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その日の夜、荒瀬はタブレットで、『網チエ』という、有名なQ&Aサイトを眺めていた。
検索窓に『眼 異物感』とキーワードを打った。
やはり気がかりなのだろう。眼の健康に関わることには敏感なはずだ。長年一緒の私にはわかる。
『眼の異物感がひどいです。眼科に行っても治りません。どうしたらよいでしょうか?』
『眼がごろごろします。おすすめの目薬を教えてください』
『目を洗うと痛いです。これはなんの病気でしょうか?』
関連の質問が続々と結果に表示される。数百件にのぼる質問は、直近の一週間くらいに投稿されたものばかりだった。荒瀬は少し、ぞっとする。石川班長とは冗談半分で会話をしたが、これは本当に流行り病なのではないだろうか、と。
荒瀬は、一〇代の頃に流行った「新しい風邪」のことを思い出すと言った。私に語りかけているわけではなかった。ただの思い出話の独り言だ。世界中の都市でロックダウンが起きたし、国内でも外出自粛が要請された、あの頃の経験が、忘れられない、などと。
またそういう事態になったりしないよねと、心配せずにはいられない様子だった。
荒瀬が寝た後も、私は荒瀬の中で起きている。
独り不安を募らせる宿主に対して、私は慰めの声をかけたりしない。
AIと話したくない、そういう人間は一定数いる。荒瀬もその一人だ。
不得手を補うために仕方なく高性能AIを体内に宿してみれば、『頭の中をずっと見られている感じがして気味が悪い』という評価になるのも、よくあることだ。実際は宿主が考えていることは、我々にはわからない。推測ならば可能だが。
私は荒瀬から、話しかけないよう命じられていた。
砂はうたう 夏原秋 @na2hara
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