第3話 優しさと誠実さ
AI同士の戦闘…そこで、ヒトは…
手持ちのスマホに不満があった女学生たちは、それぞれ小遣いを持って街へ出かけ、スマホを見に行った。街は混乱しており、戦闘区域になっていなかったので街並みは健在であったが、入荷できず店頭から消えたものや希少価値があると見たのか値段がつり上がったものばかりだった。
一方、神奈川県の港が見えるショッピング街では、
女学生A「やっぱり、スマホは異常に高かったね。」
女学生B「ホント、学生のアタシたちには手が届かないよー!」
女学生A「価格がいつもの十倍以上なんてありえない!」
女学生B「戦況によって価格が変わるって言うけど、そんなに東京都AI軍との戦況が良くないのかしら?」
女学生A「神奈川県が干上がる前に、コッチが干上がっちゃうわ!」
女学生B「ネー!その前に十倍以上のスマホなんて、借金しようとしても、そんな理由で借りられないわね!」
女学生A「ネー!査定で引っかかるらしいわ!」
突然、物騒な四角い大型トラックが轟音で走ってきて、二人の近くに停まった。
大型トラック「コチラは神奈川県AI局!コチラは神奈川県AI局!戦局が厳しいので臨時調達に協力してください!」
オジサンA「どうすればいいんだい。」
一番近かったオジサンAが聞くと
大型トラック「スマホ、タブレット、ノートパソコンを全部出してください!スマホ、タブレット、ノートパソコンを全部出してください!」
トラックの側面のハッチが開き、ガラガラ音をたてて10台分くらいのスタンド型充電器みたいものが付いたトレーが出てきた。
オジサンA「ふざけんなぁーッ!この前取り上げたばっかりじゃないかッ!コレがなければバスにも電車にも乗れないから帰れないじゃないか〜ッ!」
大型トラック「今、エクスクラメーションマークを3つ使いましたね!非常時につき、3万T(テラ)円の罰金が発生しました。」
オジサンA「高すぎる!おかしいぞ!おかしいぞ!おかしいぞ!!」
大型トラック「只今、エクスクラメーションマークを5つ使いました。再犯を考慮して、50万T円の罰金が発生しました。合わせて53万T円となります!」
周りの人々は青ざめた。
大型トラック「それから、アナタが今、持っているスマホ、タブレット、ノートパソコンを全て提出しなかった場合、公務執行妨害で逮捕します!なお、非常時につき電車、バスは帰宅用途限定で無料となります!」
オジサンA「!!!!!!!!?????」
オジサンAはよろめき泣き崩れながらスマホ、タブレット、ノートパソコンを台にセットして、そのままガクリと倒れて動かなくなった。この勢いに圧倒され、近くの人は次々とセットしていき全ての台が埋まった。
大型トラックはトレーを収納すると、セットされた全ての機器の画面はセットされた順に『ダウンロード中…』となっていった。
間を開けることなく、もう一台、物騒な四角い大型トラックが後に停まると後のトラック「もっと、協力を!もっと、協力を!」
と二人の女学生のすぐ横で大きなスピーカーで響かせた。
女学生B「アタシはイヤッ!」
大型トラック「只今、エクスクラメーション…!」
女学生A「ちょっと待ってよっ!アタシたちが全部出せばいいんでしょ!ネッ!もう仕方ないから協力しよ…。」
女学生B「アナタのウチはお金持ちだからいいだろうケド…。」
女学生A「ソレもこれからどうなるかわからないよ…。もう仕方ないから…そんなことよりも、今の状況を考えて…。」
倒れたオジサンが僅かにピクリと動いた。向こうを向いた頭の目の辺りから大量の涙のシミが地面に拡がっていくのが見えた。
二人の女学生は涙目でスマホをセットした。周りの人も次々とセットしていった。
大型トラック「もっと、協力を!もっと、協力を!」
近くの大きなスピーカーでさらに響かせた。
女学生A「アタシはコレしか持ってないわ!アナタも持ってないよ!ネッ!ネッ!」
女学生Bは泣きながらコクリと肯く、二人はお互いを支えながら大型トラックの横でガクリと膝をついて崩れた。
やがて、二人のスマホの画面は『ダウンロード中…』となっていった。
一瞬、『完了』となった後、2つ揃って『I am a Champion !』と映された。上から出てきたロボットアームによって奥にある地味な色の四角い箱型の機械に一つ一つ取り上げた機器を取り付けていく中、近くで非常放送のサイレンが鳴り響いた。
港を見ると轟音をたてて大きな四角い大きな船が港の桟橋に横付けすると、横のハッチが倒れるとともに、この中からモーター音をたてて二本足の厳つい戦闘マシンが次々と辷り出てきた。
非常放送「ココは戦闘区域となりました!至急、区域外に避難してください!繰り返します!ココは戦闘区域となりました!至急、区域外に避難してください!」
そういう騒々しい中、港のコンクリートの狭い道を厳つい機体がローラースケートのように華麗に辷ってきた。陸から応戦もはじまっていたが、一部には被弾して海へ落ちたりするが華麗に躱すものばかりだった。
青年C「応戦する戦力が足りないンだ!あの旗は千葉県のAI軍だ!」
やがて、大型トラックのハッチが倒れると、ゴドン!ゴドン!ゴドン!金属音がしたと気付くとさっきの大型トラックからたくさん神奈川県の厳つい戦闘マシンが出てきた。
すぐに戦闘に参加するために素早く隊列を整えると、倒れたオジサンや女学生たちを華麗に避けてモーター音を立てて辷り去っていった。
女学生B「アタシの最後のスマホが…。」
トラックから出た戦闘マシンは、港のコンクリートの道の陸との接合部を集中砲火で破壊すると、千葉の戦闘マシンの先頭のモノは、その場に足場を取られて転倒してコンクリートに激突して大破した。
後続のモノはジャンプして越えようとしたが、距離が合わず大破したモノに不安定に着地しその場にすぐ屈んだ。
更にあとから来た戦闘マシンは学習し、華麗に大きくジャンプして、大破したモノも屈んだモノも飛び越えていった。
女学生A「アブナイよ!避難しヨ!ネッ!ネッ!」
二人が背を向けたら、すぐに後ろから前に交戦している戦闘マシン二機が激しく火花を散らしながら飛んでいった。
女学生B「グスッ!」
泣きながら走る二人を追い越して、さっきのオジサンが涙と鼻水を流しながら、抜かして走り去っていった。
女学生A「大丈夫なンだ…。」
女学生二人が走る斜め前から、街路樹が流れ弾で根に被弾して彼女達に向かってバリバリ大きな音を立てて倒れてきた。
女学生A「きゃあ!」
女学生B「アブナイ!」
ズドーン!と大砲が撃たれた音がすると、街路樹は彼女達を避けて逃げ道を残してくれたかのように倒れた。
神奈川県の戦闘マシンが前方に大きな風を巻き立てて飛んでいったと思うと、急旋回し前方から彼女たちに向かって急加速して飛んできた。
思わず身をかがめる二人であったが、戦闘マシンは彼女達の少し上をかすめて飛んでいき、斜め後ろから彼女らのほうに倒れてくるビルに体当りした。
ビルは倒れゆく軌道を変えて彼女達に倒れなかったものの、彼女達の上には大きな破片が落ちてくるように見えた。
これを見たもう一機の戦闘マシンがマシンガンを乱射し破片を破壊してゆき、二人に降ってきたのは砂や小石のみだった。
女学生A「痛ッ!」
女学生B「大丈夫、守られてるよ!」
女学生Bは涙目で言った。近くで銃声や火花、砕けた破片が飛び交う二機の戦闘マシンが二人をいろんな害から防いでいるようだった。
しばらく走ると、二人は十字路にが入った。右の道は途中からトンネルになっていた。
ボロボロの二機の神奈川県の戦闘マシンはトンネルに逃げろと言わんばかりに入口の左右に立ってトンネルの中を腕で指し示していた。
女学生B「アッチへ逃げよう!」
二人は右折してトンネルへ逃げこむことを選んだ。
トンネルへの道を半分くらい行ったところで二機の神奈川県の戦闘マシンは、突然、前に急発進し、女学生二人を横切り一瞬だけ、大きな風を残しながら後ろへ飛んでいった。
女学生二人「きゃあ!」
そして、激しい交戦の末、トンネルの入口にたどり着いた頃、振り返った二人の前はたくさんの千葉の戦闘マシンに囲まれいて、戦闘力の無くなった神奈川県の戦闘マシンの二機だった。
千葉県の戦闘マシンの一機の大きなノコギリの歯が一刀のもと二機を斬り裂いて中から飛んできた二台のスマホは彼女たちのスマホケース桜アザラシとピンク砂漠のシズク君の柄が付いていた。
女学生B「あぁ、やっぱり…。」
クルクル回って画面を上にして倒れたその画面には『短い間だったけど、大切に使ってくれて、ありがとう。』と書いてあったのが読めた。
突然、女学生A走り出し、スマホに飛びつこうとした。女学生Bは止めようとしたものの振り切られてしまった。
女学生B「ちょっと待って、アブナイよ!」
千葉の戦闘マシンは二台のスマホを容赦なく強く踏みつけ破片を撒き散らした。女学生Aはそれを見て泣き崩れた。
女学生B「痛っ!」
壁に当たって跳ね返った破片が女学生Bの腕にあたり、シャツの腕には少し血が滲んでいた。
女学生B「チョット、今何か飛んできたよ!」
千葉の戦闘マシンたちの中から、隊長機らしい軽装備の一機が出てきて、
隊長機「負傷者登録をします!IDとパスワードを!」
女学生B「ID:✕✕✕✕✕✕✕
PASS:✕✕✕✕✕✕✕。」
隊長機「登録が完了しました!ここは戦闘区域です!至急避難してください!」
女学生B「戦闘が止んだら帰ろう…。」
二人は泣きながらトンネルの中へ歩いていった。
女学生B「アタシがケガで良かったわ!あなたがケガしたのなら交通事故の飛び出しと同じよ!覚えておいてね!」
二人はようやく少し落ち着いたのか、涙いっぱいの目で微笑みあった。
トンネルの中では多くの神奈川県民が避難しており、一部スマホを持っているものが、ニュース速報を流していた。
青年C「相模川分断条約だって!ふざけんなよ!オレらの仕事はそんなことされたら大迷惑だ!」
速報によると千葉県と静岡県のAI局が相模川分断条約を結び、先に力が弱まった神奈川県に攻めてきた模様であった。
女学生A「相模川分断ならば東京都軍がココまで侵攻できなければ、アタシたち分断されなくて済むね…。」
女学生B「そうね…。神奈川県がきっと疲弊してるんじゃ…。だから、先に千葉と静岡が…。」
青年D「今、見てきたけど…外が静かです!そろそろ、帰宅できると思います。」
オジサンA「フー…。帰るか…。」
女学生B「あっ、いたんだ…。」二人はクスクス笑った。
そんな所にとどまらなきゃいい…なんて思いませんか?
実は逃げても逃げても逃げ切れないこともありますよ…。
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