第8話 ありがたいヒトたち


AIは追い詰められ、ヒトを惑わして最後の抵抗をします


奥多摩町から徒歩で都心の自宅へ向かったヒトたちは『ヒトの盾』にされながらも辛うじて乱戦には巻き込まれないできた。しかし、それは悲しい別れの前奏であり、未来への一歩であった。




一方、山梨県軍と東京都軍の最前線の八王子市では、


青年A「青汁ニガッ!」


青年B「イヤイヤ、けっこうコレがいけるンだ!飲みすぎちゃうくらいだヨ!」


オジサンB「お気になさらずに、次はコーヒーでもイイですよ。」


青年A「いえ、トイレへ行く、ロスタイムが多かったので、このままガンバります。」


青年B「そうだね、私はもうすぐ府中なので、そこで失礼します。」


オジサンB「どうも、助かりました。」


青年B「いえいえ、私は何も…。」


オジサンB「こういうときは、たくさん人がいるだけでも気が楽になります。」


青年A「うん、オレも楽にいけたな。一人だったらココまでこれたかな…。」


オジサンB「そうですよ、小さなことも集まれば、大きなことになりますよ!」


青年B「そうですね、お互いに助かりました。」


しばらく、一行は東へ向かって歩いていく、一行の西の八王子市は、帰宅難民が少なくなったのか、戦闘音が聞こえるようになっていった。


青年B「やはりはじまりましたか、今まで我々がウロウロしていたことで攻撃を止めていたのですね。」


青年A「我々は戦闘しなくていいけど、代わりにイロイロ失った気もするね…。」


オジサンB「安全ならば、できる事も限られます。ときには思い切った行動も必要なのでしょう。」


青年B「安全を人類は手に入れたけど、思い切った主張をしなくなったねということか…。」


オジサンB「昔は戦争や暴力で余分な主張をするのが人類の歴史でした。今はAIが全て平等に調整してしまいます。本人に適した仕事を探して、そのための適正な教育の選択まで、我々ができるのは少ない選択肢からの選択です。」


青年A「ゲームでドンパチやるのは面白いけど、わざわざ命を賭けてやりたくないね…。」


青年B「ソレを普通に楽しんで、自分の権力を強くしていたのが人類の歴史…。」


オジサンB「昔はそんな危険人物を偉人だの神だの言っていたようです。」


青年A「そこまで知ると偉人というのは、やっていることは勉強になるけど、人としてはとんでもない感覚を持ってたんだって、思ってしまう…。」


青年B「同感だね…。」


オジサンB「昔は偉人が天下取りを競っていましたが、今はAIが競うようになっただけです。それもただ、AIの正当性や性能で決まるのではなく、そのAIが管轄している地域の価値や規模に大きく影響された戦力やルールへの適応性で決まっているのが現状です。」


青年A「全然、何かを極めた 先端じゃないじゃん。」


青年B「人類の歴史上、これが普通だよ…。ただ、昔よりマシになっていることだけは言える。」


一行が歩いていく先に大きな十字路の交差点があった。


青年B「自分はこのまままっすぐ行きますが、左折すると、文京区や新宿区へ行きます。」


青年A「おぉ、ありがとう!いろいろ!こんなに友達が役に立つと思ったのは初めてだ!」


オジサンB「本当にありがとうございました。このまま、東京都軍が盛り返すか、いっそのこと山梨県軍が一気に来て、同じ県になることを祈ります。」


青年B「同じ県にならなくても、数年経てば交流できます。そのときはよろしくお願いします。」


青年A「うん!とにかくウチらは決まり上で、家に帰らなきゃいかんので…戻りたくない意思も一部ありますが、ひとまずココでさようならですナ!」


オジサンB「では、失礼します。」


青年Aが周囲を見渡すと、一行の人数が少し減っている気がした。


青年A「みんな、自宅へ帰って行きますね。」


オジサンB「このルールは誰でも知っているルールなので、よほどの理由がないと破れません。」


青年A「ハイ…ン?……あれ、あれれ…。」


オジサンB「どういたしましたか?」


青年A「方位磁石の向きがおかしいです。」


オジサンB「方位磁石なら、磁場が変われば向きが変わりますね。多分こっちが東です。」


青年A「ありがとうございます。ずっと頼りっぱなしです。」


オジサンB「何をいいますか。ずっとみんなを引っ張ってきたじゃないですか。ずっとマップと方位磁石を見ているから見えないこともあるのですよ…。AIはそこを計算してますね。」


青年A「おっしゃるとおりです。」


オジサンB「フム…それだけわかっていただいていれば…いいでしょう。次の仕事の時、あなたも上司と一緒に来るように言っておきます。」


青年A「え?!いいンですか?」


オジサンB「いいのですよ。そもそも、あなたの会社とのパイプラインが、あなたの上司一本では、あなたの上司に何かあった時にどうなるかと…そもそも、あなたの上司は自分の年を考えてほしいものと思ってました。上司の言う通り、あなたは未熟だと思いますが、そこは今から訓練するべきでしょうね。」


青年A「ありがとうございます!」


オジサンBに向かって行儀よくお辞儀した。


オジサンB「あと、あなたがやったことは会社内でしっかりしておいたほうがいいですよ。」


青年A「そうですね…イロイロありがとうございます。」


いろいろ話している間に、新宿区の交差点に来た。上の大きな交通標識にはまっすぐ行くと「東京」と描いてあった。


青年A「上の交通標識は電光ではないし、近所の自分が見慣れたものなので、まず、間違えないと思います。この通り、まっすぐ行けば、『東京』です。」


オジサンB「いろいろ助かりました。次はどこで会うのでしょうか、楽しみにしております。」


青年A「何かの参考になるとは思いますので、一応わたしておきます。」


と手に持っていた方位磁石を差し出した。


オジサンB「そうそう、忘れてはいけませんね。次、会う機会に必ず持ってきますので…。このことは仕事のことなので、都道府県の違いとかで多少の制限はあっても、次の交渉の機会はなくなることはないでしょう。」




生きて帰れました。ただ、それだけでヒトはすべてを達成したわけではありません。当たり前ですが、生きているヒトは全員最高の贅沢ができるわけではないです。

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