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パターンA

　ええ、確かに見たんです。今でもハッキリ覚えています。

　出社するために道を歩いていたら、急に上から人が落ちてきて。あたりは騒然としました。『　』も慌ててどうしたらいいかわからなくなっちゃって、反射的に駆け寄ったんです。

　でも、そこには誰も居なくて。

　確かに人が落ちてきたはずなのに、なんにもなかったんです。疲れすぎて幻覚でも見たのかと思ったけど、周りにいた他の人たちも「え？」って顔してて。絶対に人が落下してきたはずなのに、もし見間違いだとしてもマネキンとか人形とか、そういうのが転がってるはずじゃないですか。本当になんにもなくて。

　『　』も含めてですが、しばらくしたらみんなその場を離れ始めました。そのあとはなんだかずっと気分が悪くて、会社を早退しました。記録も残ってますよ。

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パターンB

　≪　≫日午前、[　　　　　]にて、（　　　　　）の「　　　　　」さんが倒れているのが見つかり、搬送先の病院でまもなく死亡が確認された。「　　　　　」さんは《　　》年ほど前から捜索願が出されており、勤務先での目撃を最後に足取りが掴めなくなっていた。

　発見者の証言によると、ホール入り口付近であおむけに寝転がった状態で、まるで眠っているかのように倒れていたのだという。

　発見時の状況から事件性は無く、近くに市販薬の箱が大量に落ちていたことから自殺の可能性が高いとみられる。

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パターンC

　あの事件でしょ？　どこから噂が広まったのか、記者だのなんだのに随分質問されましたよ。

　確かに第一発見者は【　】ですけど。出社したら人が倒れていた、それだけです。

　すぐに警察を呼びましたし、正直なところ顔もよく見てないんですよ。【　】は驚いて通報しただけって感じです。当たり前でしょ、びちゃびちゃになった人が倒れ込んでたら、ただ事じゃないって思いますよ。

　恐怖とかそういうのより、まずびっくりして。どうやって入り込んだのかも結局不明だし、なんであんな水浸しだったのかもわからないし。しかも司法解剖の結果溺死だとか噂になってたし。社員の後をつけてキセルして、わざわざ夜になるまで丁寧に隠れておいて、わけわかんない方法で死ぬとか、ちょっと【　】には理解できないです。

　顔？　だから、よく見てなくて覚えてないんですって。

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パターンD

0:31:08　ホール入口に「　　　　　」の後ろ姿が映る

0:31:09　映像・音声共に大きく乱れる。

0:31:12　「　　　　　」がホールのドアの取っ手にロープを括り付ける姿が映る。

0:31:13　「　　　　　」が首に縄をかける。

0:31:15　映像全体にノイズが発生し、録画が強制終了される。

※警備会社にはカメラ挙動の異常アラートが発生していなかった。

※同日8:00:00よりカメラの録画機能が回復したことを確認している。

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パターンE

　信じられない。どうしてこんなことになってしまったのだろう。

　目の前には、深く切り裂いた手首から血を流したままこと切れている「　　　　　」の姿があった。

　昨日顔を合わせたときは、普通そうにしていたのに、どうしてこんなことに。

　「　　　　　」は落ち着きがあって、優しい人だった。何かに悩んでいるそぶりなんて全然見せなかった。よく笑う人だったし、なにもなくても楽しそうに過ごしていた。

　そう思っていたのは、こちらだけだったのだろうか。

　少なくとも「　　　　　」はもう取り戻せない。それだけは確かだ。

　茫然自失の状態で、天を仰いだ。

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　言霊、というと範囲が随分広くなりますが、まあ一般の方にはそう説明するのが一番わかりやすいですかね。

　で、呪いの原型としての言霊を利用するPDFファイルが色々と出回ってるって話で。昔はいわゆるファイル共有ソフト……わかります？　P2Pとかそういう、もう結構昔、そういうので出回ってたんですけど、その後は掲示板やなんかでアップロードされたりしてて……まだインターネットが一般化してなかった時代ですよね。

　今は表層ウェブでやり取りされることはほとんどなくなって、ダークウェブで取引されてるなんて話も聞きます。しかも、形式はネットプリントなんですよ。よく考えましたよね、データごと渡す必要がないし、プリンターが無くてもいい。最近はプリンターをもってない、パソコンはなくてスマホだけ、って人も多いですから。

　とにかく繰り返し、さまざまな方法で呪いたい相手を紙面上で殺すんです。先ほどお渡ししたのは昔ダウンロードして残ってたファイルを印刷したものですよ。これ以外にも様々な種類がありました。実はまだほかにも持ってるんですけど、簡易とはいえ一応呪術ですし、危険なので一枚だけお渡ししました。カッコのところに、好みの一人称とか、相手の名前とか、勤め先とか、そういうのを記入するんです。それを何度も繰り返す。

　呪術なんて効果が無いと思うでしょうが、キモはそこじゃなくて、そこまで必死になるほど相手を呪いたい自分を自覚することなんですよ。

　好きな子の名前をノートいっぱいに書くみたいな、あるじゃないですか。大切なのは意識なんです。意識は怖いですよ、気の持ちようで、相手を変えることもできてしまいます。嘘じゃないですよ。それほど深い愛や憎しみ、感情の種類は問いませんけど、強烈な意識は必ずいつか実を結びます。

　でもね、僕思うんですよ。これ、使う方じゃなくて、この形式を作った人の方が怖いなって。

　パターンは無数に存在しますが、どこかに最初のひとつのデータがあったはずです。それが人気になっていろんな人がいろんな風に作るようになったってことじゃないですか。最初の一人は一体、誰が、どうして、なんのためにこんなテンプレートを作ったんでしょうね。