第6話 生けるヒトは盾


人権は強し、しかし、それは利用されることもあります


出先にとどまるわけには行きません…

帰らなければいけないのですが…




最終局面となった東京都では、奥多摩町に来ていた青年AとBはホテルの一室でスマホを見ながら、自分らの帰路が過酷になっていたことに呆然としていた。


青年A「どうする?最前線を通って帰らなきゃいかんぞ!」


スッと広げられていた印刷された大きな地図を指し示した。


青年A「通り抜けても、後ろ、つまり西から山梨県軍が、左、つまり北から埼玉県軍が、正面、つまり東には東京都軍が…。」


理想のルートを大きな地図で指し示した。


青年A「この幹線道路を使ったルートは恐らく封鎖されたり戦闘場になりやすい。流れ弾とかの危険は避けたいけど、それに対して、スマホは低機能の支給品の上手く戦闘区域を外したルートを検索してくれるか疑問だね…。」


青年B「そうだね…。低機能のスマホだと、どこかのAI局の戦略に左右されやすいね…。こういうときは、どこでもよくあることだけど、『人の盾』にされるかもね…。東京都のAI局は追い詰められてるから、我々みたいな『帰宅難民』を重要なトコを通して、なるべく長く防衛したいンだろうね…。」


青年A「AIだって、いつまでも時間稼ぎにつきあうのは合理的じゃないと判断することもあるから、海外では『人の盾』に構わず攻撃した例もあるらしいよ…。」


青年B「ヤバいんじゃネ…。」


青年A「…うん…ヤバい…ネ…。」


青年Bは紙のメモ帳とペンを手に取り、


青年B「ひとまず…水分…携帯食の確保…。」


青年A「スマホのモバイルバッテリーを何本か…推奨ルートは役に立たなくても…情報としては必要だから…。」


青年B「そうだね、各個人で判断すれば、大した問題はないね…。」


青年A「爺ちゃんトコでイロイロもらってこよう…。」


青年B「そうだね、期限の近い非常食とか、古いモバイルバッテリーとか…絶対ある!」


青年A「雨具系のなんかも…。」


青年B「ソレもあったら助かる…。」


青年A「余分な着替えとかは…捨てたほうがいいね…。」


青年B「この際は、止む得ない…。」


青年A「リック一つにまとめよう!そうだ!残ったものは爺ちゃんトコに置いてく!」


青年B「オレのものは頼めるかな?」


青年A「交渉する!」


祖父母のマンションに再び訪れ、余分な物を置いてもらえた青年二人は、東京都心に向かって歩きはじめた。


周りには同じ考えの者が多くいて、密集してないものの、疎らに長い行列ができていた。


青年B「奥多摩町って、こんなにたくさんの人が来るとこなのか?」


青年A「みんな、オレらと同じこと考えたンじゃないの?」


青年B「そうなのか…。」


ふと、スマホを起動して画面を見ると、


「左側三本目を左折…か…。」


青年A「アソコか…みんな曲がってるね…。それにしても、爺ちゃんは何で方位磁石を…こんな古いものが何に使えるのか…。」


青年B「今は方位磁石なんか、珍しいから売れってことかな?」


青年A「良い値で買ってくれる人なんかそんなにいないよ…。」


青年B「使い道がないよね…。」


青年A「ココを左折か…。ん?なんかこの角の古い店?さっきも見たような…。」


スマホを見た。なぜか一人、まっすぐ行くものがいた。


青年A「すいませーん!ソッチはAI局の駐車場があるのでは?多分、AI局軍の車両とか戦闘マシンがたくさんあったりして危険ですよ!」


青年E「私の家はコッチですし、この辺の者ですが、確か左折するとAI局の駐車場があったと思います。」


青年B「え?!スマホではまっすぐ行くと…。」


青年A「…………まっすぐ行った方が良いかも…。」


青年B「そ…そうだね…。」


二人は少しだがものすごく嫌な冷や汗をかいた。この話を聞いていた近くの者の半分位はまっすぐ行くことを選んだ。しばらく歩いて後ろを見ると人の流れはまた左折の方向になっていた。



もう何時間も歩いた。もう日が暮れている。


青年A「そろそろ休もうか?」


青年B「休む気がしないけど…休もうか…。」


二人はガードレールに腰掛けた。リックから携帯食を出し、手に持っていたお茶と一緒に摂取した。


青年A「あの時のスマホ画面、ゼッタイ可怪しかった!」


青年B「うん…AI局の駐車場は無かったね…。戦闘はなかったみたいけど…左折しなくてよかったと思う…。」


青年A「どうする、コレから…。」


青年B「とても眠れる気分じゃない…。夜の間も休み休み歩こう…。」


青年A「同感、ただ、休みは夜の間は多めにしよう…。」


青年B「そうだね…。ただ、日が暮れてから、すごく気になることがあるンだ…。」


青年A「ん?何か気づいたの?」


青年B「スマホのマップの方位磁針が左右に回転してるンだ…。」


青年A「え?!気付かなかった…。じゃあ、オレらは?!」


青年B「ココは最前線だから、すでに東京都の『人の盾』にされている…。」


スマホのマップの画面をゆっくりと縮小してみると…


青年B「奥多摩町から来て、八王子市に入ってからだいぶ経つけど…なかなか八王子市から出れない…近くで武力衝突があるのはわかるけど…方向が頻繁に変わってる…。我々は意図的にカーブしている道に誘導されて、回転してるマップに完全に方向感覚を狂わされて、長い時間、八王子市内を徘徊させられてるンだ…。」


青年A「確かに…歩きスマホが禁止されてるから、スマホを見たら、そのあとスリープしてポケットに入れて歩かなきゃいけないからね…。しばらくしてから起動したころには惑わされるかたちになってるンだ…。」


青年B「いいものがアルヨ…。」


青年A「ん?!………うん?そうだ…爺ちゃんがイイモノくれた…。」


青年B「そう!」


青年二人「方位磁石!!!」


二人は夜空に小さな宝物を掲げた。


青年A「どれどれ、東はコッチだな!」


青年B「ウムウム、旧文明の利器だ!」


オジサンB「ワシらも、この人たちについて行ったほうが良さそうだ!」


家族連れのお父さんが言うと周囲の者が集まった。青年らはだんだん調子が上がり活気づいてきた。


青年A「えー!東京方面!新宿行きです!」


オジサンB「ワシらは文京区なのだが…そのコンパス貸してくれないかな…必ず返しますので…。」


青年A「ウーン…。」


青年B「有事のときだからイインじゃないですか!」


青年A「そうだね!私は新宿まで行けば、用済みなので、爺ちゃんにもらった大切なものですが、返すときは全てが落ち着いたときに…ということでいいです!」


オジサンB「本当にありがたいです!」


青年A「私はこういうモノで…。」


畏まって名刺を渡すと、


オジサンB「私はこういうモノで…。」


と同じように名刺を渡された。


青年A「アッ!?上司のお得意様だ!」


オジサンB「ハァ、そうなのですか?」


青年A「自分は半人前なので、会っちゃいけないと言われてたんですよ…。」


オジサンB「そうなのですか!じゃあ、ここで私を助けたンだから、上司からの票が上がりますね!」


青年A「イヤァ…イイような…良くないような…お近づきの印にお茶を差し上げます…。」


リックの中をゴソゴソした。


オジサンB「いえいえ、そんなことをしなくても、ウーン、じゃあ、私のコーヒーと…。」


青年A「あれ!?さっき飲んだのが、最後のお茶だったのか…。あとは青汁しかない…。」


オジサンB「じゃあ、青汁とコーヒーを交換しましょう!」


青年A「イヤイヤ、それじゃあ悪いです!」


オジサンB「イエイエ、こちらは青汁みたいなものが欲しかったのです。お茶やコーヒーだと飲みすぎてしまうし、目が覚めて休めないので、かえって助かります。」


青年A「じゃあ、そういうことなら、青汁をどうぞ!」


青年B「オマエの爺様はこういう時をよく知ってるな!」


青年A「そうだね、昔からいつも煙草を吹かしてニュースばっかり見てたな…。」


青年B「煙草はおいておいて、君は次の飲物を開けるときは、青汁を開けるべきだと思うけどね!」


青年A「だね…。」


少し迷ったが、コーヒーはリックに収納して、もう一本の青汁を手に持ってリックを背負った。


青年B「もうすぐ、八王子市は抜けるみたいだ!オレは府中市民だから、なんとなく道がわかるとこに来た。あの電光交通標識はウソだとなんとなくわかる。あんな感じにある標識にも惑わされていたンだ。」


青年A「電光でない交通標識ならイイわけか!」


オジサンB「マギワらしいことをAIがするときには人に害のある行動が大きく制限されているから、やるときには大きな手間がかかるらしいけど、ココまでやるということは東京都のAIは相当追いつめられているンだろうなぁ…。」




自宅に帰ったら、それで全てが終わるわけではありません。


生きている限り、難はつきものです…。


難があるから、生きているのです!

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