第四話
「プロング!大丈夫か!?」
少しすると煙も収まり辺りが見える様になってきていた。
街は様々な場所が壊れ、火事が起きている。
パニックで人々は行き交うせいで騒がしい。
アニゴは急いで二人の姿を探す。
「プロング!」
「うるさいぞ、もう少し静かにできないのか」
声が聞こえた方を見ると、そこには少年をかばって腕から血を流すプロングがいた。
プロングは元居た場所からそう離れた場所にはいっていなかった。
火球が体に当たる寸前に飛び退いて難を逃れたようだ。
しかし少年を庇った事で反応が遅れ、腕にケガをしてしまったのだ。
アニゴは周囲の安全を確認しつつ二人に駆け寄る。
ケガは早く処置するに越したことはない。
「そこまで深い傷じゃねぇな」
「……奇襲はやはり嫌いだ。受け入れられん」
少年に傷薬を持ってくるよう指示し、その間にアニゴは止血を済ませる。
およそ一週間もすれば完治するだろう。その程度で済んだのは直撃しなかった事が大きい。
「お、おい!第二陣が来たぞ!」
「クソ、タイミングが悪りぃな…」
プロングの言う通り空には同じ魔法陣がずらりと並んでいる。
今度は少し発動が遅い。威力を優先した魔法は発動が遅くなるのだ。
しかし悠長に逃げる隙は無いだろう。
アニゴは急いで保護魔法を発動する。これで余程の攻撃を受けない限りは安全でいられるようになった。
「すまない、助かった」
「……いや、オレは今嬉しくて堪らないぜ、プロング」
「はぁ…?脈絡が無いぞ、意味が分からない」
アニゴはそれでも嬉しそうに笑い続ける。プロングが少年を守った事が余程嬉しいのだろう。
そんな会話をしていたら再び火球が降り注ぎ始めた。
グズグズしていられないとプロングは魔法を唱える。
索敵をする魔法だ。これで火球を放ってくる奴らの居場所がある程度分かるようになった。
しかし予想外のものまで索敵に引っかかる。
「む…これはマズいな」
「どうした?」
「大軍が街に押し寄せてきているぞ」
既に街に兵士が攻め入ってきているのだ。
住民は捕らえられ、反抗する者は見せしめとして切られる。
これはもう戦争の域を超え、侵略となり始めていた。
「非戦闘員も殺され始めてるのか…」
「どうする?このまま逃げるか?」
アニゴは少し考えた後、少年を抱えて立ち上がる。
「この状況じゃ国を出るのは困難だ。それならここの兵士と協力して侵略を止めた方がいい」
「……戦力は期待できるのか?」
恐らく戦線に出されている兵士がほとんどで、最低限の戦力しかないはずだ。
相手は完璧に準備を整えて戦いに来ている。
勝ち目など無いに等しいだろう。
「さぁな。ケドこんな胸糞悪い戦い、見てらんねぇよ」
恐怖からか少年がアニゴの胸元で泣き始める。
アニゴはあやすように体を揺らしながら少年に微笑みかける。
「心配すんな、お前の街はオレが守ってやるから」
アニゴのその言葉にプロングは少し情けなくなった。
アニゴが何故大人っぽく見えるのか、その根幹はその懐の大きさだろう。
情けは人の為ならず、という言葉を体現しているかのようなこの男。羨ましくもあるが、こうなれるような気が全くしない。
この男についていけば、こんなカッコいいニンゲンになれるだろうか。
行動理念を真似てみるのはいいかもしれない。
「分かった。僕は何をすればいい」
プロングが戦う気になったのが嬉しかったのか、アニゴは更に笑顔になる。
しかしすぐに表情を引き締め、戦況を確認し始めた。
「相手の兵は少なくとも五万以上だな。対してこっちは二万も期待できねぇ」
「既に三分の一が戦闘不能だ。早く対応しなければ」
二人は戦線に移動しつつ作戦を考える。
どうすれば被害が最小に収まるか、どのように侵略を止めるか。今はそれが最重要だ。
「一番厄介なのが魔法使い達だ。まずはそこを潰さねぇとな」
このまま魔法使いを放置していたらあの火球が降り注ぐ事など容易に想像できる。
それを止めない事には戦況は改善されないだろう。
「魔法使いはおそらく最後列だろうな。それらしき影がいくつか見える」
「オーケー。まずはそこに向かうか」
ひとまず少年を近場に作られた防空壕に預ける。
事が収まった後に責任をもって親に届けるつもりだ。
屋根をつたいながら進むと徐々に敵国の者が多くなってくる。
孤立している兵士を数人倒しつつ国境の門の近くに潜む。
既に侵略はかなり進んでいるようで、油断した兵士が門前を制圧し優雅に談笑している姿が見えた。
「いやぁ、チョロいなこの町も!」
「最前線送りにならずに済んだしな~」
戦争において侵略は最低だとしか言いようがない。
人としての倫理観も、国としての尊厳も。価値観の違いと言えば聞こえはいいが、それは言い訳に過ぎないだろう。
勝てば正義、この一言で全ての罪を無に帰すことが出来るというのはいささかどうなのか。
ムッときたプロングだが勝手に飛び出して行く程短絡的ではない。
ここで大勢の兵士に囲まれでもすれば簡単に捕らえられてしまう。
そう考えてグッと我慢したのにだ。隣の男はどうだろうか。
アニゴは気配を完全に殺し油断していた兵士の後ろを取り首にナイフを突きつけた。
その顔は完全に怒りで染まっており、少し離れた場所にいるはずのプロングにまで寒気が襲ってきた。
しかし冷静さは保っているようで、背後を取り生殺与奪の権を握っている状態である。
「殺されたくなければ大人しくオレの質問に答えろ」
さもなくば殺す。そう続きそうなほどの殺気を放つアニゴに気圧されたのか、兵士達は黙りこくってしまった。
一人で二人の相手は大変だろうとプロングもさりげなく参戦する。
これで二対二である。兵士も分が悪いと察したのか抵抗するような素振りは見せない。
アニゴは二人を目立たない場所まで移動させる。
持ち場に人がいないと怪しまれる為早急に済ませなければならないだろう。
「いいか、嘘を吐いても良いことは一つもない。俺には通じねぇからな」
圧しか含まれていないその脅しに兵士二人は千切れる勢いで首を縦に振る。
満足したのかアニゴは少し圧を弱める。
息が詰まる空気だったのが少しマシになった。
「まず一つ目。軍勢はどれぐらいだ?内訳は?」
「……およそ五万。歩兵と少しの衛生兵。あと魔法使いが五人だけだ。騎兵は街への奇襲だからと用意されていない」
予想通りの回答だがアニゴは目を尖らせる。
いつ何時嘘を吐くか分かったものではない。
どこに嘘を紛れ込ませているかもしっかり見ていないといけないのだ。
「二つ目。魔法使いは何処にいる」
嘘が無いと判断したのか次の質問に移る。
直球な問いだが時間はかけられない。最低限の尋問で済ませなければいけないのだ。
「…知らない」
「ダウト(嘘だな)」
アニゴが手に力を込めると首元にあったナイフは更に首に近づき、切っ先には血が浮かんだ。
気分次第で命はないという事を再び頭に入れさせる。
しかし兵士は黙ったままだ。
たった数人でも戦況を変える力を持つ魔法使いを打ち取られてはいけない。
そう分かっているからかあまりにも不利になる事は言えないのだろう。
「分かった、言うよ!言うから!」
先に根をあげたのはプロングが抑えている方の兵士だった。
傍から見ている方が冷や冷やしたのか、兵士は汗だくだ。
「おい!」
「魔法兵は城門前に立ててあるテントで休憩中だと聞いている!」
静止する声も無視して話し出す兵士。
これで欲しかった情報は手に入れる事が出来た。
プロングはアイコンタクトでアニゴに確認をとるとすぐに兵士を殴り気絶させる。
「な、何すんだ!」
「口が軽い奴は何処においても厄介だしな。寝ててもらうことにしたぜ」
仕方ねぇからな、と笑うアニゴは少し不気味だ。
味方ながら容赦ないなとは思うが、これはこれで頼もしい。
「ってことで、お前ももう用済みだ。安心しろ、殺しはしねぇよ」
アニゴは何処から取り出したのかロープで二人を拘束し、口に布をあてて声を出せないように縛った。
目立たない場所においておけば暫くは見つかる事はないだろう。
「よし、これでいいか」
疲れた、と言わんばかりに髪をかき上げるアニゴ。
しかし尋問をしている彼はかなり生き生きしていたように見えた。
「オレ、あんまああいうの得意じゃねぇんだよなァ」
「…実にいい手際だったぞ」
「ハハハ、そうか?」
いい笑顔だがプロングは目を逸らすしかできない。
こういう輩は怒らせたりすると面倒くさいのだ。
プロングはわがままを少し控えよう、と心に誓った。
「ひとまず城門に近づかねぇとな」
しかし外に出ようにも城門は兵士でがっちりと固められている。
このまま突っ込んでも多勢に無勢だろう。
「おい、どうするのだ」
「あ~…。いい考えが無くもないぜ」
アニゴはそういっていつの間に剝いでいたのか縛っていた兵士二人の軍服を差し出してくる。
「変装か…」
「まぁ、なんとかなるだろ」
二人は急いで軍服に着替える。
アニゴはピッタリサイズだったが、プロングには少し大きいようだ。
「……本当にバレないよな?」
服に着られるとはこのことだとプロングは自覚している。
全身を鑑定するかの如く見て回るアニゴ。
顎に手を当ててすこし悩むが、笑顔でサムズアップを繰り出す。
「馬子にも衣装だな」
それは褒めていないだろう、とプロングは項垂れる。
しかし意気揚々と歩き出すアニゴについていくしか他にないのだ。
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