第9話 ヒトはどうする


ここは山梨県横浜市、女学生Bはスーパーマーケットの行列になっていた。この辺りは占領されたばかりで、引切り無しに山梨県の戦闘マシンや警備車両が走っていた。






女学生Bの父親は地域復興の労働で、母親は帰宅命令が出たときに他県にいて帰宅手続き中、しかたなく家は一日中留守にしていた。女学生Bが並んでいた行列はもう限界以上に長くなり敷地外に続いていた上に狭い道路へ続いてしまったので、そこを出入りする車両はギリギリで通過していた。そのため行列の順番がそこでは入れ替わることもしばしばあり、トラブルになると山梨県の警備マシンが来て仲介していた。


女学生Bはいつの間にか前に並んでいたオジサンCが気になったので、思わず声を出してしまった。


女学生B「ちょっと、オジサン、みんなを抜かさないでください!」


オバサンA「お嬢さん、こんなときは細かいことはいいから…。」


オジサンC「変な言いがかりはよしてくれよ!オレはずっと並んでたんだから…。」


オバサンA「ハイ、ハイ、ハイ、わかりましたから…。」


女学生B「そんなことないでしょ…アタシだって、ずっと並んでたんだから…。このオジサンはいなかったわよ!」


あれこれ言い合っている中で、山梨県の警備マシンが近づいてきた。


オジサンC「コイツらをなんとかしてくれよ!」


女学生B「いいえ!アタシたちの前にこのオジサンが途中で入ってきたのよ!」


山梨県の警備マシンはカメラを各個人に向けて短時間で容姿をチェックしたあと、無表情のイラストの顔が描いてあった画面に、数分前のここの行列の様子を写した画像が出てきた。そこには、このオジサンCの姿はなかった。


オジサンC「変な言いがかりはよしてくれよ!ホントに長い時間並んでて、ようやくココまで来たンだからよ!」


まだ他の人に訴え続けていたオジサンCは、警備マシンの顔の画面を見て凍った。行列の前が少し進み、その後のオバサンAらがよそ見して気づかないで、間がしばらく空いていた所に、なんとオジサンCが横入りした決定的瞬間が写っていた。山梨県の警備マシンはその十数秒を繰り返し何度も再生していた。


女学生B「あのカメラだ!」


隣の駐車場の防犯カメラを指さした。山梨県の警備マシンのカメラがジーッとオジサンCを見つめながら近づいて来た。


オジサンC「わかったよ!後ろに並べばイインだろ!アンタも列にムダな隙間を開けるなよ!」


かなりご機嫌を壊して列から抜けて 後尾の方向に早足で歩いていった。オジサンCの後には、山梨県の警備マシンが何台か合流してついていった。ついにオジサンCは走り逃げ去っていったが、警備マシンは追わなかった。


オバサンA「なんか、得しちゃったね。」


女学生B「言わなきゃ、アタシたちより後ろの人が迷惑することもありますので、しっかりしてください。」


オバサンA「そう言われても…アタシなんかに同情する人なんかいないのよ…。」


女学生B「売物や配給品がなくなることもあるんですよ!ソレが飲料や非常食だったらどうしますか?」


オバサンA「次が来るまで並んでりゃいいのよ。」


女学生B「それじゃあ、足りなくなった人が困ります!」


ここにまた山梨県の警備マシンが来た。


女学生B「…あー!…もー!しーずーかーにーしーてーまーすーかーらッ!」


警備マシンは列の斜め前から女学生Bの容姿をチェックしていた。女学生Bは目を列の横にそらし、警備マシンにソッポを向いた。警備マシンは列の横につき、女学生Bの視線の前にわざわざ移動した。


女学生B「アタシの何が悪いの!」


女学生Bは列の前が進んでいるのにソッポを向いていて気づかない。女学生Bは列の斜め後ろを向いてさらにソッポを向いた。オバサンAはどんどん前に進んでいく中で女学生Bが気にかかるが、控えめな彼女には声を掛ける勇気がなかった。警備マシンは女学生Bの斜め後ろに移動して、さらに女学生Bの視線に入った。女学生Bは列の後ろを見て、さらに警備マシンにソッポを向いた。警備マシンは列の後ろの上に無表情の画面の顔をのぞかせた。


女学生C「あの…前が…。」


女学生Bの一つ後の女学生Cが列の前を指さすと、女学生Bは自分が列に大きな間を空けていたことに気付き、赤面して列の前へ走っていった。




やがて、順番が来ると配給品が小さな手提げ袋一袋だけもらった。


女学生B「いつもの買物はこんなものじゃないのにな…。」


受け取りながら、配給トラックに話すと


配給トラック「これで配給品、アナタとアナタの家族、三人分三日分です!」


女学生B「え?!これだけで三人分三日分なの?!」


配給トラック「非常食は量が少なくても、腹の中で膨れて半日は空腹感を感じません!」


女学生B「それでもすぐなくなるンじゃ…。」


配給品トラック「一食と水をとって三十分待ってください!」


女学生B「ソレって、ちょっと人権的に…過酷すぎ…では…。」


配給品トラック「だから、三日分です!物流ルートが確立すれば、早急に人権に適合した食事を用意します!今は物流がなくなった非常事態なので、非常食でお願いします!」


女学生Bはムッとした顔で帰っていった。




死ななければいいものではありません…。

傷つかなければいいものでもありません…。

我々は贅沢に慣れており、ソレがなくなった時に苦しむものです…。


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