第2話 臨時徴収は困ります…


まだ失ったものは少しです


テレビで映されていた東京都の青年は、小さなリュックを背負ってひとり歩いていた。そのリュックの上には、なぜかキレイな虹色の瓶が逆さまに立てられていた。そしてその口から下に伸びていった先は少し垂れたあと、彼のセーターの下からお腹に入っていた。


青年Aは前を歩いている同年代くらいの青年Bに早足で近づいてゆき、追いつくとひと声かけた。


青年B「よっ!久しぶり!」


青年A「あぁ、久しぶり!」


青年Bはリュックの上の瓶に気づいてしばらく見つめていた。


青年B「おぉ…あれ?!お前、胃瘻なんかして、どうしたンだ?」


青年A「うん、最近、不味い健康食を食わないで済むって聞いたからやってみたンだけど、歯もあまり磨かなくていいし便利だった!」


青年B「ふ〜ん。………お前もついにプライドを捨てたのかぁ〜ッ!」


青年A「今は歩きながら食事中だけど、普段は外しておくこともできるし、 新型は柔軟で違和感がほとんどないし、好きなものは口で食べて、あとで人工栄養の会社に申告すれば…。」


太陽を隠していた雲が風で流れてゆき、次第に明るくなってきた。


青年A「…次の栄養液は調整されるからバランスが偏ることはまずないし、いいとこばかりだね!」


そこには光り輝く青年Aがいた。


青年B「人間活動法の基本原則を考えるとそういう怠惰なことは、なにか代償がつくンだよね?」


また、太陽に雲がかかり少し暗くなった。


青年A「趣味を大分減らしたね!っていうか、やることがやたら多かったから、代わりに寝る時間をかなり増やした!これで睡眠不足もそれ以外もいろいろ解決した!」


雲が去って明るくなってきた。青年Aはまた輝いた。


青年B「上手いな…でも、オレはこのままいろいろしていたいな…。」


青年A「本人の自由だからね!そう言えば二十年くらい前の岩手県と宮城県は戦争の結果、岩手県民の胃瘻の人は全員外されて強制労働だったっけ…。」


青年B「そうだね、岩手県では格上の都市とモメると良くないって意見もあったらしいけど、結局はプライドが優先しちゃったんだね…。」


青年A「天下の東京都は大丈夫!維持してみせますこのプライド!」


お腹の小さな突起を突き出して指さしてみせた。


青年B「昨日ニュースで聞いたけど、先日ついに東京都のAI軍が神奈川県に攻め込んだってね…。そろそろ精鋭の横浜市軍が本格的に投入されるらしいぞ!ヤバいンじゃネ!」


青年A「ヤバくないって!」


二人、半笑いでフザケていた。


突然、物騒な四角い大型トラックが轟音で走ってきて、二人の横に停まった。


大型トラック「コチラは東京都AI局!コチラは東京都AI局!戦局が厳しいので臨時調達に協力してください!」


周囲を見るとこの道の先の交差点の先にも同じような大型トラックが通行人の前に止まっていた。


青年B「僕らは何をすればいいんだ?」


大型トラック「スマホ、タブレット、ノートパソコンを全部出してください!スマホ、タブレット、ノートパソコンを全部出してください!」


トラックの側面のハッチが開き、ガラガラ音をたてて10台分くらいのスタンド型充電器みたいものが付いたトレーが出てきた。


青年Bは何がなんだかわからず、ポケットからスマホ、ショルダーバックからタブレットとノートパソコンをスタンドに立てた。立てたものから順に、『ダウンロード中…』と表示された。続いて、スピーカーは青年Aの方へ向きを変えると、


大型トラック「アナタも協力してください!アナタも協力してください!」


青年A「ん?!あっ…オレか…。」


渋々スマホ一つ立てた。また、『ダウンロード中…』とまた表示された。


大型トラック「もっと協力を!もっと協力を!」


青年A「オレは胃瘻をしたときにタブレットとノートパソコンを代償として売っちゃったンだよ…。今頃は学生さんかなんかが安く買って使ってるンじゃないか?」


それを聞いたら、大型トラックはガラガラ音を立ててトレーを引っ込めて、ガラス扉で仕切られた。青年Bのスマホ画面に『オイラ!ミサイルナンバーワン!』と表示されると上からロボットアームが出てきて、上にあった地味な色の円筒形の何かに取り付けられた。


青年B「あれ?これって…。」


ようやく、青年たちに騙された感が出てきて、青年Bは思わず前に出た。


今度は青年Bのタブレットとノートパソコンの画面には『実はオイラがミサイルナンバーワン!』とか、『オイラもミサイルナンバーワン!』と次々と表示されてゆく、さらにトレーの上に入れ替わり出てくる円筒形の何かに次々と取り付けられていった。


青年A「あぁ、あぁ、コラ!コラ!」


青年B「おい!おい!開けろ!開けろ!」


事態を理解した青年たちはガラス扉を手で開けようとしたが、ガラス扉はびくともしなかった。


そして、トラックの荷台の上部が斜めに大きく起き上がると、ジュドーン!という大きな爆音と強風とともに何発かの大きなミサイルが飛んでいった。


青年B「……………ヤバいンじゃネ…。」


青年A「……………ヤバくないって…。」


二人は暴風により、髪と服装を乱されたまま、苦笑いしていた。




神奈川県は東京都より早く深刻なことが来ていた…。


え?いや?こんなものではすまないでしょう…。


なくなったものは買えばいいと思いますよね…。

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