第2話 花
昼間のお客様のお話しです。
そのお客様は毎月十六日にやってきます。
お花を届けにやってきます。
すごく辛そうな顔をして。
バラやアネモネ、ネモフィラ、ダリア。
ここ何年かで届けられる花の種類も増えました。
以前は白い菊の花ばかりでしたね。
精一杯の贖罪……
私も店主も花が好きです。
届けられた花をカウンターに飾ったりもします。
昔、店主は花を受け取りませんでした。
その場で捨てる事もしばしば。
(もったいない)
私は花の影をそっと拾ってカウンターに飾ります。
店主は今でも受け取る事が辛そうです。
今でも目を逸らしてしまう事があるけれど、受け取る事が精一杯の変化です。
今日も私はカウンターの向こうから昼間のお客様を眺めていました。
夏の陽射しがとても強い日、三本の桜の木が陽射しを和らげてくれています。
そんな暑い夏の日。店のドアが小さく鳴って。
お客様がいらっしゃいました。
お花を持って。
私は知っています。
彼がずっと辛かった事をあの日の前も後ろも。
会社のため家族のために頑張っていたのですね。
最初は訳も分からずに地縛霊をやっていました。
あなたの持ってくるお花の種類が増えていくように、少しづつ理由が分かって来ました。
あなたの持ってくるお花の彩りが増えていくようにここにある幸せが増えていきました。
私はこのお店が好きです。
ここの優しい空気が好きです。
コーヒーの香りやお客様の声。
三本の桜の木がくれる花の賑わいや穏やかな木陰。
だから、私はここにいます。
今の暮らしも悪いものではありません。
いつか、あなたが持って来てくれる花のように色とりどりの表情で店の扉を開けて欲しいのです。
いつか、店主や私が煎れるコーヒーを味わって欲しいのです。
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