第23話 不穏
落ち続けていた身体が突然ふわりと浮く。
ヘリットは自分が何かに乗っていることに気がついた。視線を下げると闇の中にぼんやりと光る翼が見える。手に滑らかな羽毛の感触。彼は鳳凰の背に乗っているのであった。
「マイヤ……」
「しがみついてください、上昇します」
周囲は闇で奥行きはわからないが、ヘリットの顔に吹き付ける風が、急速度で上昇していることを教えてくれた。
しばらくすると、彼らは七色の橋に着いた。
橋の上にヘリットを下ろすと、鳳凰の姿から戻ったマイヤも空中で一回転して橋の上に降りてきた。ヘリットを探しに行ったのか、獏男の姿が見えない。
「ありがとう、マイヤ。えっ、とあの子、デリットはどうしたの?」
「デリット? 誰ですか、それは」
マイヤはヘリットの肩を両手で掴むとじっとヘリットの目をのぞき込む。不思議な色の二つの目に見つめられると急にヘリットは身体を動かせなくなった。鳳凰家の能力の一つに、短時間なら接触した相手を思い通りにできるという能力がある。
危険な能力であり、聖獣家間の取り決めでは、普通は使ってはならぬ禁じ手とされているようだが、多分彼は今その能力を使っている。
二人の間に不穏な空気が流れる。
「君は見なかった、何も」
「え?」
「忘れてください」
ヘリットは眉をひそめる。デリットの事も、彼が宙から落されそうになったことも――こんな強烈な記憶を忘れる訳がない。ヘリットの強ばった顔を見つめていたマイヤの顔に落胆の色が浮かぶ。
「やはり、心の術を使う獏家には通じないのか……」
肩に乗せられた両手が、そっと動きヘリットの喉元を締める。
その手は戸惑うように小刻みに震えていた。
マイヤの目が、灰色に変わる。
喉のくぼみに当てられた細い親指にゆっくりと力が入り――。
その時。
「ヘリットーーっ」
大声で橋の向こうから駆けてきたのは獏男だった。
強ばっていたマイヤの顔からふっ、と緊張が解け、ヘリットの首がふと軽くなった。気がつくとマイヤの両手が下に下ろされており、瞳の色がいつもの二色にもどっている。
「ヘリット、誰も居ない部屋でなんだか一人でぶつぶつ言っていたと思ったら急に飛び出して宙に浮かんだっきり姿を消して、いったいどうしたのかと思いましたよーー」
涙目の獏男はヘリットに飛びつく。獏男にはデリットが見えていなかったようだ。
「心配しましたよお、あなたが死んだら僕も終わりですから――」
泣き崩れる獏男を尻目に、マイヤが何か言いたげな表情のヘリットの肩を叩く。
「時間がないんだろう。さあ、ライカを助けにいこう」
何事も無かったかのようにマイヤが橋を歩き出した。
「このまま僕がライカの夢に先導します」
小走りでマイヤを抜かすと涙目の獏男が先頭に立つ。獏男が歩くと先にどんどん橋ができていった。虹色の橋は途中から青色に染まっていく。
マイヤは平然と獏男の後に続いている。
「さっきのは何だったんだ」
まだ手の感触が残る首筋をさすりながらヘリットも後を追った。
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