後編💯💕
◆
今日の私は令嬢らしい格好で伯爵家の馬車に乗り、ココを連れて宝石商の店に向かう。事前の約束がなかったにもかかわらず、宝石商は愛想よく私を出迎えてくれた。ただし頭の上の数字は「35」だけれど。
「突然ごめんなさい。この指輪の石、何の種類かわかるかと思って」
「では鑑定を致します」
「あ、それが、事情があってこの指輪は外してはいけないの」
「はあ……?」
宝石商とココが同時に目を丸くし、理解不能と言う顔をした。宝石商に至っては数字が「33」に下がっている。
「あ、ごめんなさい。素晴らしい鑑定眼をお持ちのこちらのお店なら私が指輪を外さなくてもわかると思ったのだけれど、流石に無理よね。帰りますわ」
「い、いや! 拝見します!」
宝石商の数字は更に下がり、「28」までになった。彼はムキになって私の小指を眺める。
「……こほん、おそらくアメジストだと思いますがこのままでは何とも」
「いえ、それで十分ですわ。流石ですね。私、結婚式の時に身に着ける宝飾品を検討中なのですけれど、こちらのお店なら信用できると思いますわ」
「宝飾品の選定について、ラース侯爵にお口添えいただけると!?」
宝石商の頭の上の数字が「65」までグワーッと上がったのを見て、私は笑いそうになってしまった。
◆
家に戻った私はお菓子を焼いて、翌日に備える。魔女のおばあさんは、この指輪を「一番見たいものが見れる」と言っていた。私は「ミゲル様と仲良くなりたい」と指輪に願ったのだから、多分これは人の気持ちが見れる魔法なのだろう。
頭の上に見える数字は、私に対する好意を表しているのではと予想できた。
「うふふっ」
小指に嵌まった指輪を見つめると、思わず笑みがこぼれてしまう。これがあれば、いつも不機嫌なミゲル様とだっていつかは仲良くなれるかもしれない。頭の上の数字を見ながら、少しでも機嫌が良くなりそうな物や言葉を探っていけば……という希望が湧いたんだもの。
◆
「また来たのかエリナ嬢」
差し入れのお菓子を持参して演習場に行くと、ミゲル様からいつもの迫力あるセリフを聞かされた。普段ならここでびくっとして涙ぐんでしまうのだけど、今日の私はひと味違う。ここでめげずに少しでも仲良くならなくちゃ! と大きな彼を見上げたの。
次の瞬間。
「……せっ?」
私の口から変なイントネーションで疑問の声が漏れた。だって目の前のミゲル様の頭の上に浮かんでいた数字は「1,059」だったのだから。
えっ、これ、せんごじゅうきゅう?
さっきまで余裕綽々だった私は頭の中が真っ白になり、ただミゲル様を見上げるだけになってしまった。と、こちらを睨んでいる彼の頭の上の数字が「1,072」に増える。えっ、一気に13も上がったのだけれど!? 私、何もしていないのに!
完全に想定外の状況に、ただただ私は無言で彼と見つめ合う。するとミゲル様の数字がどんどん増えていく。1,085、1,099、1,117……待って待って、理解が追い付かないわ!
「あ~エリナ嬢!」
またまた横から明るい声が飛んできたので、私のフリーズは解けてホッと息をついた。見ると相変わらずフワフワした雰囲気のフィガロ様が笑顔で近寄ってきている。彼の頭の上の数字は「70」なのを見て、ミゲル様との差の凄さに思わず二人の顔を交互に見てしまう。
「……俺は邪魔だろうから、これで」
「えっ」
突然ミゲル様が変な事を言い出し、その場を離れようとした。頭の上の数字も急速に下がっていく。それでも「1,078」と桁違いなのは変わらないけれど。
「待ってください!」
思わず彼の腕にすがってしまった。今この場を離れてほしくない。だって。
「私、ミゲル様を邪魔だなんて一度も思った事ないです! いつももっとお話ししたいと思っていたのに!」
「えっ!?」
頭の真上からひと際大きい声が降ってきて、私はびくっと彼の腕から手を離した。なんて大胆なことをしちゃったのかしら。はしたない女と思われたかも。
「ご、ごめんなさい……迷惑でしたよね」
恐る恐る見上げると、そこには、真っ赤な顔のミゲル様が。そして頭の上の数字は物凄い勢いでガンガン上がっている。もう「2,782」まで到達……あ、そう思っている間に数字がまた上がって「2,927」に。
ところがその数字と裏腹に、ミゲル様はとんでもないことを言い出した。
「……すまない、エリナ嬢。何か俺は聞き間違えをしたようだ。君が俺のことを怖がっていて、俺と話すのも迷惑だ、と今言ったんだよな?」
あまりにもひどい解釈に、私は即答してしまった。
「全然違います! 正反対です!! わ、私ミゲル様のことが大好きで仲良くなりたくって!!」
「あ、ああああぁ……」
彼は頭を抱えると、大きな体をくしゃくしゃに折る様にしゃがみこみ小さくなった。顔は伏せているけど耳まで真っ赤だし、数字は依然として凄い速さで増えているので、彼が嫌でないことはわかる。そして横でフィガロ様がゲラゲラと笑いだした。
「ほらー、だから言ったろ? エリナ嬢は今までの女の子達とは違うってさ!」
「だから、違うからこそお前が彼女の事を気に入ってると思ってたんだ……」
「馬鹿言うなよ。今まで俺が好きでもないお前の元婚約者たちを慰めて、皆俺になびこうとしたからウンザリしていたのを知ってるくせに。それに俺はこれでも一途なんだよ。ちゃあんと他に心に決めた人が居るのさ」
「そう言う事は先に言え……」
「エリナ嬢と俺が両想いだと勝手に決めつけてたくせに、その事をハッキリ言わなかったお前に言われたくないね」
「……」
黙り込んだミゲル様の背中を、バンバンとフィガロ様が叩く。
「ほら、エリナ嬢が勇気を出して言ってくれたんだからさ、お前もちゃんと言わないと男が廃るってもんだぜ。団員にきちっと見本を見せてくれよ騎士団長様?」
「……」
彼はゆるゆると立ち上がると、私に真正面から向き直った。
「エリナ嬢」
「はっ、はい」
「好きだ。大好きだ。可愛い。初めて見た時から、一目惚れだった」
「えっ!?」
以前の私なら、突然こんな事を言われても信じられなかったに違いない。けれどミゲル様の頭の上の数字は更に急速に上がっていてもう「4,824」にまで到達していた。これは信じざるを得ない。
「初めてって、いつですか?」
「君の従兄弟のジャックの入団式の時だ。彼の祝いに駆けつけてくれたろう?」
「えっ!? わ、私もです……ミゲル様に一目惚れで」
「嘘だろ……メイソン伯爵からは、そんな事は何も聞いていない。てっきり政略結婚で君の意思は無いものかと」
「……ああ……」
お父様をちょっぴり恨みそうになったけれど、冷静に考えればそうよね。「うちの娘が一目惚れしたので縁談を!」なんて言って申し込みをすれば、尻軽娘と誤解される可能性もあるもの。そんな事をわざわざ父親が言わなくても当人同士で打ち明ければいいのだし、その方がずっと仲良くなれるわ。
今、きちんと打ち明けるべきよね?
「本当です。私の意思を汲んで、父がダメもとで婚約の打診をしたんです」
「すまない……俺はなんて事を……今からでも、婚約のやり直しをできるだろうか?」
「やり直しも何も。私達、元々婚約者ですよ」
「ありがとう!! エリナ嬢、愛している!」
感極まった感じのミゲル様が私の左手を取り、両手で包み込んでぎゅっと握った。その瞬間中から「ぽきっ」と小さな音がしたの。
「あっ」
「あっ? 何か、壊してしまったか?」
彼がゆっくりと手を開くと、掌には指輪から外れた薄紫色の宝石が転がっていた。私はミゲル様の頭の上を見る。数字はもう見えない。
「す、すまない! これは修理に出すから……!」
オロオロするミゲル様を見て、私はにっこり微笑んだ。数字が見られないのは残念だけれど、今の彼を見ていれば数字なんて必要ないわきっと。
「ええ。大丈夫です。あと、もしよろしければ別にミゲル様に指輪を選んでほしいです」
「それって……」
「もちろん、一生大事につけるための指輪ですわ」
「エリナ嬢……!」
今度は彼は私をぎゅっと抱きしめてくれた。ちょっと苦しかったけれど、私はその一万倍も幸せだったの。もしも数字が見れるなら、彼の頭の上にはきっと「10,000」を超える数字が出ているだろうなって思えたから。
皆の頭の上に浮かぶ謎の数字、私に冷たい婚約者だけ桁が違うのですが……? 黒星★チーコ @krbsc-k
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