第3話 災難、瘴気、岩人形
それから2度の着替えを済ませたところで、ひらけた場所に出た。薄暗い森の中をずっと進んできたのもあって、傾き始めた陽の明るさに目がくらむ。
「情報屋の話だとここが泉らしいんだが……」
目が慣れ、辺りを確認する。泉の広場には岩がゴロゴロしていた。変わったことといえば、肝心の泉が枯れていることだろうか。
「そんな……」
どちらともなく落胆の声が漏れる。ステラに目をやると、自信とやる気に満ちたさっきまでとは打って変わり狼狽していた。
「……一縷の望みとは思っていたが、どうやら思っていたより期待していたらしい」
ガクリと両膝をつき、項垂れてしまう。またしても以前の自分と重なって、余計に胸が痛んだ。
「調べましょう! 原因もそうですけど、まだ何処かに一杯くらい残ってるかもしれないじゃないですか」
「そう……そうだな。諦めるのは早計か」
「探すなら泉の中心でしょうか?」
「あるいは岩の陰とかな。私は岩場のほうを探してみるから、そっちは頼む」
「はい!」
さて。中心とは言っても、どの辺を探したものか。真ん中あたりは少し浅いから、一番深いところを探してみよう。
泉跡に入り、岩場を背にして調べて歩く。乾いた、水草だったものを踏み締めながら慎重に降りていく。
深いところも、どこも乾いて地面が割れていた。自分で言い出したことだが、とても水があるようには思えない。
なんと声を掛けようか思案しつつ、岩場のほうを振り向いてギョッとした。
「ちょっ、ステラさん平気なんですか? そこ、紫色のモヤがかかってるんですけど」
「紫? もしかして瘴気が見えるのか?」
漂う色濃いモヤ。これが本当に瘴気なら、聖女ではなかった私に見えるのは何故だろう。とりあえず、触れても吸っても大丈夫のようだ。
「人にはあまり影響がないと聞く。ちょっと体調が悪いとか、いつもよりイライラしやすいだとか、せいぜいその程度だとか」
「見えてしまう身としては、気分の沈みもありますね……」
「ははっ、それは仕方がないな」
他人事だと思ってステラが軽く笑ってくれる。影響がないなら、見えないほうがよかったのに。
「それにしても、この辺りに魔物が居なくてよかった。瘴気があるなら、より凶暴になるからな」
言い終わるか終わらないか。急に地面が揺れ、岩がゴトゴト音を立てて重なっていく。その内の1つに乗っていたステラが飛び退いて叫んだ。
「ロックゴーレムか!」
瘴気をまとった岩の塊がヒト型になって動き始める。ステラはすかさず剣を抜くが、ゴーレムが振るう腕をいなしきれずに飛ばされてしまう。
「ステラさん!」
「くッ、大丈夫だ!」
空いた距離を一気に詰め直し、ゴーレムの体を跳び回る。
「〈
ステラの動揺が、距離のある私にも伝わってくる。コアは無機物系モンスターにとっての心臓だ。その動力源も無しにどうやって動き回っているのだろうか。
攻撃を躱したり受け流しながらステラが問う。
「キリコ! どこかに瘴気が集中している場所はないか?」
「瘴気が……あっ、おなかの辺りに集まって見えます!」
「そうか。キリコは水探しを続けてくれ!」
「え、どうして?」
「呪いを解けるというのなら、同じように瘴気も晴らせるんじゃないか?」
なるほど、あり得る話だ。たとえ少量でも、瘴気の濃い部分に掛ければ効果があるかもしれない。
けれど、泉に向き直ったところで、一体どこに残っているのだろう。
「せめて湧いていたところが分かればいいのに――わわっ」
迷い足で水草が絡まったらしく、足を取られて後ろに倒れ込んだ。タンスの角がゴツッと何かに当たった衝撃が走る。
『あだあ!』
「きゃあ! ごめんなさいごめんなさいッ!」
どこからか上がった叫び声に、慌てて立ち上がり反射的に詫びる。
『痛い。痛いけど、まぁ解放してくれたから許すよ。すっげぇ痛いけど』
3度も文句を漏らしたのは、宙に浮く手のひらサイズの子ども――妖精だった。相当痛かったのか、頭を両手で抱え込んでいる。
もう一度謝ろうと口を開きかけ、ズシン、ズシンと響く振動に慌てた。
「あなた、泉の精か何か? 水が残ってる場所知らない!?」
『水? 水なら今、ちょっとならあるぜ』
「どこに!?」
一歩踏み込んだ途端、ちゃぽ、と足が濡れた感覚が。足下を見ると、少しだけ水が湧いていることに気付いた。
「やった! これでロックゴーレムをなんとかできる!」
『湧きたてのただの水にそんな力無いでしょ。それより、ボクの封印を解いたみたいに、アイツもそれで叩けばいいじゃない』
「え?」
『え?』
妖精と顔を見合わせる。
「これはタンス型のマジックバッグであって武器じゃないんだけど……」
『武器かどうかより、有効かどうかでしょ。見た感じアレは瘴気で動いてるみたいだし、聖属性の塊をぶつけるのは効くと思うけどなぁ』
聖属性の、という言葉に少し引っかかる。結界魔法も聖属性に違いないけれど、それを『塊』だなんて――
「あ、あああああ!」
『聖属性の物質には違いないが、やはりただのタンス』
そうだ。城で言われたじゃないか!
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