第三話  ある日森の中、赤ずきんに出会った

この世界に来て初めて、俺はマイホームを手に入れた。

そしてハルディアに着いて最初に取りかかったのは、生活環境を整えることだ。

家の掃除を始めると、前の住人が残した古びたバケツやモップが見つかった。

使い物にならなそうだったので、アイテム生成で新しい掃除道具を作り出し、掃除を始めた。


掃除を始めてから数時間が経ち、ふと窓の外を見ると明るさを失っていた。

その瞬間に自分が晩御飯を食べていないことに気づくと、腹の虫が鳴き、空腹と自覚した。

居住スペースの掃除はほぼ終わっていたが、自炊するには道具が揃っていない。

近くに飲食店があることを思い出し、俺は晩御飯を食べに定食屋へ向かった。


家から歩いて十分ほどで、目的の定食屋に着いた。

ピークの時間帯らしかったが、中は座られている席に対して空席が目立っていた。

入店すると店員が気づき、

「いらっしゃい、空いてる席に好きに座っちゃってね」

と声をかけてくれたので、俺はカウンターの近くのテーブル席に座り、メニューを眺めた。


ヴァルディアで見たことのある料理もあれば、初めて聞く名前のものも並んでいた。

悩んでいると店員が近づき、

「お客さん、何を注文するか決まったかい?」

「い、いえ、まだ何にするか決めてないですね」

すると店員はニコッと笑って、

「了解。決まったら呼んでね」

と離れかけたが——

「店員さん、ハルディアに来たばかりなので、ぜひ店員さんのおすすめでお願いします」

店員は振り返り、親指をグッと立てて言った。

「ハルディア定食、一つ!」

そういうと奥の料理人が「わかった」と力強く返した。


俺はあまり深く考えることなく店員のおすすめを頼んだのだが、ふと考えてしまった。

(もしかして値段の高いものを注文したことになったりしてないよね)

俺はオーダーをする際に「来たばかり」ということを言ったが、相手からすれば相場もなにも知らない奴が来たとカモにするのではないかと勘ぐってしまった。


数分後、料理が運ばれてきた。

「はいよ、ハルディア定食ね」

豪勢なお盆には様々な料理が並び、思わず食欲をそそられた。さらに——

「これも食後にぜひどうぞ」

と色鮮やかなフルーツまで添えられた。


空腹だった俺は値段のことを気にする余裕もなく食べ始めた。

量は多かったが、味はヴァルディアで食べたものより格段に美味しかった。

食べ終わり会計をしようと声をかけると、店員は笑顔で言った。

「お代は結構よ。今日ハルディアに来たばかりなんでしょ? 記念日くらいはいいのよ。また来てくれればそれで十分」

俺はその言葉に甘え、感謝を伝えて店を後にした。


行きと同じ道を戻り、家へ帰った。

帰宅し寝ようとした際、俺はベッドを買い忘れていたことに気づき、能力で新しいベッドを作り、掃除した部屋に置いて、その夜を過ごした。

窓からの日差しが顔に当たり、目が覚めた。

この世界に来てから五日が経つ。


朝起きると、俺はご飯を買いに行くのを面倒になり、アイテム生成で適当に作って食べた。

生成したものを食べるのは初めてだったが、味はそこまで悪くはなかった。

喫茶店を開いたら、こっちの世界にない材料を生成して料理するのも面白そうだ——そんなことを考えながら朝食を終えた。


昨日の続きで居住スペースの残っている部屋の掃除を進めた。

残っていた部屋を片付けているうちに腹が減り、アイテム生成で軽食を作って食べた。

どれほど時間が経ったのかは分からないが、外はまだ十分に明るい。

そして俺は居住スペース最後の部屋の掃除を終えて、

「終わったぁ!」

思わず声を上げ、体を大きく伸ばして寝転がる。


次は内装を整える番だが、昨日今日とで掃除ばかりで少し飽きてきたので、気分転換に近くの森へ散歩がてらモンスター狩りに出かけることにした。

近くの森には、馬車で二十分ほどで着いた。

運転していたおじさんによれば、この森は冒険初心者にうってつけの場所だという。


俺はチート能力で作った、この世界には存在しない武器を手に森を散策した。

俺がこの世界に来て何度も失敗を重ねて完成した武器で、思い描いた形に自在に変形することができる。

それは大剣や双剣から弓や銃まで、今は片手剣サイズで持ち歩いている。


昔から散歩は俺の気分転換だった。

歌を歌ったり、ノリノリでスキップしたり——まるで別人になったように振る舞う。

この世界でもそれは変わらず、誰も見ていないことを確認すると陽気に歌いながら森を歩いた。

モンスターが出る場所ではあるが、そんなことは気にせず歌い続ける。


ちょうどよく歌が終わった頃、馬車のおじさんの言葉を思い出した。

「あそこの森は初心者にうってつけの場所ではあるのだが、ごくまれに冒険者が倒れていることがあるのじゃが、応急手当はできるかね」

ごくまれとは言っていたが、こんなところで倒れている奴なんていないでしょと思いながら、新たに歌を歌い始め森を歩く。

「あるひ~、もりのなか~…」


回りながら進んでいると——

「……あかずきんに~、であった!?」

そこには赤ずきんのフードを被った少女が倒れていた。

顔には返り血らしき跡があり、手元には様々な色の宝石で装飾されたマスケット銃が落ちている。

「……人が倒れてる!?」

そしてこの出会いは、俺の人生を大きく変える運命の彼女との初めての出会いだった。

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