第3話 私にとってのアズール様は side : シノン

いつかの日、アズール様はこう言いました。『私は人を救っていく人間になりたい』と。


私は感動しました。

こんなにも善良な貴族は居たものかと。


普通は、権力やら金に塗れて悪へと堕ちてゆき、ついには自分で自分の首を絞める結末が待ち構えているのであります。


当時15歳ながら、私はその場で泣いてしまいました。


「っ……こんなにも……こんなにも良き人が……っ、居るのですね」


実は、私の親も元はと言えば貴族でした。

―――それはそれは、酷かった。本当に酷かった。


私のことを放置するのは当たり前。

なんなら暴力までしてきました。


しかし、愛情は確かに、ひしひしと感じ取れました。怪我した時に心配する素振りや、泣いたときに抱き締めてくれたり……何かと不器用だったようにも感じられます。


しかし……死んだのです。

自らの手で。


「……顔を上げよ、シオン」


「は、はい……っ」


「泣く姿を見せるでないぞ。せっかくの美しい顔が勿体ない」


頭を撫でながらそう言われ、本当に優しき人物なのだと思いました。そして同時に、この方に一生ついて行きたいと思ったのでした。





しかし―――年月というのが彼を変えてしまった。


「たかが零落した元貴族のくせに……心配などするな」


「っ……」


暴言は当たり前、暴力こそしないですが、私たちメイドにあたりが強くなっていきました。


そしてついには、


「私が人を救いたいなど……いつ言ったのだ?ははっ、そんな訳なかろう?」


私が彼の夢について尋ねた時、予想外の……いや、分かってはいました、分かってはいましたが……信じていたかった。―――しかし、そんな心をいとも容易く切り裂きました。


「あぁ」


その時、一瞬思ってしまった。

彼にもう……仕えたくはない、と。


―――それから月日が流れ、現在。


「とまぁ、このような感じなのだが……大丈夫であるか?」


アズール様が、誰かも分からぬ少女を保護すると言い出しました。


「ええ……1人増えるくらい大丈夫ですが―――何か利用されるのでして?」


私は不審に思い、そう言いました。

今日までの彼らしくはない……そう思いましたから。


「―――ただ、救いたいだけなのだ」


彼はそう言い放ちました。


「なんと……おっしゃいました……か?」


聞き取れなかった。

いや、聞き取りたくなかった。


もし、その言葉が聞き間違えだったら、私は……悲しいだけでは済まなさそうだったから。


「うむ?ただ救いたいのだと言ったのだ」


しかし、簡単に彼はそう言う。

……聞き間違えでは、なかった。


そして、何かするための建前の嘘かと思い、彼の目を見る。―――あの頃の彼の目をしていた。これは……嘘なんかじゃない。


「ぁ、あぁ……ジーザスっ……あの頃の……あの頃のアズール様が……帰ってこられた……っ!」


私はあの頃と一緒のように、泣いてしまった。


「私、生まれて24年、1仕えて9年ですが……これほどまで感激したことはありません……っ」


「 」


彼は私を案じてか何も言わない。

―――その優しさが、私は嬉しかった。


ただ、少しわがままを言わせてください。


あの時のように、また頭を撫でてもらいながら、ああ言ってもらって、慰めてもらいたい……です。

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2026年1月15日 07:06

~口だけ貴族~馬鹿が頭脳系悪役貴族に転生したので、口振りだけ真似たら勘違いの連鎖を引き起こしちゃった つかとばゐ @namuu12

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