第2話
問題はあった。それも明らかな問題があった。
初回特典を長舟に使った以上、ダンジョンの防衛能力を1000ptとかいう低すぎるポイントでやり繰りしなければいけない。造りたいダンジョンが決まっても、これでは随分と先の話となってしまう。
「――ということなんだが、何かアイデアはないか」
ぶっちゃけ良いアイデアなんて出るわけないと分かった上で聞いてみた。
長舟は考えたような考えてないような答えを出した。
「やって来た探索者を、片っ端から倒すというのが一番シンプルで良いと思う」
「倒す役目は誰がするんだよ。俺たち戦闘能力低すぎて話にならないぞ」
「そこはやっぱり努力で」
「努力ってすぐ実るものなのか?」
「……そこも努力で」
「よし、じゃあ俺の案に従え」
「うぅぅ……」
これで仕込みは終わり。
強者には強者の、弱者には弱者の戦い方ってのがある。少なくとも今の俺たちは弱者だ。正々堂々なんて採用出来ない。
まずは、コスパいいやつとかがほしい。
「スケルトンとか安くていいな」
召喚出来る魔物の種類はあまりにも多い。どれを選ぶべきか、かなり悩む。
「あらゆる要望に対応出来るように色んなパターンがあるの。武器や盾も、自由にカスタマイズ可能よ」
「特殊能力とかもいける?」
「もちろん! ただ消費魔力が上がるから何でもってわけじゃないけど」
基本は、魔力を使ってそれっぽい機能を乗っけるだけらしい。複雑なやつとか、強力なやつはそれだけ高い魔力が要るらしい。
本来、ダンジョンマスターは選択出来るだけで、自由に創ることが出来ないらしい。コアの機能で、細かく選択して作っていくとのこと。でも長舟がいれば、イメージさえ伝われば創れるとのこと。どうやら俺は、本当にチート能力を手に入れたらしい。
「試しに、スケルトンに羽とか付けてみる?」
「いらない」
空飛ぶスケルトン。……うーん、悪いとまでは言わないけど、そこはかとなく微妙だ。少なくとも今じゃない。料理下手のアレンジみたいになっても困る。
こういうのは、変に個性を出さずに用意された魔物を使った方が強いものだ。とはいえ戦力に不安がある現状では、普通にやって勝つのは難しいだろう。普通は初回特典を上手く使うんだろうが、俺の素晴らしき初回特典は退屈になったのか腕立て伏せを始めた。3回でぷるぷるしてる。……先は長そうだ。
時間は有限だ。
3日経ったら即座に見つかるというわけではみたいだが、運悪く見つかったのでゲームオーバーですなんてことになったら、あのクソガキに嘲笑われることだろう。それだけは許せない。とにかく形にはしよう。
◇◆◇
-軽装、3人-
とある3人からなる探索者のグループが、最近ダンジョンが生まれた際に発せられる魔力震を計測されたということで、ある山奥の周辺を探っていた。
見つければそれだけでかなりの金になる。場所は地方単位でしか分からないため、発見出来るかは運としか言いようがない。
彼らは、その運に恵まれた。
「――おい! ここだぞ!」
山奥に洞窟があった。松明で照らす必要もなかった。洞窟の奥には、ダンジョンコアの青白い明かり。あれ一つで屋敷が幾つもの建つ代物だ。
「おいおい、まさに出来たばっかりって感じだな」
「これだったらコア取って帰れるんじゃないか?」
「報酬は山分けだぜ」
「分かってら」
広さは大したものではない。港の穀物倉庫くらいの大きさだ。
3人は顔を合わせ頷きあうと、中に踏み入れた。
「……ちと薄暗えが、見えるな」
「松明は片手が塞がっちまうからな」
広間のような空間に、ただ柱が何本かあるだけ。中に入っても、それ以外の発見はなかった。
安心して真っ直ぐ進もうとしたところ、先頭の男がビクッと身体を震わせた。
「っ! ――あぶねえ! 落とし穴があるぞ!」
足元をよく見ると、落とし穴のような異質な土色が見えた。周りの土の色と違っていて、明らかに怪しかった。
「んだよ、罠がありやがるのか」
「他にもあるかもしれねえし、一応気を付けた方がいいな」
注意して地面を見てみると、落とし穴のような色合いの地面が、蛇行する蛇のように続いていた。つまり、その場所を蛇行して進めば奥までたどり着けることが推測出来た。
「雑な仕掛けだぜ」
「魔物もいねえようだしな」
「いいからさっさと行っちまおうぜ。後から来たやつと揉めるかもしれねえし」
モノがモノである。血を流す取り合いになるのは分かりきっている。
3人は急ぐことにした。
そして中頃まで進んだ頃だった。
3人が落とし穴だと思っていた地面から、砂が流れる音がした。
その地面は実際に穴であり、その穴から亡者が這い上がって来た。
先頭の男が叫ぶ。
「スケルトンだ! 妙な鎧してやがるぞ!」
一番後ろから悲鳴が上がった。
「何だ!?」
振り返ると、後ろにも亡者がいて、前と後ろで囲まれていた。
気付けば、橋の上にいるかのような地形になっている。
スケルトンを倒すか、穴に飛び降りるしか選択肢はなかった。しかし穴に飛び降りることは出来ない。穴の中がどうなっているのかが暗くて見えない。罠があると考える方が自然だろう。
「――切り抜けるぞ! 所詮、相手はスケルトンだ!」
「おう!」
一般的には、スケルトンと呼ばれる魔物は弱いとされている。だが、3人の探索者の装備はいずれも軽装で、相性が悪かった。スケルトンという魔物は、斬撃は効きづらいが、打撃系に弱い性質がある。強い衝撃を与えると、関節から骨と骨のつながりが失われてバラバラになる。斬撃ではそれが難しい。
「こいつっ!」
数としては前に4体、後ろに4体と少なくはある。
だが、眼の前のスケルトンは妙な鎧を着ていた。簡素な鎧だったが、関節部分を保護しており、明確な打撃武器でないと衝撃が足りない。
「くそっ、槌でも持ってくるんだった――」
足場の悪い中、効果の薄い武器をなんとか振るうも、痛みも恐れもないスケルトンに次第に押し切られ、死者の仲間入りとなった。
-中軽装、4人-
数日立った頃だった。
「ダンジョンがあったぞ!」
4人からなる探索者のグループだった。装備は、剣に槌、弓などバランスが取れていつ。
「まだ誰もたどり着いてないらしいな」
「まあ、あんなとこにあるダンジョンコアを見たらな」
以前の探索者と同じように足を進めるように探索者たちは、これまた同じように土の色に気付き、蛇行して歩いていった。
そして中頃まで進み、スケルトンが這い出てくる。
「スケルトンだ! ガンツ頼むぜ!」
「任せな!」
後方にいたガンツと呼ばれた大柄の男がハンマーを横に振るうと、スケルトンが二体まとめて吹っ飛んだ。
「はっ、軽いぜ!」
小気味のいい音が鳴り、気分が良くなるガンツ。
そんな中、先頭の男が焦った声で呼んだ。
「悪いがっ、前に来れないか!?」
先頭は苦戦していた。先頭の男は剣を持っていて、スケルトンに有効打が与えれていなかった。せめてものと思い切り剣を振るうにも、足場が悪く、上手く力を入れ込めていなかった。
事態を把握したガンツは前に行こうとするが、道幅がそれを許さなかった。
「俺の身体じゃ狭くてキツイ! 一旦入口まで退いてからのが良い!」
「分かった!」
4人は入り口へ向かった。
道中、立ちふさがる残りの2体のスケルトンをガンツが吹き飛ばしたが、
「――なっ」
その動作終わりの隙、穴から出て来た骨の手に引き釣り降ろされた。
「ガンツ!!」
返事の代わりに、穴から肉が何かに刺さった時の音が聞こえた。
「――くそっ! 俺達だけでも退くぞ!」
入り口にすっ飛んだスケルトンが緩やかに組み直され、行く手を挟んだ。
「嘘だろ……」
嘆く中、男の視界の下隅みにやけに白く見える白骨の手が這い上がってきた。
「あぁ……」
探索者たちは、死に掴まれた。
-中級者-
運が悪いとは双方にあるものだった。
初心者が中級者に勝ることは至難である。
しかし、この度ダンジョンに訪れた探索者は中級者からなるグループだった。
「なるほどな。恐らくは――」
洞窟の内部構造を少し見ただけで、罠を理解した。
「この穴は囮だ。罠には違いないが、明らかに誘導するような配置になっている」
「中に何か入ってるってこと?」
「ああ。適当につついてみるか」
穴に向かってハンマーを振り下ろすも、魔物はいなかった。簡素な槍の罠があるだけだった。
「ハズレか」
「そういうことね。ここは出来たばかりなのは間違いなさそうね」
「罠は多いが、魔物は少ない。そういうことだろう」
探索者たちは穴を避け、蛇行した道を進んでいく。
中頃でスケルトンが這い出て来ても、冷静だった。
「手早くやろう」
「了解」
スケルトンを倒してさっさとコアにたどり着いてしまおうという攻略だった。
「こいつ、復活するぞ!」
「何?」
青白い煙に包まれたスケルトンが組み直されていく。
「……そういうことか」
「どうする?」
「これは前に進んだほうが良い。さっさとコアに到達して終わりにしよう。時間かけるとヘマするタイプのやつだ」
「了解」
その時だった。
一見、なんてことはない男がコア付近に現れた。
「ここまで早かったな。思ったよりこの世界の探索者というのは優秀らしい」
「……ボスか?」
「まさか。ただのダンジョンマスターさ」
男がコア触れる。
「これ、中々良い照明だと思わないか? 結構気に入ってるんだ」
コアが消失し、洞窟内は急に真っ暗闇になった。
「っ――」
足場は不自由。道のりはヘビのように曲がりくねっている。視界はない。近くには復活するスケルトンが複数。道を踏み外せば、穴の中で串刺し。
偽りのコアという灯りに誘導されて行き着いた先は、底なしの真っ暗闇だった。
◇◆◇
稼ぎは上々だった。その後も探索者がやって来ては罠にかかっていった。逃さずにきちんと狩り取ることで、情報を持って帰れないようにした。
「り、麟太郎って、エグいのね……」
「いや、殺しに来てる相手に配慮しろってのが無理だろ。日本で普通に過ごしてる時でも、ナイフで襲われたときに自分の手にナイフがあれば使うぞ」
「そういう意味じゃないんだけどね……」
長舟は引いていた。
「それよりそろそろ噂になることだと思うんだよな」
「エグさが?」
「この付近で探索者が消えてるっていう噂だ」
懸念要素だった。
「腕が立つ探索者や、始めから何かあると警戒して情報取りに徹したやつや、単純に人数で押してくるなんてことも考えられる」
「なるほど、ようやく私の出番ってわけね」
ぐっと握りこぶしつくる長舟。
「もちろん、ダンジョン造りでな」
「え、私もそろそろ戦いたい」
「スケルトンに負けていたのにか?」
「次は勝つの!」
特訓なるものに付き合わされたスケルトンは、表情がないはずなのに気まずそうだった。
「だってズルいじゃない! 麟太郎の出番だけあって、私はないのよ! 私もああいうセリフ言ってみたい!」
「今なら好きに言っていいぞ」
「むー!」
話していると、突然、光が溢れた。
目を開けると、クソガキの姿が見えた。
「あれ? まだ生き残ってたんだ? ああ、せこせこと隠れてやり過ごしてたってわけ? まあザコにはそれくらいしか出来ないよねー」
「なんだクソガキ。何しに来やがった」
「別にー? 順調そうかなー? って、こんな初期状態と変わらないカビ生えそうなダンジョンで順調なわけないかーw」
こいつもスケルトンにしてやりたい。
「じゃあ、どれだけポイント稼いだのか見てみようかなー☆ミ」
と言うと、クソガキは手の平から光のメニューのようなものを出した。
「どれどれー?」
にやけた顔が固まった。
「……っは? え、なにこれ」
稼いだポイントは期間から考えるとかなりものだろう。
「なあ、どうだ? 今の気持ち聞かせてくれよ? どんな気持ち? なあ、今どんな気持ち?」
「はあっ? はぁぁぁーーー!? 何か知らないけど、もしかしてまぐれで喜んでるわけ!? バッカじゃないの!?」
「うわーー言い返せてないねえ!? あららー、ザコはどっちだったのか証明出来ちゃったなー!!」
「こんっの、ザコ! クソザコ! 超絶ザコ! ミジンコ級のハイパーウルトラザコ!」
「気持ちぃぃぃぃ!!!!! ザコの遠吠え気持ちぃぃぃ!」
「むっぎぃぃぃいぃぃぁぁあぁああぁああ」
「うひょおおおお」
こいつの悔し顔見るためにやってきた甲斐があった。
ざまあみろ! ざまあみろ!!
「女神様、女神様」
「は? 誰よアンタ」
「忍耐とは努力によってつちかわれるものです。女神様も頑張りましょう! 努力!!」
「うるさいわね! アンタは黙ってなさい!」
「わっ、伸びしろ!」
長舟、……いや、相棒とは気が合うらしい。
死霊ダンジョンへようこそ。~罠ばかりですが楽しんでってください~ さえぐさ @booklbear
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