2-5 言いたいことは言いたい、こんな世の中でも①
今日は祝日だ。
学校は休みで、部活もしていない俺にとっては、惰眠を貪る絶好の日だった。
今の時間は、朝の九時。
携帯を置き、布団の中へ潜り込 「どーん!!」
布団に潜り込もうとした瞬間、妹が頭から突っ込んできた。
どこから湧いてきたのだろうか。
「……おはようございます。」
「おはようー」
妹の後ろで、結花ちゃんが挨拶する。今日は元気そうだった。
「お母さんがイャスコ行こうだって」
「眠いって言っといて」
イャスコとは、老若男女で賑わうショッピングモールのことだ。
だが、特に行きたい理由もなかった。
「どーん!!」
「
今度は勢いよく母親が体ごと突っ込んできた。
妹は笑い、結花ちゃんは驚いていた。……こんな家族ですまない。
「はーい、早く準備して行きますよー。結花ちゃんの歓迎会だから」
行くしか選択肢はなさそうだった。
布団から出ようとした時、「トゥルルル」とスマートフォンに電話がかかってきた。
画面には、「胡桃沢唯」の表示があった。
朝から珍しい……。
とりあえず、電話に出る。
「……もしもし?」
「はーい、どうしたの?」
「特に用事はないけど、なにしてるかなって」
「ちょっと、今から家族で出かけるところだけど」
「そうなんだ……」
と胡桃沢は電話元で言う。
なにか歯切れが悪いが、なにか言いたいことでもあるのだろうか。
「電話だれ? 唯ちゃん?」
「そうそう」
まだ部屋にいた妹にそう尋ねられる。
「柚葉ちゃん近くにいるの?」
「となりにいるけど」
そういうと、スマートフォンを妹に横から搔っ攫われた。
「今から家族でイャスコ行くんですけど、唯さんも一緒に行かないかなって」
「行ってもいいなら……」
「じゃあ、あとで車で迎えに行きます」
妹が胡桃沢を勝手にさそい、スマートフォンを返された。
「胡桃沢、今日用事ないの?」
「特にないけど……」
「あー、じゃあ、家出るとき連絡する。あと、迎えに行く場所だけ送っといて」
「分かった……」
電話を切り、ベッドから起き上がった。
準備をすませ、俺は助手席へ。妹と結花ちゃんは車の後部座席へ乗り込んだ。
「しゅっぱーつ!!」
妹の掛け声とともに、車が発進した。
「あー、もう一人
「誰か来るの?」
母親が尋ねる。
「お兄ちゃんの彼女」
「違うわ、友達」
「へー、は~い」
母親は新しいおもちゃを見つけたように、微笑んでいた。
おかしなことを言わないといいが。
そうして、胡桃沢との待ち合わせ場所に着いた時には、胡桃沢はすでにその場で待っていた。
「唯ちゃん、うしろ空いてるよー」
「じゃあ、お邪魔します」
妹が先に、胡桃沢へ声をかける。
胡桃沢も後部座席に乗り込み、また車は発進した。
「胡桃沢唯っていいます。お世話になります」
胡桃沢は背筋を伸ばし、礼儀正しく挨拶をした。
「胡桃沢って、昔家に来てたあの唯ちゃん?綺麗になって。いつ日本に帰ってきてたの?」
「憶えて下さってるんですか?」
「もちろんよ~。唯ちゃん、海外に行っちゃったとき、
「本当にいいって!!」
母親の言葉に全身熱くなる。顔は赤くなっていないだろうか。
「まだ、最近日本に帰ってきたばかりで」
「そうなんだ。息子と仲良くしてあげてね」
「はい」
もう来たことを少し後悔していた。
恥ずかしさで周りの顔も見れない。……少し涙がでそうだ。
「柚葉ちゃんとは、この前偶然知り合って」
「へーそうなんだ」
「それで……」
「柚葉と結花ちゃん、気分悪くなったりしてない?」
話を切り替えるため、二人の話を遮る。
これ以上二人が話すのを耐えられる気がしなかった。
「別に悪くないけど?」
「……私も大丈夫です。」
二人は元気そうだった。
「結花ちゃん……って、柚葉ちゃんのお友達?」
胡桃沢が柚葉に尋ねる。
「私の娘」
「え!?」
母の言葉に胡桃沢は驚いていた。
「……柚葉ちゃんの友達です。和栗結花っていいます。」
「唯です。よろしくね」
動揺しながらも、胡桃沢は握手をしようと手を伸ばすが、結花ちゃんはスルーした。
相性はあんまり良くないらしい。
「はーい、着いたわよ~」
そんな会話をしている間にイャスコに着いた。
「とりあえず、どうすんの?」
「もう早いけど、ご飯にしちゃおっか。唯ちゃんお腹すいてる?」
「はい、まだ食べてなかったです」
みんなでフードコートを目指す。
現在の時刻は、十一時。
まだお昼前だが、フードコートはそれなりにお客さんで賑わっていた。
妹と母はハンバーガーチェーン店。
他三人、俺と結花ちゃんと胡桃沢はうどんの店の列へ並ぶ。
「うどんかー。二人とも冷たいやつか、温かいやつどっち派?」
「私は、選ぶなら温かい方が多いかも」
「……私も、温かい方が好きです。」
「同じだね」
「…………」
胡桃沢は、結花ちゃんに話しかけるが返事はない。
「なにしたの?」
「なにもしてないわよ」
胡桃沢に対しては、ご機嫌斜めみたいだった。
初対面で嫌われるのは才能だろう。
ちなみに俺は冷たいうどん派だ。一人だけアウェイの気分だった。
席に戻り、食事ができるのを待つ。
呼び出しベル――料理ができたら教えてくれる長方形の小さくて平たい機械。
子供のころは、それがとても好きだった。
今日は、それを見てもなにも思わなかった。
気づかない間に、大人になるにつれて、失っているものもあるのだろうか。
そんな事を考えている間にベルが鳴り、料理を受け取った。
そうして食事をすませ、次に向かうことにした。
「じゃあ、遊びに行こっか」
「でも、イャスコで、遊べる場所ってゲーセンぐらい?」
「じゃあ、レッツゴー!!」
そして、ゲームセンターにたどり着いた。
祝日なだけあり、たくさんの子ども連れで賑わっていた。
「結花ちゃん、あっちいこう~」
妹に手を引かれ、結花ちゃんと、母親はどこかに行ってしまい、二人残された。
「とりあえず、UFOキャッチャーでも見に行く?」
「じゃあ……」
胡桃沢と二人でゲームセンターを回る。
「アメリカだとどんな感じだったの?」
「どんな感じって……」
「休みの日とか何するんかなって」
「家にいることが多かったから……」
胡桃沢の口ぶりだと、あまり楽しい思い出ではなさそうだった。
「ところで、あの結花ちゃんってどうしたの? ひ……八朔くんのお母さん、私の娘っていってたけど」
「ちょっと、それ話すと長くなるけど……」
人のプライベートを言い触らすことはよくないだろう。
どう説明するか悩んでいた時――
「仲良さそうだな~」
「きゃっ」
真後ろから、突然耳元で声が聞こえてきた。
胡桃沢は、珍しく可愛い悲鳴を上げていたが、自分も内心飛び上がっていた。
苛立ちを覚えながら、うしろを振り向くと――
「よー」
「なにしてんだよ……」
ゲームセンターの店員姿の大和が立っていた。
「なにしてんのって、バイトだよ」
「それは見れば分かるけど、驚かすなよ」
「まあ、気にすんなよ」
大和のにやけ顔が妙に腹立つ。
「それは、それとして仲良さそうだなって」
「別にそんなんじゃ……」
「たまたまだって。まあ、バイト頑張れ」
「おう」
そうして、大和はバイトへ戻って行った。
「大和君あんなにバイトして、何か買いたいものでもあるのかしら」
「あー、あいつ親父さん出て行って、大変みたいで」
「……ごめんなさい」
「別に、あいつ気にするタイプじゃないから」
大和は俺よりよっぽど大人だろう。そこは尊敬している。
そこ以外は尊敬していないが。
キャー!!
突然悲鳴が聞こえてきた。
悲鳴が聞こえてきた方へ急ぐと、一匹のミレンナーが暴れていた。
「なんで……今日はランラン出るとか言ってなかったのに」
胡桃沢がつぶやく。
悲鳴に導かれるように、人混みができていた。
不思議な生き物を撮影しようと、スマートフォンを向けるたくさんの人々。
手元には魔法の手鏡はあるが、人の多い中、剣を持って戦うわけにはいかないだろう。
胡桃沢も同じく、もしここで変身して戦ったら、ネットで何を拡散されるかたまったものではない。
ミレンナーは、店に間違って迷い込んだ野生動物のように怯えて、特に人を襲ったりはせず、人から逃げ回っているようだった。
「剣出せる?」
「出せるけど……」
人込みの中、隠れて剣を出す。胡桃沢はそれを回りに目撃されないように投げ飛ばし、ミレンナーを仕留めた。
ミレンナーはいつもどおり、灰のようになって消えていった。
「流石です」
「どういたしまして」
幸い誰にも見られてはいなさそうだった。
「にしてもなんだったんだろう……」
「ミレンナー出てくる時は、ランランある程度は分かるはずだったんだけど……」
突然の出来事に一抹の不安を感じる。
とりあえず、家族と合流した方がいいだろう。
「一旦、みんなと合流していい?」
「ええ、もちろん」
家族を探すため、周辺を歩きまわる。
そして、近くのベンチでのんきにアイスを食べていた三人を見つけた。
「どうしたの?」
母親が尋ねる。
「いや、なんかあったみたいで。よく分かんないけど、大丈夫かなって」
「今、休憩中だけど、日向たちもアイス食べる?」
「大丈夫です……」
「まあ、とりあえず、二人ともアイス買ってそこ座れば?」
さっきの騒動は、何も知らないようだった。
この三人と自分たちとの温度差に、心配していた自分が馬鹿らしく感じてきた。
アイスを買ってベンチに座るころには、先に休憩していた三人はアイスを食べ終えていた。
俺たち二人も、アイスを食べ始める。
「じゃあ、食べ終わったら暗くなる前に帰ろっか」
「はーい」
そうして、帰路に就いた。
胡桃沢は家の近くで降ろし、家に着いた。
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