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「季節」という言葉が聞かれなくなりずいぶん経つ。くっきりと青い空だった。はるか彼方の稜線を境にして、入道雲が湧いている。
川に流されたものが滞留する海岸線に、吹き溜まりのような場所が出来ていた。見紛いそうなまぶしさだが、それは雪原ではなく、砂だった。湿った風にさらされる細やかな砂が、白い煙のように漂っていた。
ピンク色の舌を口の外にはみ出させ、連続的に短い息を吐き、匂いをたどる。
毛むくじゃらの足の下で、砂が、鳴いていた。肉球で踏みしめるたび、きゅ。きゅ。と擦るような音を奏でる。進行方向を変えれば、私といっしょに音が動く。歩調に合わせて、地面が鳴く。
その理由がわかる者も、それらについて探究する者も、もういない。砂粒は、踏まれて必ず鳴くわけではない。清浄でかつ、粒の大きさや形状等の条件が揃った時に限られる。
この砂丘の砂、一粒一粒にヒトの精神が宿っている。それらを踏みつける私への抗議として、砂が、泣いている。あるいは、かつて「彼女」だった粒が、怒っている。あの時何も言わなかった私への怒りを訴えている。
足元の音は、ヒトの『声』だ。
私が進む先をイノシシの群れが横切る。何組かの親子が群れをなしている。親の力強い歩みと、生まれてまだ一ヶ月にも満たない子の、小さな歩幅。複数のリズムが重なり合う。親が「ゴッ。ゴッ」子は「キィキィ」と、喉から音を絞り出す。まるで重奏をしているようだった。私たちが奏でる音楽の美しさを、詩歌にしたためる人間は、もうどこにも見当たらない。
今ここに集まる粉粒も、いずれ風や波にさらわれて、どこか別の場所に舞っていく。私などよりもよっぽど遠くに行けるだろう。
私は一声、ヲン! と吠えた。
了
砂はうたう 夏原秋 @na2hara
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