第二話 print('Hello Isekai')
ペストマスクの男が作り出した亀裂をくぐり、俺は異世界に降り立った。
最初に目にしたのは、建物と建物の間に広がる晴天——そして、ゴミ置き場だった。
俺は身を起こし、ゴミ置き場から離れて大通りへと向かう。
建物の間を抜けると、石畳の道に沿って様々な店が並んでいた。
通りには子どもから老人まで、老若男女が活気にあふれている。
その中には耳や尻尾を生やした獣人や、角を持つ竜人の姿もあり、日本では決して見られない光景が広がっていた。
「……マジで異世界転生してきたんだな」
そう呟きながら、俺は特に目的もなく大通りを歩き始めた。
三十分ほど経っただろうか。目的もなく、知らない街を歩いているとある問題が生まれた。
「どこだここ」
迷子である。土地勘もなければ地図もない。
どうしようかと考えたとき、ふとあることを思い出した。
「そういえば、この場合チート能力ってどうなるのかな」
俺は先ほどペストマスクの男性からもらったチート能力の存在を思い出し、その能力でガイドブックや地図を作り出そうと試みた。
「……どうやって作りだすんだ」
俺はペストマスクの男性から、どのようにしてアイテム生成をすればよいか方法について何も聞いていなかったのだ。
とりあえず念じてみたが、何も現れない。
「何がチート能力だよ、産廃能力じゃないか」
そう諦めかけて呟いた瞬間——
「あ~あ、この場所のガイドブックどこかにないかな」
次の瞬間、手元に重みを感じた。気づけば手には雑誌のようなものを持っていた。
表紙には「ガイドブック・ヴァルディア編」と書かれ、この街の地図も載っていた。
「うお、すっげぇ……ほんとにアイテム生成できた!」
喜んで中身を見ようとしたとき、周囲の視線に気づいた。
「あの人、いきなりものを作り出さなかったかしら」
本来俺の能力はこの世界には存在しない。普通の人から見れば、無から物を生み出したように見える。
俺は周りからの視線から逃れるように、大通りを外れて建物の間へと入っていった。
周りには誰もいない場所で、俺は先ほど作り出したガイドブックを読み始めた。
まず分かったのは、ヴァルディアという街がこの国の首都であり、ヴァルディア帝国の中心だということだ。
他にも多くの街が存在し、ガイドブックにはおすすめの街の名前がいくつも載っていた。
さらに、この世界では複数の種族が共に暮らしているらしい。
魔族と人間が争うような定番の構図はなく、共存が前提の世界だと感じた。
しかし、まだ重要なことが分かっていない。
通貨は何か、この世界の言語は何か、価値観や常識はどうなっているのか——俺は何も知らない。
俺は再度チート能力に頼ることにした。
とはいっても先ほどとは違い、この世界に存在するものではなく、この世界に存在しないものを作り出そうとしているのだ。
俺はペストマスクの男性が言っていた、
「思ったものを世界にないものでも、本来存在しないものであっても作り出せる」
という言葉を信じ、この世界についての説明書を作り出そうと考えた。
「とりあえずさっきと同じように、…この世界の説明書をくれ!」
…しかし何も起こらない。
「なんだよこの能力、やっぱ産廃能力じゃないか」
そう諦めかけた瞬間、背後で“ドサッ”と物が落ちる音がした。
振り返ると、先ほどのガイドブックよりも厚い本が落ちていた。
それを手に取ってみると、通貨・言語・価値観など、俺が知りたかった情報がすべて載っていた。
俺はそれを読み、この世界の常識を詳しく知ることができた。
そして説明書を読んだ俺は、この世界で必要なものを作り出そうと能力を使った。
その際に何回か失敗したが、何度も挑戦した。
発動条件は分からない。声に出しても、念じても、決まった方法はない。
ただ、挑戦を重ねるうちに成功率は少しずつ上がっていったのだから。
結局のところ、この能力は運に左右されるのだろうと考えた。
俺は無から作り出したポーチに通貨を入れ、寝泊まりできる場所を探し始めた。
この世界に来てから三日が経った。
能力のおかげでお金に困ることもなく、冒険を楽しみながら生活していた。
だが、なんでも手に入る生活に、俺はどこか嫌気がさしてきた。
そこで俺は決断した。——違う街へ行き、のんびり過ごそう。
人の少ない場所がいいと思い、以前作り出したガイドブックに載っていた街を選んだ。
俺は移動に必要なお金と、新しい街で困らないよう通貨を用意し、
その他必要そうなものも作り出した。
そして馬車に乗り込み、ヴァルディアを後にした。
馬車での移動は途中に休憩を挟み、一日を要した。
ハルディアに着いた俺は、まず住む場所の確保に取りかかった。
初めて訪れる街だが、事前に読んでいた『ガイドブック・ハルディア編』のおかげで、ある程度の情報は頭に入っている。
ヴァルディアを発つ前から、この静かな街で喫茶店を営み、時々冒険に出かけながら地元の人々と穏やかに暮らすことに決めていた。
そんな思いを胸に、居住地兼喫茶店にできる物件を探す。
運よく条件に合う場所が見つかった。メイン通りから少し外れた立地で、住居と店がきちんと分かれている。
俺は用意していた金で支払い、その場所を購入した。
そしてここから——俺の第二の人生が始まるのだ。
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