2-2 夜はさみしい

 今日も学校が終わり、家へ帰ってきた。

 今日は、初めての実戦――ミレンナー退治が待っている。


 真夜中に家を抜け出したことが知られたら、非行に走ったと誤解されるかもしれない。

 玄関から出入りするのは、リスクが高いだろう……。

 自室の二階の窓から飛び降りようと思ったが、どう頑張っても戻ってこれる気がしなかったので、素直に玄関から出ていくことにした。


 現在、時刻は深夜十二時。家族はきっと夢の中だろう。

 音を立てないようにして、そっと家を抜け出した。


 胡桃沢と小学校で合流し、訓練が始まった。


「で、これってどうやって戦ったらいいの?」

 

 以前渡された魔法の手鏡を触りながら言う。

 これの使い方も、まだよくわかっていなかった。


「……さあ?」

「さあって……」

「だって、私のと違うし……」

 確かに、胡桃沢のは魔法少女風の意匠のステッキに、天使のような羽がついているものだった。


『それは人の好みの問題だろう。彼女の場合は銃が、君の場合は剣が想像しやすかったのだろう』

 ランランがそう説明する。

 

 確かに、胡桃沢は、ビームを出したり、ステッキでそのまま殴るようにして戦っていた。

 ……もし逆だったなら、胡桃沢が剣で前衛を張り、自分が銃でサポートして役に立ちそうだったが、上手くいかないものだ。


 魔法の手鏡に力を込める。そうすると、半透明の剣を出すことができたが……


「これって、身体能力上がったりとかは……?」

『多少はあるが、ないよりはまし程度だろう。魔法少女程の力はない。後は実戦あるのみだ』

「じゃあ、ほら来てるわよ」


 胡桃沢の言う通り、ミレンナーが数体、近くまで来ていた。

 大きさは成人より一回り小さいぐらいだろう。スピードはそこまで早くない。


 剣で思いっきり叩き切る。

 感触は特になく、ミレンナーは灰になって消えていった。


「まあ、上出来よ」

 胡桃沢は慰めるようにそう言う。いつか、俺でも役に立つ日がくるのだろうか。


「はぁ……そういえばさ、俺が魔法少女の契約結んだら、魔法少女になれるの?」

 どうせ一緒に戦うなら、契約してパワーアップしといた方がお得な気がするが……


『君が後悔しないならいつでも構わないが』

「……そこまでしなくていいわ。仕事量も二倍になるだけだから」

「そうなの?」

「契約、一年以内に達成しないといけないから」


 契約って、ミレンナーを倒してマナを集めるって話だったと思うが……。


「時間制限あるの?」

「マナをステッキ満タンまで集めないといけないのよ。今のペースだと大丈夫だけど」

「ふーん。それって、間に合わなかったらどうなんの?」

『魂を貰うか、願いをキャンセルして、契約前に戻るだけだ』

「キャンセルできるんだ……」


 魂を貰うということは、死ぬことだろう。

 死か、願いを叶えるか、選択する場合、死んでも叶えたい願いの方が少ないだろう。


「まあ、馬車馬のように働いてもらうから」

「はい……」


 そうして初めての訓練を終え、胡桃沢と別れ、小学校をあとにした。



 小学校から歩いて帰る途中、公園のそばを通りかかると、キー、キーと金属が擦れる音が聞こえてくる。

 ふと視線を向けると、ブランコに子どもが乗っていた。

 ……時刻はすでに深夜二時を回っている。子どもが一人でいていい時間ではなかった。


 幽霊だろうか……背筋に悪寒が走る。

 だが、生きている子どもだった場合、そのままにしておくわけにはいかないだろう。


 ゆっくりと公園の中へ、そしてブランコのそばへと足を進める。

 まだ、向こうはこちらに気づいていないようだった。

 近づいてよく見ると、ブランコに座るその子の顔には見覚えがあった。


結花ゆうかちゃん?」


 家に遊びに来ていた妹の友達――和栗結花わぐり ゆうかちゃんがブランコに座っていた。


「……お兄さん? こんばんは。」


 結花ちゃんは、特に驚きもせず、淡々と挨拶を返す。


「こんばんは……。一人で何してるの?」

「……別に。」

「別にって……何かあった?」

「…………」


 返事はない。彼女の表情からは、何を考えているのか分からなかった。

 隣の空いている座板に腰を下ろす。


「親と喧嘩でもした? 心配してると思うよ」


 優しく諭すように言う。

 小学生の娘がいなくなっていたとしたら、心配どころの話ではないだろう。


「……じゃあ、お兄さんはここで何してるんですか?」

「それは……ごめんなさい。」


 それに対して、答えを持っていなかった。

 そういえば、自分も家族に隠れて家を出てきてるところだった。


「でも、ここにいたら風邪ひくかもしれないし」

「……気にしないでください。」


 彼女は地面を見つめ、表情はこちらから見えなかった。

 キー、キーとブランコが軋む音だけが聞こえる。


 気にしないでと言われても、小学生の女の子をこの時間に放っておくわけにもいかないだろう。 


「家族と喧嘩することもあるけど、心配してると思うし……」

「いいから話しかけないで!!」


 何もしらないくせに……と彼女は、語気を強めながら言う。


「ごめん……一人で、帰りづらいなら、家まで一緒に行こうか?」

「……大丈夫です。一人で帰れます。」


 そう言って、彼女は公園から去っていった。

 心配ではあったが、彼女のあとをつけるわけにもいかなかった。


 あとで妹に様子を聞いてもらうしかないだろう。


 そうして、その一日は終わった。

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