぶつける。と、勢いよく水が吹き出したので慌てて泉跡から上がった。


『よし。これなら日没までには元通りだ』

「――だそうです」

「了解。それじゃあ野営準備をしようか」


 慣れたもので、テキパキと簡易天幕が組まれていく。私は私で、ごはんの用意を進める。泉の精が興味深げに鍋を覗き込んできたので、気になっていたことを聞いてみる。


「そういえば、どうして泉は枯れていたの?」

『ん? ああ。それが分からないんだよね。突然水が空に吸われて、ロックゴーレムが現れたと思ったらさっきの源泉を叩き始めてさ。だから守ろうとして結界を張ったんだけど、そのまま封じ込められちゃったんだ』


 何もできることがなく、あとは私に叩き起こされるまで寝ていたのだという。


「事件の匂いがするな」


 すっかり暗くなった夕食時、具だくさんスープを片手にバゲットを食んでいたステラに伝えると眉をひそめた。


「ですよね。まるで泉泥棒というか」

「盗んだとして、いったいこの量を何に使うのやら」


 考えたところで何か分かるわけもなく、静かにごはんが済む。片付けもそこそこに、泉の精に誘われるまま泉の前に2人立った。言われたとおり水で満ちている。


『瘴気に枯らされちゃーいたが、これでも〈呪い禊ぎの泉〉の1つだからな。ちょうど満月なことだし、効能も大丈夫だ。さあ、水浴びを許そう』

「水浴びをすれば呪いが解けるみたいです」

「そうか。ではさっそく……キリコも一緒にどうだ?」

「いいんですか? それじゃあ」


 下着姿になって2人で泉に浸かる。


 ひんやりしていて気持ちいい。そしてちょっぴり目の保養だ。自分の胸と見比べて、そのサイズ感の差に多少へこみはするものの、理想的な大きさ・形は見ていてニコニコしてしまう。


『おっかしいなぁ、解けないぞ』

「え、呪いがですか?」

『それだけ強い呪いだったってことかもな。まぁでも薄くはなったみてぇだし、他の泉も回ってみろよ』


 他の泉? そういえばさっき、『〈呪い禊ぎの泉〉の1つ』って言い方をしていたなと思い至る。

 詳しく聞くと、泉は他に5つあって、その内2つも巡ればきっと解けるだろうとのことだった。


「解けなかったのは残念だが、手がかりがあるだけ希望を持てるよ」


 短い赤髪に水を滴らせてステラが明るく言った。強がりにも見えるけれど、前を向けたなら良かった。


「その旅、よかったら私も付いて行っていいですか?」

「いいのか!?」

「はい! 呪いが薄れたと言ってもポーターは必要でしょうし、泉のほうでもまたお役に立てるかもしれませんから」


 それに応援したいですし、と続ける。あわよくば専属にと思って受けた依頼だったけれど、今の素直な気持ちだった。


「それじゃあ、お言葉に甘えて。これからもよろしくな、キリコ」

「こちらこそ!」


 差し出された手を堅くにぎる。


 聖女じゃないと捨てられたのに、本当は聖女だった。それなら、あくまでポーターとして生きてやろう。王家の都合なんて知るものか。


 ――私の異世界癒やし旅は、ここから始まるのだった。



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捨てられ聖女のタンス無双 ~荷運びなんて地味? とんでもスキルで呪いだって癒やしてみせます~ あずま八重 @toumori80

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