2-5 言いたいことは言いたい、こんな世の中でも②

「ただいまー」

「おかえりー」


 妹が「ただいま」と言ったので、「おかえり」と返した。

 一緒に帰ってきてそれを言うのは、なんか変な気もするが、我が家では普通だった。


「夕飯、作るから待っててねー」

「はーい」

「じゃあ、部屋にいるから」


 夕飯ができるまで、少し時間がありそうなので、一旦自室に戻った。

 宿題でもするか……。教科書とノートを机に広げた。その時――


 コンコン


 とドアをノックする音が聞こえた。

 ドアを開けると、妹が立っていた。


「どうしたの?」

「なんか、結花ちゃん話したいことあるって」


 妹の後ろに隠れて、結花ちゃんが後ろめたそうに立っていた。


「なんかあったの?」

「……二人っきりで話したいことが。……あの公園で話せますか?」

「いいけど」


 なんだろう……。

 あまりいい話ではなさそうだが、真剣そうな彼女を無視する訳にもいかないだろう。

 それに自分自身、あの夜、無神経な発言したことをまだ謝罪できていなかったので、あやまりたい気持ちもあった。


「母さん、ちょっと出かけてくる」

「今から? もう、早く帰ってきてね」


 靴を履き、家を出た。

 結花ちゃんと二人で路地裏を歩く。


 夕日が辺りを照らし、カラスが早く帰れと言わんばかりに「カーカー」鳴いている。


「どうしたの?」

「……公園のこと謝りたくて。……なんか失礼なこと言ってなかったかなって。」

「そんな、謝られること言われた記憶ないけど……。こっちこそ、事情知らずに適当に言ってごめん」

「……それは、……そうなんですけど。」

「すみませんでした。」


 彼女はクスクス笑っていた。

 少し大人びて見えていたが、笑顔は年相応の可愛らしさで満ちていた。


「……本当は、別に言わないといけないことがあって。その……」

「どこいってたんだ」

 

 彼女が何かを伝えようとした時、男の声が遮る。

 前を見ると、道を塞ぐように見知らぬ男が立っていた。


「なんで……」

 誰だろう……。年齢は三十代ぐらいだろうか。

 服装が乱れた、ガラの悪い男がそこにいた。結花ちゃんはひどく怯えているようだった。


「てめぇ誰だよ」

「親戚のものですけど」

「俺が親戚だよ!? てめぇ誰だよ」

 

 一瞬で嘘が見抜かれた。俺には嘘の才能は無かったらしい。


「それで、何ですか?」

「そいつが、最近帰ってこないから探しに来たんだよ」

 

 男が怒鳴るように言う。

 この人が前言ってた叔父さんだろうか。あまり、まともには見えないが……。


「……もう、あの家には帰らない。」

「あ? ガキが一人で生きていける訳ねぇのは分かんだろ」

「離して!!」


 男が、彼女の手を掴み、無理やり連れて行こうとする。


「まあ、一旦手離せよ」

「てめぇ、誰に口利いてんだ?」


 男は殴りかかってきた。

 ひらりと躱す。おかげで、彼女を掴んでいた手を離すことができた。


「今の、保護者だよ」

「あ、なにいって……。今、こいつの家に世話になってんのか?」


 彼女に向かって、男は喋る。


「知らねぇのか? 普通に誘拐だろ。警察に言えば、刑務所行きだぞ!!」

 男は、こちらを嘲笑うように言う。


「知らねえよ。もう、俺の妹だ」

 

 俺自身、誘拐については同じことを思っていたが、こいつと一緒に過ごすよりは、うちの方が絶対マシだろう。


「あ? てめぇら、できてんのか? この場で全部言ってもいいんだぞ!?」


 男は馬鹿にするように、そして脅すように言う。

 そろそろ、この男の品性に関わるのが、限界に来ていた。


「……全部、いってもいい。私も、警察にいうから」

 男をまっすぐ見据えて、彼女はいう。


「チッ、憶えとけよ……」

 男は、頭を搔きむしりながらどこかへ去って行った。


「大丈夫?」

「……大丈夫です。」

「一旦、公園行く?」


 このまま、家へ帰るのは彼女の精神面的に不安だった。

 一旦、落ち着ける場所に行きたかったが……。


「……大丈夫です。家に帰ります。……少しだけ、手繋いでいいですか?」


 そっと、手を繋ぐ。

 来た時よりも、ゆっくり家へ歩き出す。


「……別になんとも思っていませんから。あの男なんて。」

「ならよかった」


 そして、彼女は語り出す。

「……両親の遺産目当てで引き取られたんだと思います。それで、あの男の家に行くことになって。

 それで、私が寝てるとき、部屋に入ってきたんです。もう殺されるって思った時、助けてくれた人がいて……だから……。」


 彼女の目には、大粒の涙が溢れていた。

 頭を軽く撫でる。

 この小さい体で、どれだけ耐えてきたのだろう。


 あの男を半殺しにしなかったのは、後悔していた。


 家へつく頃には、彼女は泣き止んでいた。


「……すみません。迷惑かけて」

「いいよ、もう家族なんだし」


「もう、ご飯できてるよ~」

 母は偉大だ。

 母の声を聴くと、自分自身少し落ち着きを取り戻し、優しい気持ちになった。


「いただきまーす」


 一人多くなった家族で食卓を囲む。

 これからも兄として、妹達を守り抜くと心に決めた。

 

 そうして、一日が終わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

騙された魔法少女が騙そうとしてくる件 苦瓜 @nigauri_7

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画